第四話:出会いはありきたり
タオルでしっかり拭いたはずなのに、
しっとりとしたシャツがじわじわと体温を奪っていく。
菖蒲さんは忙しなく、それでも朗らかにお風呂場へ進んでいった。
廊下の奥にある大きな引き戸を開け、
「着替えは適当に用意しとくから、タオルはそこにあるの使って!」
と言いながら、背中を軽く押してきた。
そのままパタパタと足音を響かせて戻っていってしまう。
お風呂場の戸を開けた瞬間、湿った湯気と石鹸の匂いが流れ出した。
脱衣所の籠には、見慣れない小さなタオルと制服のような服が入っている。
(……俺のじゃないよな?)
戸惑いながら足を踏み入れたとき、奥の扉が音を立てて開いた。
「――きゃっ!」
反射的に顔を上げると、湯気の向こうに少女がいた。
濡れた髪をタオルで押さえ、驚いたように目を見開いている。
白い湯気の中で、その瞳だけがはっきりとこちらを射抜いていた。
(……誰だ?)
一瞬の沈黙。
次の瞬間、少女は頬を赤く染め、
「ちょ、ちょっと! 人がいるって言ってよ!!」
と叫びながらタオルを抱えて奥へ駆け戻った。
湯気だけが取り残され、俺はその中で立ち尽くした。
「……まじかよ。初日からこれか。」
壁越しに、スリッパの音と誰かの怒ったような声が遠ざかっていく。
やがて、廊下の向こうから祖母の明るい声が聞こえた。
「あらまぁ、清和! 先に入っちゃったのねぇ! 紹介がまだだったわ!」
――こうして、代田真夏と俺は、最悪な形で出会った。




