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違う人間関係ができると、なんというか、視界が変わる。


C組の前を通る時に、廊下からクラスの陽キャグループっぽい友人と話している古幡をチラっと見掛けてみたり、


校庭で体育してると、同じく校庭で体育してた一年達の中に、(ひぃ~っっ)て感じで苦手そうにハードル跳ばされてる寿田君を見掛けてみたり、


選択科目の美術も同じだった多岐川さんが奇妙な獣の画を描いていて、


「狸?」


と聞いたら、


「ラーテル」


と真顔で返されたりする。


そんな視界に変わった。



・・・今日は古幡は予備校で来てない。ヤツはどうやら成績良いようだ。


寿田君のバッティングコーチをやってみることにした。


バッティングセンターの今日の俺達以外の客はいつもの主婦っぽい人と、ブラジル人? っぽい人、作業服の2人。


今日は今日で独特な客層だな・・


「手首、肘、肩、腰、膝、足首、顎の位置。一通り繋がってるイメージで柔らかく使ってみたらいいよ。あと寿田君、重心低いからね? 上に持ってくると力入らないから手打ちになって、怪我もし易くなっちゃうし」


「りょ、了解ですっ。な、中矢コーチっ!」


「うむ」


在任8年目くらいの顔で、腕を組み、寿田君の打席を後ろから見守る。


「ふんぬっ!」


フォームが改善された寿田君は軟式ボールを鮮やかに打ち込み、ホームランボードに当てた。


結局、自分は打席に立たず、寿田君のゲームが終わるとロビー戻った。


「ホームランボード当てたんだ」


多岐川さんに感心されつつ、寿田君は1点をカロリーの低い『蒲焼き風駄菓子×5』に交換してもらっていた。


取り敢えず俺も小腹が空いたから海苔おかきを受付で買って(大半の景品は普通に買える)、2人でロビーのベンチに向かった。

俺の飲み物はトマトジュース。


そのままベンチでおかきを食べながら、寿田君と話していると、


「多岐川パイセンっ、遅れましたぁー!」


パワー系競技じゃないけれど鍛えてるらしい、ボブ気味のショートカットのT高女子がロビーに勢いよく入ってきた。

女子は夏服でもループタイの色で何年かわかる(実は男子もスラックスの校章の刺繍の色でわかるんだが、識別難度は高い)。


二年の女子だな。見たことあるような、ないような・・いや、あるな。誰だっけ??


「よ! 寿田っ。え~と?」


どうも寿田君と知り合いらしい。


「でぃ、DMした新入部員っ、さ、三年の中矢拓実先輩。元や、野球部、だって!」


「へぇ~、こんにちは! 二年でチアリーディング部の稲葉小浪(いなばこなみ)ですっ。腰痛めて、リハビリ中ですっ」


元気いいな~。いやしかし、


「おー、でも腰故障したんならバッティングいいの?」


「はい! 軽いバットと遅い球で1ゲームだけっ。私、小学生の時、少年野球に入ってたんですよっ。病院のリハビリ大変だけど、バッティングはスカっとするんでっ!」


ん? 世代的に、被りがあるかもしれんぞ?


「少年野球って、『T丘ボンバーズ』?」


ここらだとそこしかない。


「はい! T丘ボンバーズです! ファーストでしたっ。野球部の中矢先輩って・・もしかして『たっくん先輩』ですか?」


「おーっ、そうそう!」


少年野球の高学年時の後輩にしか呼ばれたことないニックネームだっ。懐い~。


え? 待てよ。5年でファースト・・その世代、女子いたっけ? 稲葉小浪。イナバコナミ。イナバコナミ・・っ?!


うっすらと記憶の中で、女子ならベリーショートと言えないではない髪型の、日焼けした、マッチ棒みたいに細い、元気の良い、後輩の『少年』の姿が浮かんだ。


「えーっ?! 稲葉少年かっ? 君っ??」


大声に多岐川さんがビクッとなった。


「いや、少年じゃないです・・」


困惑する稲葉小浪!


「君、女子だったの?」


「いや、まぁ一応・・」


思い起こせば色々動揺するっ、


「確か、一緒に着替えてたよな??」


「小学生ですしっ! 私、兄と弟がいるんで当時はあまり気にしなかったんですっっ」


少年じゃなかった稲葉さんを赤面させてしまった。


「え、えーっと、と、とにかく稲葉さんもバッティングセンター部の部員ですっ」


寿田君が取り成してくれてるよ。うむ。


「お~。よろしく。中矢拓実です」


「はい。たっくん先輩って呼んでもいいですか?」


「それはちょっと・・」


取り敢えず、俺の呼称は『中矢先輩』で落ち着いた。


経験者だけに1人で打席に向かった稲葉さんは綺麗なフォームだった。


なんとなく流れで受付は多岐川さんのお婆さんに任せ、3人でバッティング場まで来て遠巻きで見ていた。


「稲葉さん、腰、どれくらい悪いんだ?」


古幡は復帰できないレベルだったようだが・・


「年内は無理そうだけど、来春くらいはイケるかも? て。でもスポーツ推薦は諦めて、受験するみたい。予備校も通ってる」


多岐川さんは淡々と応える。


「リハビリ。が、頑張ってるみたいだけど。き、厳しい・・」


ちょっと泣きそうな寿田君。


「そっかぁ、俺、夏休み入ったらあんま来れそうにないけど、寿田君。元々仲間だろうけど気に掛けてやってくれよ。少年野球の後輩だったんだ」


野球部弱かったけどチアの応援もたまにはあったし・・


「は、はいっ!」


「それより2人、電車大丈夫? 小浪は今日、バスだよ?」


「「あっ」」


リアル部活組より早く、直帰組の下校時間からもズレるから、電車1本逃すと俺らは結構ややこしいっ。

寿田君は自転車だが、俺が徒歩だから帰りは押してもらってる。面目無い・・


「じゃっ、また明日!」


「そ、それじゃっ」


俺と寿田君は慌ててバッティングセンターを後にする。


帰り際に一度振り返った時の一瞬真剣になる稲葉さんの横顔は、少年野球時代の無邪気ばっかりだけじゃない現実に向き合う力強さがあったな・・



で、翌日。学校。


当番でパソコン室の片付けを手伝って、教室に戻るのが1人になったタイミングで、1階の中庭に面した廊下で女子の友達と話して笑ってる稲葉さんが目に付いた。


「笑い方は小学生の時と変わらないな」


と、目が合って手を振られてしまった。ギョッとしてしまった俺は軽く手を振り返して、そそくさと廊下の窓の無い辺りまで避難した。


「あ~、びっくりした」


「何が?」


「?!」


いきなり多岐川さんが廊下にいたっ。


「えーっ? 多岐川さんなんで?!」


「備品のタッチペン教室まで持っていっちゃったから。なにびっくりしたの中矢君?」


「なにも!先生まだパソコン室いるからっ、どうぞどうぞっ!」


俺は多岐川さんの背中を押してパソコン室に入ってもらった。


焦った~っ。

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