25.夏休みの思い出 01
初夏の強い日差しが、森の木漏れ日となって地面に縞模様を描いている。
グイード君だけだと思っていたボクは、王様たちに先生、何よりシルヴァーナちゃんたちがいることに戸惑っていた。。
父様とディーゴさん、そしてロンドおじさんは、まだ朝だと言うのにお酒を呑んでいるようだ。
エレオノーレ先生とカーリーおじさんが、母様の特製バーベキューグリルを囲んで寛いでいる。
母様は焼き網の肉を反しながら、王妃様や侍女さんと楽しそうにお喋りしている。
政治や外交の堅苦しい空気は一切なく、ただの親戚の集まりのような雰囲気だった。
「じゃあ、ボクらは友達のところへ行ってくるから!」
兄様はそう言って、姉様と共に、足早にいってしまった。
「じゃあ、アスレチックにでも行く?」
ボクがそう言うと、グイード君は興奮気味に声を上げていた。
かなり楽しみにしていたらしい。
アスレチックは母様が子供の時に修行の為と作った物だった。
徐々に難易度は上がったと言っているけど、ボクとしては小さいころからの遊び場で、すでに物足りなくなっていた。
それでも普通の人には危険だと言うカーリーおじさんの助言を聞いて、父様と母様と一緒に、グイード君でも楽しめるように大改造を施したのだった。
「これぐらいなら子供でも楽に楽しめるわね!」
改造を終えた母様は、両手を腰に当てて胸を張り、自信満々に言っていた。
ボクも同じように、グイード君が安全に、そして楽しく遊べるはずだと達成感を感じて今日を楽しみにしていた。
五人でアスレチックの入り口に移動すると、まずその規模の大きさに四人は声を失った。
森の木々を利用し、巨大な障害物やロープが、広範囲にわたって複雑に張り巡らされている。
ボクにとっては見慣れた景色だが、初めて見る四人にとっては、まるで巨大な秘密基地のようだろう。
グイード君は目を丸くし、シルヴァーナちゃんはポカンと口を開け、ベアトリーチェちゃんとフェデリカちゃんは、警戒するように目を細めている。
「秘密基地みたいですごいでしょ?じゃあ、誰から行く?」
ボクは四人を促し、笑顔で言った。
「みんな、行かないの?」
反応を示さない四人を見て、まずは見本が必要なのかな?そう思ったボクはスタート地点に立った。
「じゃあ。軽くやってみるね?」
そう言って、最初の障害物である急な坂をトントンと飛ぶように昇る。
普段はほぼ垂直に近い角度だが、昨日、父様と一緒に土を盛って傾斜を緩やかにしていた。
ボクは、分かりやすいように、その障害物の設置された坂をあえてゆっくりと駆け上る。
そして頂上からターザンロープに飛び移る。
普段は、助走をつけないとたどり着けないほど離れた位置にあるが、これも父様が支柱の位置を動かして距離を縮めた。
ボクはロープを掴むと、一気に飛び出し、着地点に軽やかに着地する。
「ボクは使わなかったけど、これがあれば楽にできるよね?」
四人に向かって昨日取り付けたロープの先の足置きを見せる。
次は、池の上を進むセクションだ。
普段は左右に立ててある垂直の板を蹴るようにして進むけど、少し角度をつけてあるので簡単だろう。
ボクは、軽々と板を蹴りながら池を渡り終え、その結果に満足した。
そして折り返し地点。
網の上を走るセクションだ。
普段は足がすり抜けてしまうほど網目が粗いが、昨日の作業で網の目を普段の半分、10センチ間隔に詰めたのだ。
「これなら楽々だよね?」
ボクは網の上をスキップするように走り抜ける。
最後のセクションは、突き出た杭の間を、ロープをまたいだりくぐったりしながら進むエリアだ。
杭の数は半分、ロープの高低差は少なくしてあった。
そして、柱の装置に設置されている魔石に魔力は補充されていないので、不用意に杭やロープが攻撃してくることもないのだ。
ボクは鼻歌交じりで一周してスタート地点に戻ってくると、四人は無言でボクを出迎えていた。
ボクは首を傾げた。
みんなが楽しそうに歓声をあげてくれると思ったのにと。
先に口を開いたのはグイード君だった。
「こんなの無理だって!」
グイード君は目を剥き、そう叫んだ。
ボクは慌てて彼を宥めようとする。
「え、どうして?やってみたら意外と簡単だから、ほら、ロープの下には落下しても大丈夫なようにネットも設置したんだよ?」
ボクが指さしたのは、池や、特に危険な箇所の真下に丁寧に張られた頑丈なネットだ。
父様が、万が一に足を滑らせても大丈夫なようにと設置してくれたものだ。
「無理にきまってますわ!」
フェデリカちゃんがそう言って、ボクに詰め寄ってくる。
その顔は、不安に満ちていた。
「そうですわ!それに、こんな危険なもの、シルヴァーナ様がけがでもされたらどうするつもり!」
ベアトリーチェちゃんも鋭い視線でボクに迫ってくる。
ボクは彼女たちの勢いに押され、言葉に詰まる。
確かに、ベアトリーチェちゃんたちの言う通り、シルヴァーナちゃんに怪我をさせるわけにはいかない。
「そ、そうだよね。シルヴァーナちゃんは危ないから、今日は見学かな?」
勢いに任せてそう言うと、シルヴァーナちゃんは唇を尖らせて、ちょっとすねるような表情をした。
その時、ボクの顔色を窺うようにしたグイード君が、意を決したように言った。
「お、俺は、行ってみる、かな?」
まるで逃げるようにスタート地点へ行ってしまった。
彼なりの気遣いだったのだろう。
場の空気を変えようと、自ら挑戦を買って出たのだ。
グイード君は、必死の形相で坂を登り、ターザンロープへとたどり着いた。
ロープを掴み、勢いよく飛び出したものの、着地点に降りられず、彼は終着点の場所でロープしがみついたまま、動けなくなってしまった。
「グイード様、お助けしますね」
見かねたカーリーおじさんが、飛翔して彼の元へ向かい、グイード君を優しく抱きかかえて降ろしてくれた。
カーリーおじさんは、苦笑いしながらボクに言った。
「カイ様。御学友の皆様には、もう少し簡単な方がよろしかったようですね」
「そ、そうみたいだね」
ボクは、カーリーおじさんの言葉に苦笑いして頬を掻いた。
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