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恋バナ  作者: 佐月 水奏
1/2

SIDE chikage

初めまして。思い付きと勢いだけで書きました。

よろしくお願いいたします。

うわぁ~…好みドンピシャの声だ…


彼の声を初めて聞いた時、心臓が跳ねた。

同期で営業に配属された野間(のま)祐丞(ゆうすけ)くん。

いつも経費の書類をちゃんと期日を守って出してくれる彼は、経理の私からするとありがたい営業さんである。

たまにうっかりミスで領収書をつけ忘れた時も、急いで届けに来てちゃんと謝ってくれる。なんて良い人。(他の営業が横柄だとかそういうことでは………多少はある。)


たまに聞こえてくるその声に、顔には出さず心で盛大に悶える私は変態そのものである。

耳元で囁かれたりしたら…と想像すると、腰砕けになる自信しかない。


そもそも営業部からすると、経費のことであれこれ細かく注意してくる神経質な経理部の地味子である私は女としては見られていないだろう。

それで良いのだ。

こんな変態染みた地味子は目立たない方が良い。

ただ、彼の声を聞く度に一人でキュンキュンして楽しむくらいの潤いが日常にあるくらいは許して欲しい。

業務に追われつつ、片想いの相手の声に心を潤してもらうのが、地味子の私、早間千景(はやまちかげ)の日常である。



今日は久しぶりの女子会だ。

集まったのは私も含め同期の三人。

入社の時に仲良くなったけれど、部署がバラけているので、なかなか飲む機会がないため、話す内容はだいたい近況報告になり…その内に恋バナに寄っていくのは女子会だからなのか…


「フェチってあるじゃない?私は結構、男の人の手が好きかもしれない…ネクタイを緩める時の手の形とか好きなんだけど…」


と、明らかに酔っている感じで話し始める同期で営業事務の樋浦実咲(ひうらみさき)


「え?それはノロケ?彼氏の手が好きって話し?」


美咲の話題を茶化す同じく同期で人事部の松本(まつもと)朋恵(ともえ)。確かに今現在この三人の中で彼氏持ちなのは実咲だけだ。


「いや、そういうんじゃ………いや、確かに比較的好みの手ではあるか…」

「肯定するんかい。」


思案する実咲につっこみつつ、ビールをあおる朋恵。


「フェチねぇ…考えたことないけど…う~ん…」


と、朋恵は考え込む。

実咲は黙ってレモンサワーを飲んでいた私に話題を振ってくる。


「千景は?何かある?」


「う~ん…強いて言うなら…声かなぁ…?好みの声で謝られたら何でも許しちゃいそう。」

「あ~、声フェチは多いよね~。」

「確かに、好みの声はあるよね。」


冗談交じりの私の答えに頷く実咲と朋恵。

その反応に気を良くした私は言葉を続ける。


「営業さんって話し慣れてるからか声良い人多いよね。」

「あ~、電話の印象良くするのに良い声無意識に出してるかもね~…」

「えらい塩な意見ね。」


営業事務の実咲の感想に朋恵が笑う。

営業のフォローに日々追われている実咲にとっては同僚は塩対応の相手らしい。

まぁ、彼氏さんも別の会社の人だし、社内恋愛には興味がなさそうだ。


「で、千景の好みの声の人はいるの?うちの営業に?」


にこにこしながら実咲が訊いてくる。

………あれ?私なんか墓穴掘った?


「………ん?」


誤魔化すように首をかしげる私に、実咲は興味津々に尋ねてくる。


「経理部のあんたの上司もなかなかの良いお声の持ち主なのに、それよりも先に営業の話が出てきたから、好みの誰かがいるんだろうなって。」


まぁ、確かにうちの課長も低音の良い声だ。

私の好みはもう少し高めの声なので明るい声音で話す営業部の面々を思い出したのだけれど…

確かに、気になっている彼の声が最初に思い浮かんだことは否定出来ない…


「誰?同期?秋山?佐々木?」


実咲は身を乗り出して訊いてくる。

その隣でふと思い出したように朋恵が呟く。


「そう言えば、こないだ野間が千景の字がキレイだって褒めてたわ。」

「えっ?!」


不意に出てきた名前にびっくりして思わず出た声が裏返ってしまう。

その反応に二人はしたり顔で頷く。


「野間か…」

「なるほど…」

「………っ……あのっ…声が好みだって話で、そのっ…あのっ…」


取り繕おうとするけれど、更に墓穴を掘っているのが自分でもわかって、両手で顔を覆って項垂れる。

たぶん、顔だけじゃなく耳まで赤くなっているだろう。


「う~…だって、好みどストライクなんだよぅ…」

「謝られたら何でも許しちゃう?」


頬杖をついてニヤニヤしながら問う朋恵に酔った勢いでとんでもないことを口走っていた少し前の私を呪う。

ホント、酒が入ってる時の恋バナは危険だ…


「声が好みってだけで、どうこうなろうとは思ってないの~…」


観念して、テーブルに突っ伏す。

そんな私の頭を撫でてくる実咲。


「そうね。奥ゆかしいからね、千景は。」

「でも、あっちの好感度も悪くないんじゃない?」

「良いだろうね。字がキレイなんて話題に上がるくらいなら。今度、飲み会でもする?」

「ムリ!変なこと口走ったら恥ずか死ぬ!」


つい大きな声で反応してしまう。

酒が入ってまたとんでもないことを口走ったらどうするのよ?!

変態扱いされて会社での事務連絡に支障が出たら困る!

テンパる私を、実咲はからかいの目で見つつ、お手洗いに行くと席を立つ。

私の後ろのテーブル席が視界に入った実咲はそこでふと動きを止めた。


「え…野間…?」


実咲の呟きに私の思考も動きも止まる。

ありゃ、と近くにいるはずの朋恵の声が遠くで聞こえる。

錆び付いたロボットのような動きで振り返ると困った表情の彼がいた。

………終わった…


どうやら他の営業の同期と男三人で飲んでいたようで、彼らの表情を見ると、こちらの話は筒抜けだったようで…

秋山くんと佐々木くんはニヤニヤしながら野間くんを見てるし、野間くんは私と目を合わせないように上の方を見ている。

………終わった…これは、間違いなく痴女認定された…

いたたまれない私と周りに漂う微妙な空気…


「とりあえず、一旦、店出るか。」


と、朋恵の一声で二グループ共に会計を済ませる。

店を出たもののいたたまれない私は顔を上げられず、ただただうつむくしかない。

そんな私の隣に押しやられた野間くんと二人、みんなの後ろに着いていくように駅への道を歩く。


ううぅ…ごめん。ごめんよ、野間くん。気を遣わせてしまって…本当に申し訳ない…良いんだよ、きっぱりさっぱりすっぱり振っていただいて…


黙々と歩きながら頭の中では彼への謝罪を延々と繰り広げる。

前を歩くみんなが角を曲がった時、くいっと腕を引かれて立ち止まる。

顔を上げると私の腕を掴んだ野間くんが私を見ていた。


「あ、あの…さ…」


言いにくそうに言葉に詰まる彼の声も良いとか、変態ちっくなことを考えながら次の言葉を待つ。

お酒のせいか、いまいち現実感が感じられない私の耳元に口を寄せて彼が囁く。


「俺の声が好みって…ホント…?」


その瞬間、頭が真っ白になって、膝からかくんっと崩れ落ちる。

腰砕けになった私を慌てて支えてくれる野間くんの胸にもたれ掛かることになって思考が止まる。

身体全部が心臓になったみたいにドクンドクンと鼓動が響く。

今、絶対、私の顔、耳や首まで真っ赤だ。

答えるまでもなく身体が反応した私を野間くんがそのまま抱き込む。


「やべ…嬉しい…」


抱き締められていることに気付いて離れようとするも、力が入らなくてふわふわする。

………あれ?今…嬉しいって聞こえた…?キモいじゃなくて…?


「俺…早間さんのこと、ずっと好きだったから…今、めちゃくちゃ浮かれてる………ごめんね。もう離してあげられないかも…」


耳元で謝る彼の告白に、私は許す以外の選択肢を見付けられそうにない。


電話をかけまくる営業さんはいい声の人多いなぁ…という思い付きだけで書きました。

最後までお付き合いいただきありがとうございます。

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