11.初めての迷宮探索 01
お休みの朝、グイードが部屋にやってきた。
「迷宮行こうぜ!」
そう言って王都の迷宮探索に誘うので、朝食を食べてから危なくない範囲で行ってみようと部屋を出る。
食堂で食事を終えたボク達は、学校内にある武器管理室に許可を貰って入ると、貸し出し用の様々な武器や防具が並んでいた。
やっぱり剣かな?そう思って各種の剣が並んでいる辺りを物色していると、背後から声がかけられた。
「ぐ、偶然ね!これから冒険にでも出るのかしら?」
振り向くとシルヴァーナちゃんとその御付きの2人が立っている。
「あ、シルヴァーナちゃん。そうなんだ。グイードと一緒に迷宮に行ってみようと思って」
「あらそうなの?じゃあ、私達も御一緒して良いかしら?」
「えっ、シルヴァーナちゃん達も?」
ボクはすぐに返答ができなくてグイードの方を向くと、グイードはこちらを伺うように見ていた。
「まー良いんじゃねーの?人数いた方が安全だし、でもシルヴァーナ様はともかく、後ろの2人は戦えるのか?」
グイードの言葉に反応して、2人が睨みつけるように顔を歪めながら前に出る。
「私達はシルヴァーナ様の護衛も兼ねておりますのよ!剣の腕には自信がありますの!」
「私だって、シルヴァーナ様を守る盾として、日々鍛錬を続けて参りましたのよ!」
2人の圧にグイードがたじろぎながら「じゃあ良いんじゃないか?」と首を縦に振っている。
武器管理室の入り口ではいつもの護衛さんと侍女さんが覗いているし、大丈夫だろう。
そう思って一緒に迷宮に入ることにした。
「お、カイ、お前達も迷宮か?」
その声を聞き、ボクは笑顔で顔を向ける。
「兄様!姉様!」
2人の登場に嬉しくなって声をかけると、笑顔を返してくれた姉様はシルヴァーナの前へと移動する。
「これはシルヴァーナ様、カイがいつもお世話になっております。カイの姉、ソラと申します」
姉様が胸に左手を当て膝をつき頭を下げる。
「兄のリクです。よろしく女王様」
兄様は軽く頭を下げるが、それを見て姉様が兄様のすねを蹴っていた。
「カイ君のお兄様とお姉様ですね。ここは小学校、身分の差は関係ありませんので、シル、とお呼びください。お二方は先輩ですので」
「それではシル様と」
「じゃあシルちゃん……シル様と」
姉様が再度丁寧に頭を下げ、首の後ろに両手を組んだ兄様の軽口をまた足で牽制して言い直させている姉様。
2人の様子を見て笑顔を見せるシルヴァーナを見て、ボクには見せてくれない顔だなと思ってモヤっとした。
「そう言えば、カイくんも、私のことはシルって呼んで良いのよ?」
少し顔を赤くしたシルヴァーナがそう言うが、少し恥ずかしくなって黙って頷いていた。
「初めて迷宮に入るんだろ?俺達ついてこうか?」
「そうよ。私達は20階層ぐらいは何度も入っているし、手は出さないけどもしもの時は手助けするわ?」
その言葉にボクも顔がほころぶ。
兄様と姉様にボクの雄姿が見せられる!そう思って頷くが、一人じゃないことを思い出し周りを確認する。
「よろしくお願いします!ソラ様、リク様」
シルヴァーナがそう言っているので問題ないだろうと安堵した。
兄様達は自前のバッグに装備を収納しているというのでボク達は急いで武器を選別する。
ボクはオーソドックスな剣と動きやすい胸当てだけを選ぶと、重そうな大剣を握り悩んでいるグイードに視線を向ける。
「やっぱ重すぎるな」
そう呟いて少し大きめの長剣を選んだグイードは、ボクと同じような胸当てと、手甲を選んだようだ。
シルヴァーナと御付きの2人は自前の装備があるようで、剣や盾、ローブに鎧などを取り出すと装備していた。
ボクも自分の装備が欲しくなったので、来週は母様におねだりしてみようと考えた。
「じゃあ行こうか」
兄様がそう言うと、王都のギルドで受け付けをして迷宮へと入ってゆく。
初めての迷宮に心臓がドキドキと脈打ち、落ち着くために深呼吸してみる。
気づけばシルヴァーナ達もグイードも同じように深呼吸していた。
そんなシルヴァーナと目が合うと、顔を赤くしてプイっとそっぽを向かれてしまった。
「ここから俺達は手出しはしない。スライムやゴブリンが弱いが、群れで迫ってくるとケガすることだってある。気を付けて行くように」
真面目にそう言う兄様に皆が頷いた。
まずはシルヴァーナを中心に、その前に盾持ちの御付きの人、名をベアトリーチェというようだ。
シルヴァーナの背後には細剣を手にしたもう一人の御付きの人、フェデリカが後ろを警戒している。
ボクとグイードはベアトリーチェの少し前に左右に分かれて布陣した。
その後ろから兄様達、さらに後ろに護衛兵と侍女さんがいるので、背後は警戒しなくては良いと思うがこれがベストだという御付きの2人の圧に従いこのまま進むことになった。
しばらく進むとゴブリンの群れと遭遇する。
森の上級者向けの魔物とは比べ物にならない魔物に落ち着きながら観察するが、他の面々は緊張した面持ちで見ているようだ。
「じゃあ、まずはボクとグイードで倒してみようか?」
「お、おお」
緊張した声で返答するグイード。
先行するように飛び出したボクがゴブリンを2体纏めて切り伏せる。
小さな魔石が2つ落ちる。
ここのゴブリンは稀に牙と臭い腰当を落とすようだが、それらを拾うつもりはない。
グイードもボクの動きを見て少し緊張が解けたのか、どりゃー!という掛け声と共にゴブリンの1体の脳天から剣を振り下ろし倒していた。
魔石と一緒に腰当ても出たが、目線がそれを追っている。
もしかしたら回収しようか迷っているのだろうか?
そんなことを考えている間に、シルヴァーナが何かを叫んでいる。
「『水の精霊よ、敵を切り裂け!<水流の刃>!』
手に持つ短い杖から水が飛び出しそれが刃の形となってゴブリン達を切り裂いてゆく。
もう一度同じ詠唱をするシルヴァーナにより、残りのゴブリンが全て倒されていた。
「どう?杖があれば私だって短縮詠唱で魔法を飛ばせるのよ!」
「すごいねシルヴァーナちゃん!」
ボクは素直にそれを褒めると、シルヴァーナはまた顔を赤くしてうつむいていた。
「きゃっ!」
突然背後にいたフェデリカの悲鳴が聞こえた。
そちらに目を向けると、群れからはぐれたのか1体のワイルドウルフと言う狼の魔物がフェデリカの前で唸っていた。
兄様達は迷宮の壁際に寄ってその狼をスルーしていたようだ。
確かに手は出さないって言ったけど、そういう感じなんだね?と少し戸惑った。
唸る狼を前にしたフェデリカは足を震わせている。
それにつられるようにシルヴァーナもベアトリーチェも身を固くしているようだ。
ボクは石礫を飛ばし、その狼の眉間を貫いた。
煌めく様にして消えた狼からは魔石と毛皮がドロップしていた。
「みんな、大丈夫?」
そう言ってシルヴァーナの傍まで移動すると、シルヴァーナは泣き顔をこちらに向け胸に飛び込んできた。
「シルヴァーナ様!」
ベアトリーチェがようやく再起動したようで、ボクからシルヴァーナを引き剥がそうと引っ張った。
それに反応して体を離すと後ろを向いて顔をぬぐっている様子のシルヴァーナ。
「び、びっくりしてしまっただけよ!恥ずかしいところを見せたわ!今日は、これで帰るから、後はご自由になさって下さい!」
こちらを向かずにそう言うシルヴァーナが、返事を待たずに入り口に向かって歩き出す。
危ないから護衛を、と思ったが既に護衛兵と侍女さんが傍まで来ていたので心配は無いだろうと見送った。
護衛兵からは相変わらずにらまれてしまったが、侍女さんからは深々とお辞儀をされたので、ボクも同じように頭を下げて見送った。
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