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真夏のカリステギア  作者: 伽耶


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第十三話:風の少女

歩いていくと、大きな庚申塔こうしんとうと小さなお地蔵様が据えられたT字路に出た。

風雨に削られた石の肌は白く、赤い前掛けだけが妙に鮮やかだ。

未だにちゃんと信仰があるのかビニールに包まれたお饅頭とワンカップのお酒がお供えされている。


そこを右手に折れると、視界が一気に開ける。


大きな校庭。

その奥に、二面だけのテニスコート。


――そして、それらにまるで付属品みたいに寄り添う、

こじんまりとしたニ階建の校舎が建っていた。


(……うわぁ)


分かってはいた。

町立で、話によれば一学年一クラスの中学校だ。


けれど実物を前にすると、言葉を失う。


塗装が剥げかけた謎のモニュメント。

石彫りで刻まれた、


『町立 鷲巣中学校』


の文字。


威圧感だけは、妙にある。


校門の前で立ち尽くしたまま、しばらく動けなかった。


夏休み前とはいえ、こんな早朝に人の気配があるはずもない。

聞こえるのは、近くの田んぼを流れる水の音と、

遠くで鳴くキジバトの声だけだった。


――確かに以前通っていた中学校は、都内の私立だ。

設備は新しく、

景観重視なのか校門や昇降口には季節の花が過剰なほど植えられていた。


ここは、真逆だ。


飾らない。

隠そうともしない。

「ここは学校、学舎まなびやです」とだけ無骨に主張している。


そんな空気。


「……何かご用ですか?」


不意に声をかけられ、肩が跳ねた。


振り向くと、

自転車を降りたジャージ姿の女子が、こちらを見ていた。

黒い髪を襟元で切り揃えられて、肌は日焼けしていた見るからにスポーツ少女

その身長に不釣り合いなほど大きなテニスラケットのバッグを肩に担ぎ、

背中には白い文字で――

《KAEDE》

と、名前が縫い取られている。


「え、あ……」


一瞬、言葉に詰まる。


彼女は特別に警戒している様子でもなく、

かといって愛想がいいわけでもない。


ただ、

朝の空気みたいに、すっとそこに立っていた。


「学校、見学ですか?」


声は落ち着いていて、少し低め。


(こんな朝早くからそんなわけがないだろう)

若干強めのツッコミを心の中で入れて極めて冷静に答えた。


「……あ、いや。夏休み明けから転入する予定で」

「ふうん」


短くそう言って、校舎のほうにちらりと視線を向ける。


「じゃあ、そのうち来る人なんだ」


断定でも質問でもない、不思議な言い方だった。


夕凪ゆうなぎ夕凪楓ゆうなぎかえで


名乗ると同時に、軽く会釈する。


「テニス部。朝練」


それだけ言って、ラケットバッグを持ち直した。


「……梧桐。清和です」


名乗り返すと、

楓は一拍だけ間を置いて、俺の顔を見た。


何かを測るような視線。

でも、深追いはしない。


「へぇ」


それだけ。


「じゃ、また学校で」


そう言って、自転車を押しながら校庭のほうへ向かう。


背中越しに、

テニスコートでボールを打つ乾いた音が響いた。


一人になった校門前で、

俺はもう一度、学校の名前を見上げる。


――ここが、

これから通う場所。


そして、

今みたいに、

何気なく人と出会う場所なんだと。


朝の風が、

校舎と校庭の間を抜けていった。


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