26.夏休みの思い出 02
「じゃ、じゃあ、ここはこれで終わり、かな?」
少し残念に思いながら、ボクがそう言うと、グイード君は安堵の表情を浮かべて地面に座り込んだ。
その時、ボクの諦めの言葉を遮るように、澄んだ声が響いた。
「わ、私はやるわ!」
そう言ったのは、シルヴァーナちゃんだった。
ベアトリーチェちゃんとフェデリカちゃんは慌てて「シルヴァーナ様!」と叫びながら止めようとするが、それを聞かずに、シルヴァーナちゃんはスタート地点へと向かう。
ボクも慌てて止めようとするが、シルヴァーナちゃんはボクの方をキッと睨みつける。
もう止まらない。
坂を登り、ターザンロープの前に立った。
緊張しながらロープにしがみ付くと、小さな体で一生懸命飛び出そうとする。
そして……。
「きゃ!」
助走が足りなかったのか、恐怖で体が固まったのか、ロープに結ばれた足枷から足が滑り落ち、彼女は宙に投げ出されるように落下し始めた。
「シルヴァーナちゃん!」
ボクは、考えるよりも早く動いた。
身体を覆うように風の魔力を極限まで圧縮し、風をまとってその場を飛ぶと、ネットの上に落ちる寸前のシルヴァーナちゃんを、そっと抱きとめた。
抱きとめた感触は、柔らかく、温かかった。
そのままボクは飛翔して、心配そうに見守っていた三人の元に戻る。
地面に足を着け、シルヴァーナちゃんをそっと降ろすと、彼女は地面に立ち、真っ赤になっている。
そして、すぐに左右から二人に睨まれる。
「な、なんてことを!だから言ったのです!危険ですと、それにシルヴァーナ様に勝手に触れるなど、言語道断ッ!」
「そうですわ!私のシルヴァーナ様を勝手に抱きとめるなんて、なんともうらやま……死刑確定ですわ!」
ボクは咄嗟の行動とはいえ、またしても彼女たちを怒らせるはめになってしまった。
シルヴァーナちゃんの顔も真っ赤だ。
かなり怒ってるのだろう。
「ご、ごめんね」
ボクはきまり悪くなり、顔を俯かせた。
気まずい空気の中、アスレチックは終了となった。
ボクは、この空気を変えなければと思い、予定を繰り上げる。
「じゃ、じゃあ、苺ハウスに行こうか!甘い苺が食べられるんだよ!」
ボクの提案に、空気と化していたグイード君が「苺?行く!」とすぐに反応したことで、重い空気は少し和らいだ。
アスレチックから歩いて数分。
森の中に突如として現れる、巨大なガラス張りのハウス。
年中、新鮮で真っ赤な苺が食べられるように、母様とカーリーおじさんが魔法の力も借りて管理している、特別な場所だ。
ハウスの中に入ると、暖かくて甘い香りが満ちていた。
グイード君は興奮しながら、美味しそうな真っ赤な苺を物色し、夢中で頬張った。
ボクも少しだけ苺を食べた。
口の中に広がる優しい甘さが、先ほどの失敗で沈んだ気持ちを少しだけ癒してくれるようだった。
ふと周りを見る。
さっきまでボクを睨みつけていた三人も、その美味しさに、はしゃぎながら苺を食べていた。
その様子に、ボクもホッと胸を撫で下ろした。
苺を摘みながら、みんなで穏やかな時間が過ぎていった。
「こ、これも美味しいわよ!」
唐突に、シルヴァーナちゃんの声がボクの耳元に届いた。
振り向くと、シルヴァーナちゃんが指で摘まむようにして持っていた、ひときわ大きく真っ赤な苺が目に映る。
「あっ、ありがとう!」
ボクに向けられて差し出されたそれを、そのままパクリと食べた。
ボクがパクリとした瞬間、シルヴァーナちゃんは勢いよく手を引っ込めた。
ボクはその様子を眺めながら、「美味しいな」と笑顔になった。
目の前のシルヴァーナちゃんは、赤みを帯びていた顔がさらに真っ赤になり、口をパクパクさせている
ボクは、また何かやらかしちゃったかな?そう思った。
シルヴァーナちゃんは、突然小さな声を上げると、一目散に走ってハウスからでていってしまった。
ベアトリーチェちゃんとフェデリカちゃんは、ボクの顔と、シルヴァーナちゃんの逃げていった出口を交互に見つめ、ボクを怖い顔で睨み、そして出ていってしまった。
「また失敗……」
ボクは何が悪かったのかと考えながら、深いため息をついた。
それから数分、暫く待ってもシルヴァーナちゃんは戻ってはこなかった。
隣で両手に苺をもってぱくついていたグイード君は、「まあ、恥ずかしかったんだろ?」と言いながら、また次の苺を物色していた。
「恥ずかしかったって、何が恥ずかしかったの?」
そう言うボクに、グイード君がため息を返してきたので、きっとボクが悪いのだろうと考え、謝らなきゃとハウスを後にした。
グイード君と一緒に、ハウスを出ると、広場の方へと戻る。
焼き場の前では、母様がボクを見て、ニコニコと笑みを浮かべている。
「まったく、カイも罪な男ねぇ」
ボクには、母様のその言葉に、やっぱり何か悪いことをしてしまったのかと慌ててしまう。
焼き場の端では、シルヴァーナちゃんが木のベンチに座り足をブラブラさせながら、頬を押さえ笑顔を見せている。
その両隣には、不機嫌そうな顔で彼女にぴったりとくっつくようにして座っている、ベアトリーチェちゃんとフェデリカちゃんがいた。
「また嫌われちゃったのかな?」
そんなことを考え、ボクの心はまた沈んでしまう。
そして、自分がシルヴァーナちゃんと仲良くなりたいと強く願っているこの感情が、なんでなのかもわからず困惑する中、ティナさんの用意した苺のパンケーキに、甘いメープルシロップをかけ、口に運んでいた。
「なあ、これ食ったらどうする?」
パンケーキを食べ終わったグイード君が、指を舐めながら聞いてきた。
「え、うーん、どうしよう? 魔物でも狩る?」
ボクはこの周辺に生息する大猿さんや蛇さんを思い浮かべ聞いてみる。
「は? 何言ってんだよ、ここは強い冒険者だって入ってこれない森なんだろ? 危ないだろ?」
混乱気味のグイード君。
「大丈夫だよ? ボク一人でもこの近くなら負けないし。 でも、心配なら父様かカーリーおじさんに着いてきてもらう?」
「あ、うん、誰かが一緒の方がいいかな」
苦笑いするグイード君に、あまり乗り気じゃないのかな?と考えてしまった。
狩りの他は何をしたら良いんだろう?
アスレチックやいちご狩りが思いのほか早く終わってしまったため、次なるもてなしを考え頭を捻る。
「ねえ」
そんな声が聞こえ視線を向ける。
「狩り、するの?」
座っているボクを見降ろしながらそう言ったのはシルヴァーナちゃんだった。
両隣には、未だに不機嫌そうな2人も立っている。
「そう思ったんだけど、グイード君もあまり乗り気じゃないみたいだし、そうしようかなって……」
その言葉と同時に、シルヴァーナちゃんの目が鋭くなる。
「ひっ!」
悲鳴を上げたのはその鋭い視線で睨まれたグイード君だった。
「魔物を狩れば強くなれるのよ! こんなチャンス、滅多にないんだから!」
「わ、分かってるよ。 俺も、乗り気じゃないわけないだろ? なあカイ、俺は大賛成だよ。 うん。 早く狩りに行きたいなー」
シルヴァーナちゃんの言葉に慌ててそう返すグイード君。
「そっか、ごめんねグイード君。 勘違いしちゃった」
「お、おお。 ダメだぞカイ。 俺は、狩り好きだからな。 ……誰か一緒なんだろ?」
熱いのか汗を流しそう言うグイード君。
「うん。 じゃあ……カーリーおじさんに聞いてくるね。 シルヴァーナちゃんたちも行くってことでいいんだよね?」
「え、ええ! もちろんご一緒しますわ!」
シルヴァーナちゃんの返答に、挽回のチャンスが来たと嬉しくなったボクは、何やら宴会芸のような事をしているカーリーおじさんの方へと急いだ。
そうして、予想外のトラブルもあった夏休みの一日の後半戦が幕を開けた。
次回、白熱のバトル回?
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