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第2話 王位継承のごたごた

「生き生きしているねえ、ディー」

「ようやく仕事ができるようになったんですもの」


件の騒動から3日経った日。フェデリカはラヴィニアと王宮の食堂で食事をしていた。官吏服を着た女性は少なく、混みあった食堂の中、ラヴィニアとフェデリカの周りだけがぽっかり空いている。話を聞かれる心配がないので逆に好都合だ。


「それならいいや。ヴァッレが代わりに大変そうだけど」

「申し訳ないとは思っているわ。今年の人事は目が回るほど忙しかったでしょうに、仕事を増やしてしまって」

「あー。私も、研修で回ってた時、内務だけは行きたくないって思った」

「今年だけよ、普段はあんなに忙しくないわ。あんなことがあったのだもの」

「まーねー」


あんなこと、というのは王太子の——いや、元王太子の婚約破棄だ。婚約者だった公爵令嬢との婚約破棄を公衆の面前で告げた元王太子は、ありもしない公爵令嬢の罪を並べ立てて己を正当化し、子爵令嬢を新たな婚約者にすると宣言したのだ。フェデリカは途中で退出したので最後までは見ていないが、元王太子とその恋人が公爵令嬢に論破されていたところまでは知っている。何なら元王太子の恋人は、元妹だ。


「ねぇディー、呼び出しかかったってほんと?」

「......どうでしょうね?」


フェデリカは無二の友人の問いに笑みを返した。

この1か月で婚約破棄騒動の後処理はすべて終了した。ところが新たな王太子を据えるという段階で問題が生じた。


王位継承権第1位、若き王弟が王嗣の座を辞退したのだ。


貴族たちは思わぬ事態に動揺した。

家系図を紐解くと、王家の人間は実に少ない。3代前の国王の弟2人が反逆を起こしたためにその御代から側室制度がなくなったことに加え、戦争と疫病が2代前の王の時に起こり、多くの王侯貴族が倒れた。現王のはとこに類される貴族が候補となったが、今度は頭数が多い。下級貴族や老齢の貴族、素行に問題のある人物を省き、生家を継ぐことを望む者たちが辞退して、両手で数えられるほどに候補が減ったのだが、どうしてかフェデリカもそのひとりに含まれた。恐らくは官吏学科を好成績で卒業しているためだろう。辞退するつもりだったが、アンヌンツィアータ本家の従兄4人が、面倒くさいから騎士爵位を継ぐ、というふざけた理由で放り出してしまい、王家に叛意ないことを示すためにひとりくらいは、と思っていたらしい叔母が慌てに慌て、フェデリカに辞退しないでくれと頼みこんできたので辞退もできずにいる。

――という話をすることは躊躇われたのでただ笑った。


「――なぁんで王弟殿下は国王の座を辞退したんだろうね?」

「ヴィー、お口を噤みましょうね」

「はぁい」


ラヴィニアは天才だが、元平民であり、まだ16歳なこともあって、危機感が薄い。

手のかかる友人と、その友人に懸想する生真面目で嘘がつけない友人が夫婦になったらどうなることやら。

フェデリカは心の中で心配した。




財務省に戻り書類審査を進める。財務省の仕事は主に国庫の管理、経済政策、税制の把握。今年は王太子の婚約破棄の煽りを食らって数人の官吏が辞職した上、フェデリカが自滅に追い込んだ官吏のお仲間たちがあまりに使えないので、仕事はかなり溜まっていた。


「――アンヌンツィアータ三等官、そろそろ帰りなさい」

「ルアルディ次官」


促されて時計を見ると、既にとっぷり日は暮れていた。


「申し訳ありません。以後自己管理に努めます」

「仕事をしてくれるのは嬉しいのだけれど、無理は禁物だからね」


柔く微笑むルアルディ次官は、以前フェデリカとの艶聞を完膚なきまでに叩き潰した張本人だ。手を打つ前に打たれてしまって、面白くないと思ったことを覚えている。おかげで早くあの官吏を追い出せはしたのだけれど。


「アンヌンツィアータ三等官」

「はい」

「君は、王位に興味があるかい?」

「は?」


思わず目を見開いた。頭の中で素早く計算を巡らせ、謙虚にふるまうことにする。


「まさか、そんな。王位など、一介の伯爵令嬢である私には荷が重いことです」

「そうかな? 君は随分と優秀な官吏だ。官吏学科での成績も悪くなかった」

「他に適任の方がおられるでしょう。私がなろうとは思いません」


飽くまで微笑んで言うと、そうかい、とルアルディ次官も穏やかに答えた。


「変なことを聞いてしまったね。元老会で君の名前が挙がったから、君の意見を聞いておきたくて」

「いえ、お気になさらず。ですが、もし私の意見を聞き入れてくださるなら、官吏として働き続けたいと思います」

「あぁ、君は在学中に語学成績が常に首位だったね。どうして外務にいかなかったんだい?」

「私も外務を希望したのですが、生憎書類選考で落とされてしまいました」

「書類選考で落とされた? 君がかい?」

「はい」


なんとなく、原因はわかる。


「残念ですが仕方ありません。財務の仕事も楽しくしておりますので、私は満足です」

「......そうかい。いや、唐突に失礼なことを聞いたね。今日はよく休むように」

「はい。失礼いたします」


財務室を辞して邸宅に戻る。風呂に入ってベッドに横になると、すぐに睡魔が襲ってきた。




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