20.初めての運動会 04
運動会当日。
ボクは少し緊張しながら開会式を迎えた。
姉様に教わった必勝法はあれから毎日練習を重ねたことにより、今はドキドキしなくなって……はいないけど、なんとか支えて走ることができるようになった。
借り物競争と〇×クイズについては特に対策は考えることはできなかった。工作競争については夜に母様から教わった折り紙を1人でやってみたけど、それが練習になっているかは分からない。
だからこそ、あれだけ練習した4人5脚だけは優勝したいなと思っている。
そんなことを考えながら校長先生の長い話を聞いているけど、眠気を感じて堪えるのに苦労した。
「カイくん、今日は本番なのでしっかりしがみつくからね!勘違いしないでよ?あくまでも勝つためなんだから!だから、カイ君もしっかり支えて走ってね!」
ボクの隣に並んでいるシルヴァーナちゃんから耳打ちされる。
顔を離し前を向く真っ赤な顔のシルヴァーナちゃんを見て、これは優勝しなきゃすごく怒られそうだなって思った。
長い話の後はラジオ体操。
練習した甲斐もあり、みんな間違えずに踊れているようだ。
ボクもしっかりと体をほぐしてゆく。
そんなボクの腕にはすでに見慣れた魔封じの腕輪が装着されている。朝のホームルームで配られたものだけど、最近はずっとつけていたから違和感が全くない。
ラジオ体操が終わると、それぞれのテントに戻り一休み。これから100メートル走から順に競技が進んでゆく予定だ。
ボクは出ることができないからみんなの応援に専念した。
グイードもシルヴァーナちゃんも1位をとることができたようだ。B組以下は身体強化も使っているけどあまり強化はされていないようだ。5年生の走っている様子を見たボクは、確かにボクが出れないのが理解できた。
5年生の1位になった人は10秒ぐらいなので、魔法を使わないボクの倍ぐらいかかっている。それでは見ている人達もつまらないだろう。でも、出れないボクもつまらないのにな。
そう思って少しだけ頬を膨らませてみる。
「ふぁっ……」
不意にすぐそばから声が聞こえる。
「ご、ごめんなさい……あんまりカイ君がかわぃ……」
小さな声でそういうのは真っ赤な顔のカルラちゃんだ。
普段から大人しいカルラちゃんが小声でそんなことを言うから最後の方は良く聞こえなかった。
カルラちゃんはあまり運動が得意じゃないようで、100メートル走でも最後にゴールしていた。
「カルラちゃんは次、何に出るの?」
「え、私?」
何気なく聞いてみたボクに目をパチパチさせて戸惑うカルラちゃん。
「私が出るのは、〇×ゲームと工作競争だから〇×ゲームの方が早いかな?」
「そうなんだ!じゃあボクと一緒だね」
「うん。私、座学の方が好きだから、でも〇×ゲームって勉強したものばかりじゃないんだって。雑学とか、先生のこととか」
「そうなの?ボク、できるかなー?」
ボクは森に住んでるからあまり常識的なことが分かっていないのは自分でも感じている。
「大丈夫だよ。ただの学校の行事だよ?成績にも関係ないんだって」
「でもやっぱり勝ちたいよね!」
「えっ?あ、そう、だよね。じゃあ私も頑張るね」
「うん!一緒に頑張ろう!」
ボクは笑みを向けてくれるカルラちゃんに笑みを返した。
ちょっと友達っぽい感じじゃない?そう思うと自然と頬が緩んでしまっただけだけどね。
「あー、ちょっとカルラさん?カイくん借りていいかしら?」
「えっ、あ、はい!シルヴァーナ様!もちろんです!」
そう言って立ち上がると逃げるように他の友達の元へ走って行ったカルラちゃん。
「シルヴァーナちゃん?」
何の用事なのか聞きたかったボクの言葉に、シルヴァーナちゃんは返事をくれなかった。
「シルヴァーナちゃん?」
もう一度聞き返すボク。
シルヴァーナちゃんは何かを考えているように難しい顔をしている。
「あっ、そうだわ!カイ君、4人5脚の時なんだけど……その、練習の時より強く抱きついて、じゃなくて、しがみ付いてもいいかしら?その、痛かったり苦しかったりは、しませんの?それを確認しておきたくて……」
「大丈夫だよ?もっとグイって抱きついても全然平気。その方がボクも早く走れるし!」
「そう、ですのね」
「うん。そうだよ!」
「そう、なら良いのですわ……」
シルヴァーナちゃんは頬を掻きながら会話を終了させると、ボクの隣に腰を下ろした。
それからボクは無言で大玉転がしを眺めた後、グイードが出る予定の玉入れが始まるのを待った。それと同時に、何も予定が無かったはずのグイードが戻ってきていないことに気付いてしまう。
キョロキョロと周りを見回すと、グイードがやや離れた場所に座っていたが、ボクと目が合うと気まずそうな表情をした後、両手を顔の前で合わせて頭を下げていた。
その隣にはシルヴァーナちゃんの御付きの2人が座っていたので、どうやらあの2人と仲良くおしゃべりしたかったのだろう。
ボクはグイードに笑顔を返しておいた。
そういうのには敏感なボクだから。きっとグイードは2人に恋をしてることが分かってしまったから。
ボクも協力しなきゃ。そう思いつつ玉入れに向かうグイード達を見送った。
「カイ君、私も玉入れに出るので行きますわね!応援、してくれるかしら?」
「うん、もちろんだよ!頑張ってね、シルヴァーナちゃん!」
「が、頑張りますわ!ふふふふ……」
嬉しそうに笑うシルヴァーナちゃんが顔を赤くする。
どうやら気合が入っているようだ。
そんなシルヴァーナちゃんも見送った後、ボクは一人座って競技を眺めつづける。体が固まっちゃいそうに感じて伸びをする。さらには立ち上がって体をほぐす。そんなことをしている間に1年生の玉入れが終わった。
「やった、一等賞だ!良かったなー」
そう呟き結果に喜びつつ、一人な自分に少しだけ悲しくなってしまった。
「カイ君!勝ちましたわ!」
少し落ち込んだボクの元に、御付きの2人を連れたシルヴァーナちゃんが走って戻ってきた。
「うん見てたよ!凄かったね!」
「ふふん!当然ですわ!」
腕の前で両手を組んでいるシルヴァーナちゃんを見て、少しだけ心が楽しくなって弾んでいた。
「カイ君は〇×クイズに出るのでしたわね!」
「そうなんだー。三人は出ないよね?」
「ええそうよ!私があれに出たら大変なことになってしまうから!カイ君も、精々頑張ってくることね!」
「うん!ありがとうシルヴァーナちゃん!」
ボクはシルヴァーナちゃんの声援を受け、会場の方へと走って行った。
途中でグイードを見つけると、またもすまなそうに頭を下げてくる。
「グイード、頑張ってね!」
「へ?いや、うん頑張る、ぞ?」
突然のボクの声援に戸惑っているグイード。
ボクには2人への気持ちがバレていないと思っていたのだろう。
そんなグイードの反応に、ボクは上機嫌になってスタート地点の列へと並んだ。
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