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高校三年。夏の大会の初戦でサックリ負け、俺の野球部ライフは終了した。


ゲームセット。


「・・はぁ」


放課後、進路が専門学校で彼女もいない俺は暇だった。


他の三年部員は塾か予備校か彼女か、弱くてもそこそこボリュームはあった体育部の反動でやたら遊びまくるか、バイトか、あるいはしつこく部に通って後輩に指導しだすか、


といったところ。


バイトは考えてるが、他からあぶれた俺は放課後学校にいてもしょうがないので、校門から出てはみたが行く所が無くて呆然としてしまう。


急に仕事辞めたサラリーマンもこんな感じ?


そんなことを考えつつ、陽炎が立つ中、ぼんやり駅とは反対方向に歩いてみた。


野球部なんで日差し耐性ある。


あ、ここのコンビニ潰れてる。


ベーカリーあるな。食パン1斤900円? ひょえ~。まぁ美味いんだろうけど、だったら定食か、なんか肉食べたいな・・


この公園、こんな感じか。同じ高校のカップル多いな。チッ。


住宅街の建て売り区画似た家ばっかし。


お? この犬、賢そう。


うげっ、側溝で『ゴキさん』が一匹干からびてる・・


「ふふ」


意外と散歩、楽しい件。坊主頭が微妙に伸びて『タワシ』みたいになった髪が風にそよぐのもいい感じ。


バイトは夏休み入ってからにして、しばらくは父に一眼レフカメラでも借りて街の写真とか撮って回ろっかなぁ。


そんなことを考えていると、


「お」


目当てというワケでもないが、一応目指してはいたバッティングセンターのネットが見えてきた。


野球部だが、実は行ったことない。理由は『練習で散々打ってるから』。同じ三年部員でここに通ってるヤツ、聞いたことない。


それでも卒業までには行ってみるつもりだった。今がその時だ!


「ソテツ・・」


敷地に入って、施設の入り口手前の土が剥き出しな場所に、ドーンっ! とソテツの木が植えてあった。


「南国感出したかった??」


よくプロ野球チームが南国でキャンプしてるからかな?


戸惑いつつ、中へ。

うおっ、ボーリング場みたいなニオイがする・・


ロビーはファミレスの入り口とカラオケボックスの受付を合わせたような? 昭和感が強い。


取り敢えず受付だ。床のワックスがキレキレだな。逆に危なくないか? キュッキュッしてるぜ。


「あの・・」


「えっ? 中矢拓実(なかやたくみ)!」


座って高校の教材? を広げていた、受付の女性従業員からのフルネーム呼びっ! ん? 聞いたことあるような声だな??


「え~と・・多岐川(たきがわ)さん?」


そうだ。コンビニ店員みたいな制服着て、髪を下ろし、もっさりした太縁眼鏡を掛けているが同じクラスの多岐川菜々美(ななみ)だ。確か帰宅部だったような?


「ここでバイトしてたんだ」


「いや・・ここのオーナーが私の叔父さんで、まぁその、帰宅部だから」


「ああ・・」


なんか、時間の使い方と動きの理屈が帰宅部的だな、と。


「俺も部活引退して暇だったんで。あ、高校生、1枚。お願いします」


「いや、そういうシステムじゃないから」


要領を得ない俺は、多岐川さんからバッティングセンターのシステムを教わり、10ゲーム分のカードを1枚買った。


学割利いてもいい値段したが、10回通える。10回、通うのか? 俺?? 一番少ないカードがコレだったんだよな。

300円で1ゲーム(40球)もできるようだけど、それは打席のとこの機械にコイン入れるだけみたいで、受付で買うとなると最小がコレ。


なんなら「カード買うの?」と多岐川さんに聞かれたけど、全体的によくわかってなかったぜ・・


カードを買い、バットを借りてバッティング場エリアに入る。


客は3人。初老のオジサン1人。主婦? っぽい人。年齢不詳の背の高い男性客。


大体イメージ通りの客層。と思いつつ空いてる打席に向かうワケだが、


「なに?」


なぜか付いてきてる多岐川さん。受付は??


「中矢君さ、野球部だよね?『ホームランボード』ばっかし当てないでね?」


「あ~」


なんか的に当てたら景品! なシステムがあるようだ。実際、『ホームラン』と書かれたボードが打席の先のネットの『左、真ん中、右』の3ヶ所にあった。あれか・・


「いや、弱小部だし」


やんわり苦笑いで躱したつもりが、結局打席の裏まで付いてくる多岐川さん。


受付どーなってるか覗いてみたら、制服着た謎のお婆さんが代わりに座ってた。さっきどこにいたんだろ??


「じゃあ、やってみるけど? ハハ」


打撃コーチ? てくらいの距離で見てる多岐川さん気になるっ。


とにかくカードを入れて1ゲームの操作をした。


打席に立ってバットを握ると、辞めていくらも立ってないのにもう懐かしかった。


専門学校行くってことはもう野球やらないってこと。社会人になって草野球はやるかもしれないが、どうだろ? もう一生試合は無い可能性は低くない。


少年野球から、ずっと。色々あった。キツかったり、嫌なこともあったし、結局大して上手くもならなかった。


でも、


稼働しだすピッチングマシン!


俺、野球好きだったなっ!


放たれた白球!!


(うぉおおりゃあああーーっっっ!!!)


内心、めちゃ本気でフルスイングっ! 打ち返された打球はホームランボードの1つに命中し、


ピロピロピ~! とレトロゲーム的な軽い音楽が流れた。


「しゃっ」


「中矢君」


「?!」


振り返ると据わった目の多岐川さん。


「ハッ、ハハ。次からは軽く」


そもそも野球的には『結構変な位置(ショボいセンターフライにしかならないと思う)』に置かれてるホームランボードを狙うのもそこそこ難しい。


結局、残り39球で3回しかホームランボードに当てられなかった。


「しっかり4回当てたよね?」


お婆さん従業員と代わった受付で、


『濃いタイプの緑茶缶とカルシウム入りビスケットとマスコットキャラクターのバッジと3色ボールペン』


1つずつ景品に出す多岐川さん。


「いやぁ、当たるもんだね。でも10点で『大きいぬいぐるみ』とかもらえるんだ」


「原価! 原価を考えてねっ、野球部の人っ!」


「ハハハ」


クレーム入れたられつつ、ロビーのベンチでお茶を飲みつつビスケット食べてみた。『ビスケット』自体、小学生ぶりくらいだな。


「・・・」


うん、普通。予想通りの味。ま、悪くない。マスコットキャラクターはあんまり可愛くないな。鞄に付けてやるか。ボールペンはよく見るとここのバッティングセンターの名前が入れてある。


「ふふん」


なんかいい。と、受付で、他に客が来ないから座ってまたタブレットでたぶん漫画を読みだした、髪型と眼鏡の違う微妙な制服着てる多岐川さんと、目が合った。


「景品は開けたらもう交換しないから」


「いやいや違う違う」


誤解だっ。


取り敢えず夏休みまでまだ少しある。打席カード使いきるまで、通ってみよっかな?

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