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「ちょっとトイレ行ってくるね。」
菫は足早にトイレに駆けていった。
用を足しに行ったのではないことはすぐに分かった。
さっきからずっと腕を殴っていたから、多分切りたいんだろう。
私もリスカをしているが、そこまで深くは切ったことがない。
怖い。ただそれだけ。臆病者だと嘲笑われても言い返すことなんて出来やしない。
30分ほど経っただろうか。
まだ菫は帰ってこない。
心配になり、公衆トイレに入る。
「菫ちゃん、大丈夫?」
「ゆうちゃん、」
鍵を開けてくれたと思ったら、赤に染まった腕が目に飛び込んできた。
「…こんなに深く切って痛くないの?」
「熱い。痛くはないよ。でもやりすぎたみたい。」
脂肪まで見えている腕。
グロい、本当に。
「病院行ったほうがいいよ、絶対。」
「お金ないし保険証だって無い。病院行ったら通報される。」
菫は頑なに拒否した。
仕方がない。家庭の事情があるから。
首が急に熱くなった。
床に滴る鮮やかな赤。
「は、?」
「一緒に死の。生きてても仕方ないでしょ。」
血で染まったカッターで、菫は首を切った。
初めて会った子とこの場所で死ぬ?
待て待て、笑えない。
死にたくない、だなんて言えないのが悔しい。
時間が経つにつれて、段々と意識が遠のく。
一瞬で死ねないのか、少しがっかりした。
苦しんで死なないといけない。
最悪だ。
神はどこまで私を追い詰めるんだ。
寒い冬の日。
私と菫は失血死した。
誰も幸せになれなかった。