19.初めての運動会 03
「じゃあ2人とも、よーい、はじめ!」
2度目の姉様の合図により走り出したボク。
「残念」
ボクは目の前にいたはずの兄様の姿を見失い、背後から現れた兄様により攻撃を受けた。
「痛ったー!」
なんとか腕をまわし首の後ろにクロスする形でその攻撃を受け、その衝撃と一緒に転がるように距離を取るが、腕がジンジンと痛む。
「さっきのカイの動きを真似てみだぞ?」
「うー」
兄様の言葉に口をとがらせる。
「まだだもんね!」
再び走り出したボクは、またも兄様の姿が見えなくなった直後、背後に向かって回し蹴りを放つ。
「ぐほっ!」
それは兄様のお腹にクリーンヒットしたようで、お腹を押さえながらトントンと片足だけで距離を取る兄様。
「やるな、カイ」
「リクが単純すぎるのよ。同じ攻撃がカイに当たるわけないでしょ?」
姉様がそう言っているが、確かに森ではこんなに簡単に攻撃を当てられなかったはずだと思い出す。
「くっそ、最近は弱い連中とばかり戦ってたから、体が鈍ってるかもな。やっぱカイは強いな。よし、もう一回だ!」
「うん」
ボクは兄様の褒め言葉に嬉しくなり、すぐに駆け出した。
「うわっちょっ!」
まだ身構えていなかった兄様に今度は正面から攻撃を繰り出す。
その拳は受け流され体勢を崩されそうになるが、右足をバンと踏ん張り踏みとどまると、そのまま下から拳を突き上げる。
「うひゃ!」
兄様が後ろに体をそらし躱すのでそのままの勢いで回し蹴り。
その足は兄様に難なく掴まれたようでぐるりと回され視界が反転。
「うわー!」
ぐるりと回され放り投げられたボクは、慌ててバランスを取ってなんとか地面に手をつき反転、着地することができた。
「カイも攻撃が素直過ぎるだよな。やっぱ俺の弟だな」
「そうね。流れのままに攻撃すると読めちゃうから……今度の週末、私がフェイントの仕方を教えてあげるわ」
「姉様、お願いします」
ボクは姉様の前に立って頭を下げると、姉様はボクの頭をナデナデしてくれた。
「なんだか動き足りないな。カイ、もう一回やらないか?」
「えっ、うん、いいけど」
ボクは兄様の提案に頷くが、視界の端にシルヴァーナちゃんがいることに気が付いた。
ボクの視線に気づいたシルヴァーナちゃんは、こちらへ歩いてくる。
左右にはいつもの2人も一緒だ。
「カイ君、それにリク様とソラ様も、何をなさっているのですか?」
「ああ、シルヴァーナちゃん、兄様と少し組手してたんだよ」
ボクの言葉にシルヴァーナちゃんは「組手?」と首を傾げる。
「やあ、シル様は今日も可愛いね。痛っ!」
兄様が姉様に蹴られていた。
「ごきげんよう、シル様。私達も練習なしなので暇だったんです。それでカイと一緒に暇潰しをしてたんですよ」
「そうだったのでね。私達も練習が一段落しましたので、カイ君と別の練習をしようと思って来てみましたのです」
「あら、そうなの?」
「はい、カイ君とは4人5脚にでますので、その練習にと思ったのですが、お邪魔でしたでしょうか?」
シルヴァーナちゃんの言葉に姉様は「へー、ほー」と何やら考えている。
「シル様、私達もそれには出るので、優勝は諦めて頂きますが、その代わりと言っては何ですが秘策を伝授致します。如何でしょうか?」
「秘策?ですか?」
「はい。私達もそれを使いますので、正々堂々決勝戦で勝負、しませんか?」
「かしこまりました!でも、私達だって負けませんわよ!」
姉様の提案にシルヴァーナちゃんが闘志を燃やしている。
でも、運動会では一緒の組だから勝負に勝ったところで得点は変わらないんだけどね?それよりも秘策ってなんだろう。
「当日は魔法は使えないから、カイはそのまま腕輪つけててね。思わず身体強化使っちゃうかもだから」
「分かったけど、いったい何をやるの?」
ボクの質問には答えない姉様。
シルヴァーナちゃんのところに行って耳打ちをしている。
姉様の話を聞いたシルヴァーナちゃんの顔がみるみる赤くなってゆく。
「姉様?シルヴァーナちゃんに何を言ったの?」
「それは今から分かるから、じゃあシル様、覚悟はいいですね!」
「は、はい!」
そう言って姿勢を正す真っ赤な顔のシルヴァーナちゃん。
両隣の2人も同様に真っ赤な顔をしているので不安が込みあがってくる。
もしかしたら変な格好そさせられるのか?恥ずかしいのは嫌だな。母様達も見に来るのに。そう考えている間に、ボクの両隣にはシルヴァーナちゃんとベアトリーチェちゃんがいて足を結んでいた。
シルヴァーナちゃんの反対側にはフェデリカちゃんが、同じようにしゃがんで恥ずかしそうに紐を結んでいる。
「じゃあシル様、他のお二方も!準備は良いですね!」
「「「はい!」」」
姉様の号令に3人が声を揃えて返答していた。
「じゃあカイ、めいっぱい足を踏ん張って耐えるのよ!」
「え?あ、うん」
戸惑うボクの首にシルヴァーナちゃんのガシっと腕がまわされる。
「え、ちょっと、シルヴァーナちゃん?」
ボクの声に返事は無かったが、その代わりに背中には大きな負荷がかかる。
そして、柔らかいものがボクの背中に押し付けられ、混乱する僕は、さらに反対側から腕が回されさらに混乱する。
「カイ、頑張って!」
ボクは何が何だか分からないけど体を固くして仁王立ちした。
左右と後ろから柔らかくて、そして周りから良い匂いがする中、ボクは思わず瞑ってしまっていた目を開ける。
ボクの左右にはベアトリーチェちゃんとフェデリカちゃんが目を瞑ってしがみついてきている。
多分だけど背中にある柔らかい感触はシルヴァーナちゃんの物だろう。
ボクの顔のすぐそばは目を瞑って真っ赤な顔をした2人がいて、2人から暖かい息を吹きかけられている。
「うわっ、なんで、わわわっ!」
混乱したボクは、体のバランスを保ってられずに倒れてしまう。
「痛ったーい!」
背後にいるシルヴァーナちゃんの声が聞こえ、慌てて姉様がやってきて紐を解いてくれた。
「カイ、ダメじゃない!3人ぐらい担いででも歩かなきゃ!」
「そ、そんな事言ったってー!びっくりしちゃったんだもん!」
ボクは、そう言いながら起き上がり、地面に寝転んだままの3人を見ていた。
姉様はすぐに聖魔石のペンダントを取り出し、3人には光が飛んで傷を治しているようだ。
「これは、練習が必要ね。後、練習はペンダントをつけてやりなさい。倒れたら紐を解いてくれる人も確保してね」
「うっ、分かったけど、本当にやるの?」
そう言ってまだ倒れている3人を見る。
ベアトリーチェちゃんとフェデリカちゃんは運動服に着いた土を払いながら起き上がるが、シルヴァーナちゃんは寝ころんだまま顔を両手で押さえている。
「練習が、必要ですわ!まずはカイ君に、だ、だ、抱きつくのに、慣れることが必要ですわね!これも勝つため!必要なことですわ!そうです、必要なことなので、もっと時間を作って練習が必要ですわ!」
そう言いながら、寝そべったまま丸まってしまったシルヴァーナちゃんの耳は真っ赤に染まっていた。
それを見ていた姉様は満足そうに頷いている。
兄様はため息をついていた。
御付きの2人はモジモジしている。
ボクはどうして良いのか分からずオロオロしていたが、すぐ後にやってきたグイードにより事なきを得た。
グイードがやってきたことに気付いたシルヴァーナちゃんが何事も無かったかのように起き上がり、兄様達に頭を下げた後、足早に寮へと帰って行ったからだ。
こうして、今日の練習時間を終えたボクは、夜になってその話を母様に伝えると、『まあ頑張んなさい!』と激励されので、取り敢えず頑張ることにした。
まずは、3人に抱きつかれてもドキドキしないようにしなきゃ!そう思いながら布団にくるまり眠りについた。
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