12.初めての迷宮探索 02
本日2本目です。ニコちゃん本編の方が一二三書房さんの一次選考を通ったようで、感謝を込めてもう一本投稿しておきます。
迷宮にはボクとグイード、そして兄様と姉様が残っている。
「どうする、カイ」
兄様がそう聞くので、グイードにも顔を向けると、震える両足を叩く様にして気合を入れたグイードから「もう少し付き合ってもらえますか?」という言葉が返ってきた。
「よし、安全第一で無理せず行こう!」
「そうしましょう。今度は私達も少しは手助けするけど、カイならここは余裕かな?」
ボクは黙って頷くと前を向きグイードと並ぶようにして先へと進んだ。
「ひー!」
8階層まで進んだボク達は、グイードが悲鳴を上げながらも迫りくるウルフやゴブリン、スライムを倒していた。
負担にならないように群れのほとんどを魔法を解禁した僕が石礫を飛ばし排除していった。
何度も悲鳴を上げながらも目の前の魔物を切り倒してゆくグイードを見て、ボクも頑張らなきゃと改めて思った。
お昼も過ぎた頃、疲労困憊な様子のグイードを通路の袋小路に座らせ、バッグから昼食にと食堂で頼んだお弁当を取り出し食べ始める。
兄様達も用意していたお弁当を取り出し美味しそうに食べ始めた。
グイードにも収納しておいた弁当を渡すと、震える声でお礼を口にして弁当は開けた。
今日は焼肉弁当なので美味しそうなお肉の匂いにお腹が鳴った。
それを聞いてフヘヘと笑うグイードは、ゆっくりだが弁当を食べ始めた。
やっぱり進みすぎたかな?と思ったが、魔物を倒し終わった後で疲れた笑みを浮かべつつも魔石を拾い集めるグイードを見て、もっと先まで、と思ってつい足が速くなってしまった。
「俺も魔石を集めて自分の装備を買いたい!」
そう言うグイードの目は燃えていた。
今は燃え尽きたような目をしているが。
「食べ終わったらもう少し進んでみるか?10階層をクリアすると移動も楽になるし」
「そうね。待機部屋に転移できるのは便利よ?」
兄様達の助言に、グイードを見る。
「はい!できればそこまで進めるようにお願いします!」
グイードはまだまだやる気の様だ。
食事を終えると、少しの休憩を挟み再度進み始める。
少し慣れてきたのか悲鳴の回数が減ったグイードだが、その顔は必至の形相といったところだろうか?
「よし!ここを降りると間に待機部屋がある」
そう言われて下りた階段の途中に、10メートル四方程の空間があり、その中央にはうっすらと魔法陣の光が見えていた。
「ここで転移するには魔石を置くか魔力を流せば良いよ。今まで行った階層なら念じただけで魔法陣のある場所に転移できる。2人は今はここか入り口だけだけどな」
その説明をなるほどと思いながら聞いていた。
「じゃあどうする?試しに下に降りてみるか?」
「11階層からは大きな蛇とか、吸血蝙蝠とか、後は大きなネズミとか。あと猛牛とかも出てくるから、稼ぐならその牛狙いかな?」
姉様の言葉にグイードが「牛!」と声を上げ目を輝かせている。
どうやら低級層で稼ぐなら牛狙いが一番効率が良いようだ。
かなりの確率でドロップするお肉は銅貨5~6枚で買い取りされるし、何より旨いらしい。
グイードの要望もあり少しだけ下りてみることにした。
11階層に降りると、少し歩くと早速大蛇の魔物が3体こちらにシュルシュルと向かってきた。
この大きさでもスモールバイパーと言うらしい。
確かに森の、<ビッグバイパー>を思い出すと、大きさがそれほどでもないサイズだった。
それでも、グイードにとっては初めての大型の魔物。
またも悲鳴を発しながらもその剣はかろうじて大蛇の首を叩きつぶしていた。
「すごいよグイード!」
ボクはそう言いながら風の刃で残りの2匹の首を切り落としていた。
少し大きくなった魔石と共に落ちた牙と蛇皮をグイードが回収する。
ふへへと変な笑い声をあげながら回収する姿を見て、本当に大丈夫なのかな?と心配してしまう。
その後も蛇の他にも集団で飛び回る蝙蝠や、でぷっとした大きなネズミの群れを倒し続けるボク達。
そして遂に牛の群れを見つけ、奇声を発しながら向かってゆくグイードを大急ぎで追いかける。
手早く2体の頭をカチ割ったグイード。
グイードの成長が早すぎて怖い。
ボクはそう思いながらグイードのすぐ傍まで迫ってきていた牛の首を切り落としていた。
そしてさらに剣を振り回しながら地道に猛牛を倒してゆくグイードと、確実に風の刃で仕留めてゆくボクにより、あっと言う間に10頭の猛牛を倒し終える。
お肉は6つ、牛皮と猛牛の角が1つずつドロップした。
ボクは今までと同じようにドロップ品をグイードに譲るが、お肉だけは1ブロック貰っておいた。
母様と父様のお土産にしたかった。
「やった!やったどー!」
剣を掲げ喜んでいるグイードを見ながらホッと胸をなでおろす。
グイードに迫っていた猛牛は、もう少し仕留めるのが遅れたら大怪我したかもしれなかったと思っていた。
実際は兄様がすでに石礫を待機せてすぐそばを浮遊させていたので、カイが仕留めなくても大丈夫ではあったのだが、それには気付いてはいなかった。
そんな中、近くを通った冒険者達が近づいてきた。
「よう。ガキどもがはしゃいで何やってんだ」
「そうだぞ。ここはガキがくるような階層じゃねー。さっさと帰ってママのおっぱい吸ってろよ!」
そのセリフを聞いて思わず吹き出そうになる。
母様が書いていたくれた物語にそんなセリフが書いてあった。
その後、そのセリフを言った人達は主人公にボコボコにされちゃてるんだよな。
そんあ事を思い出し頬が緩みっぱなしになるボクは、同じように母様の物語を読んだハズの兄様達が肩を震わせていたのを確認した。
「邪魔だからとっとと帰れよ!それとも俺様達に狩られてみるか?」
そう言って男達の中の1人が一歩前に出ると、納めていた腰に装備した剣の柄に手を伸ばす。
「やるのか三下」
兄様が声を震わせそう言うが、口元はヒクヒクと笑いをこらえるのに必死のようだった。
「なに!」
そう言って兄様達を見た男は顔を強張らせる。
「じ、神雷の2人じゃねーか!なんでこんなところに……」
ジンライ?首を傾げるボクだったが、兄様が「その名で呼ぶな!」と叫んでいた。
ジンライって兄様達の二つ名!
そう思ったボクのテンションが上がってゆく。
「この子、私の大事な弟のカイって言うの。よーく顔を覚えておいてね。そしてこっちはカイのお友達。ね?」
ボクの肩に手を置いてそう言いながら男達にほほ笑む姉様。
だがその目は笑っていないように見える。
ボクはこういう時の姉様には逆らわないことにしている。
「わ、わかった。理解した。その弟君も規格外の強さなんだろ?顔も覚えたし、もう二度と迷惑はかけねーよ」
そう言って男達は頭を下げてくる。
「お前達さー。相手が弱いと思ったら絡むの辞めたら?かっこ悪いよ?」
兄様の言葉にくっと顔を歪ませる男達。
「まあどうでも良いけど、カイに何かあったらお母様は黙ってないわね。カイのこと本当に大事にしてるし」
「分かってる!二度と迷惑はかけない!勘弁してくれ!」
何度も頭を下げる男達を見て、やっぱり兄様達は強いんだなと思った。
男達は11階層から上がる階段の方に逃げるように走り去って行ってしまった。
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