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サイキョウシャ  作者: 若山薫
7/25

7.きょうがく

その頃、キョウはレイの戦闘が見えておらずただ暗いところを無我夢中に走っていた。


――ここまで来れば敵側も俺の事を把握できねえはずだ。剣を自由に操れる奴がいるという事だけは分かったが、それ以外は分からねえ。っていうかなんで俺こんなに走ってるんだ。


そう思い、キョウは走ることを一旦やめ、考える。


――……、駄目じゃねえか、このまま走り続けても逃げてるだけで転生者と戦えないし、逃げられちまうかもしれねえ。レイはなんで逃げ出したんだ? 分かんねえけど、探さねえと。


自分が走ってきた道をもう一度走ろうと振り返った時、剣が彼女の顔の目の前に迫ってきていた。


――クソ、またこれかよ、レイ!! は、いねえし、避けるしか、


体自体を後ろにそることで真正面にあった剣を避ける。しかし、他の方向からも飛んできていた剣に気づくことが出来ておらずそれらの剣がキョウの体に刺さる。


――グッ!!


ブス、ブス、ブス、ブス


何度も同じ間を開けて剣が徐々にキョウの体に刺さっていく。そうして、10本ほど剣が刺さった後、その猛攻は収まった。10本の剣は全て上半身に刺さっている。それらをキョウは取ることなく剣が刺さった状態でいる。


――クソ、血が出すぎてる。貧血になりそうだぜ。こっちに来てるのは剣の奴だな。


そうして考えていると暗闇の中から少しずつ音が彼女の元に近づいてくる。


――……、剣野郎のお出ましか?


ストン


と音を立て、キョウの言う剣野郎であるソードという少年はキョウの目の前で止まる。そうして、話し出す。


「貴方は、何で転生者を殺すんですか。」


「あ? そーだな、俺はお前らを殺さないといけないから殺してるだけだな。殺されたくねえなら転生者になるなよ。」


と剣を10本も刺されている者が喋れないような普通の声とリズムでキョウは話した。その言葉にソードは


――こ、この人はめちゃくちゃだ。人の事を一切考えずに自分の目的の為だけに僕達を殺そうとしてくる……。




でも、それは僕も同じなんじゃ。僕達の目的の為だけにこの人を殺そうとしている。僕は、この人がどういう経緯でこれをやってるかどうやってどんなふうに人生を送ってきたのかなんて一切分からないんだ。その人を殺して目的だけ達成しようとするなんて……。


その時、ソードは暗闇でかなり見えづらいながらもキョウの表情の断片を見た。それは、肉に飢えたライオンの様な表情であった。彼は、その表情を見ると同時に気付いた。


――いや、違う。この人は僕の事なんて気にも留めていないんだ。ただ自身の目的の為だけに動いている。あの表情も僕を殺すことになんて躊躇ない表情だった。僕はこんなにも殺したくないのに。この人はやはりおかしい。


その瞬間青い花が動き全体に花開いて光が全体を照らした。少年は今戦っている人の顔をしっかりと見ることになってしまう。


――は!! こいつは!!


「お前、気色悪い髪型してんな、老けてんのか?」


「お前、僕の事を覚えてないのか? 僕はお、貴方の目をしっかりと見たはずだぞ。」


「あー?? お前の事なんて知ったことか、ただ俺はお前らを殺さないといけねえだから殺すだけだ。老けてるしな、病気ぐらいで死ぬなら今死んだほうが楽だろ、殺されたくねえなら転生者になるな。」


「な、何を貴方は、言って、言っているんだ、!」


――あれ、さっきも俺こんなようなセリフ言ったような気がするな。やっぱ剣に刺されたせいで血がねえのか。頭が一切働かねえな。


少年は憎悪の感情をキョウに向かって持ったがそれはとてつもなく小さいもので卵のようになにかにぶつかれば割れてしまうほどに弱い感情であった。しかし、彼はこの時、自身の目の前にいる存在が自身の憎悪すべき存在であることを認知したことにより、その卵は鳥へと成長した。


「いちいち、うるせえ奴だなお前。」


キョウはそう言ったがソードはその言葉に一切耳を傾けない。剣がドアの中からキョウへ向けてすごい勢いで飛んでくる。もちろんの事ながら剣が刺さっているキョウが動けることもなく、


ブス、ブス、ブス……、


と何本も何本も何本も何本も何本も何本も何本もキョウの体へと刺さっていく。


――いてえ、いてえな、いてえ。


そうして、自身が操作して剣を何本も刺しても憎悪の感情が消えなかったのか、ソード自体も右手に剣を持ちキョウを何度も斬り続ける。


「お前は、お前は、僕の、僕の大好きな人を大好きだったあの人を殺したんだ。僕の、僕の大切な……、大切な、大切な!!」


……ハハハ、おもしれえこんなに斬られてるぜ、もう死んぢまうな、


「大切な……、大切な大好きだったあの人を……、その為に頑張ってきたのに、頑張ってきたのに!!」


「お、お前、な、なんで泣いてるんだ、」


その言葉に反応し剣でキョウを斬ることを一瞬やめたソードは右手の剣を放り投げ右手を目へと近づける。目から涙がこぼれているという事をその時初めて知った。そうして、数秒放心状態になった後、ソードはキョウの事を憎悪のある目で睨み放り投げた剣を拾いキョウを斬り始めた。前よりも強く、深く、ソードが操る剣がドアから永遠に飛び出してくる。それが全てキョウへと刺さる。


「絶対にお前を、お前を、お前を!!」


と泣きながらソードは叫び続けていた。


――なんか、鳴いてるよ、うるさい奴だな、死ぬのか、死ぬのか、死ぬのか、死ぬのか、死ぬのか、死ぬのか、死ぬのか、死ぬのか、死ぬのか、死ぬのか、死ぬのか…………、


とキョウは永遠に思い、ソードは何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も……………………………………………………………………………、


それは数分にわたりようやく終了した。


「ハーハーハー。」


ソードはかなり疲れていた。


ソードは、キョウを見る。キョウからは血の涙がこぼれていた。ソードはキョウを見た後体全体を後ろに向け歩き始めた。


「この人も死ぬ時ぐらいは悲しんだんだろうな、僕は、人を殺してしまった。酷い人ではあったし、僕の大切な人までも奪った。でも、僕が今やったことは絶対的にダメな事だ。これを罰として背負って生きていかなければいけない。死ぬことを自分では選んではいけない、それは絶対的な逃げとなってしまう。僕は、この罪を罰も、自分の弱さを心の中に刻み込む。それで生きていくしかないんだ。このまま、前に進もう、生きていこう。」



と感情の中で言っているとソードは思っているようだがあまりの疲れからか言葉を出して話してしまっていた。


その時、前から誰かが寄ってきた。


「まだ、敵がいるのか。赤髪の横にいた人か?」


前からやってきたのは、自身の仲間の一人の黒目に黒髪の男ヘブンであった。


「へ、ヘブン!! 生きていたんだね。良かった。……え、」


ソードは倒れた。それは、


――あれ、熱い、血が出てる。


地べたに這いつくばりながら上を見る。そこには、先端が赤く染まった剣がありそれをヘブンが持っていた。そうして、話だす。


「貴方も、馬鹿ですね。私をとことん信用しつくして、私は魔王幹部の一人です。だから貴方を殺します。」


――hう、うそ、嘘だろ、嘘と言ってくれ。


状況を読み込むのは異常に早かったソードであったが、これを口に出そうとするも舌も切られてしまっている為うまく呂律が回っていない。出てくるのは大量の血のみだった。彼の顔は地面の方を向く。そこにある物は、青色の花のみであった。


「さてと、敵の一人はどこかに逃げたようですし、ライトさんは死んだ。あと、一人赤髪の人を殺すだけですね。あー、でも、これだけソードさんの全身が血にまみれているということは殺してくれたという事ですね。ありがとうございます、ソードさん。じゃあ、後は、貴方を完全に殺せばいいわけですね。」


――なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、


怒りよりも悲しみの方が強くソードの心を支配している。彼は、動かない、動くことが出来るとしても動かない。正義感からヘブンを殺すことが彼には出来ない。


――なんで、なんで、なんで、なんで、


実際にもう彼の筋肉は正常に動くようになっており、血も引いてきているのだ。それをヘブンは勝ったと確信しており自身に見とれている。その見とれた姿を彼は正常に確認することは出来ていない。彼は泣いているのだ。


「あ、殺す前に言っておきたいことがあります。ちょっと待ってくださいね。」


その言葉がソードに届くことは無く、ヘブンが動き始める。


――なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、僕は動かない。動けよ、動けよ、ヘブンは、悪なんだろ。悪だ。悪なのに、悪なのに!!


ヘブンと過ごした本当に数日であった思い出をソードは思い出してしまう。


――くそ、くそ、くそ、くそ、動かない、あいつは悪だ、悪なんだ、悪魔だ、悪なんだ、悪だ、悪だ、悪なんだよ、悪なんだよ!! 


ヘブンは体を一回転させる。その姿は赤髪に赤目の女であった。それはキョウではない。誰かであった。


「これが、人に化けることが出来る能力です。この姿で貴方の大切な人を殺しました!!…………、反応が薄いですね、ちゃんと聞いていますか。」


――悪なんだ、悪なんだ、悪なんだ、悪なんだ、悪なんだ、悪なんだ!!


「聞こえていないようですね、まあ、いいんじゃないですか。これを知るよりかは知らずに自分の目的を達成したと信じ込んで死んだ方がまあバカみたいですが、しょうがないでしょう。では、」


そう言って一回転をし、またヘブンの体に化ける。

――くそ、くそ、くそ、くそ、動かない、あいつは悪だ、悪なんだ、悪魔だ、悪なんだ、悪だ、悪だ、悪なんだよ、悪なんだよ!! あ、


そうして、ソードは上を向くとヘブンが剣をソードに刺そうとしていた。ソードは目を瞑る。


「僕は、もう終わりか。」


ソードは死を覚悟した。




「ありがとよ、情報。でも、俺はまだ生きている。」


――へ? ライト? その声はライトなのか、良かった生きていたのか。ヘブンが、敵なんだ、ヘブンが魔王幹部で、でも俺は殺せないんだ。なあ、ライト? ライト!!


ぼんやりとした視界と、聞き取れない声の中ソードは確信するライトが生きていてくれたと、


「…………、」




――あれ、


「なんで、ライト喋らないんだ、ライト喋ってくれよ。」


徐々にソードの傷が回復し、話すことができるようになっていく。そこにあったものは、ヘブンの切り落とされた顔であった。


「え、ライト、なんで」


とソードは倒れた状態のまま数メートル先を見るとそこには血まみれのキョウが立っていた。両目から血の涙が垂れており、筋肉は異常に弱く、ほぼ骨が見えた状態であった。ソードが刺した剣の全てが彼女の体からなくなってはいるが刺した跡は全て残っておりそこから血が大量に垂れている。


「……なんで、なんで!! お前が生きているんだ!!」


ソードは現状の不気味さとキョウに対する正義からの怒りを感じる。


「あ?? お前、俺を殺そうとしといて、よくそんな生意気な態度取りやがるな、俺は、お前に今めちゃくちゃなぐらい腹が立っている。これまでにないくらいな、これなんて言うんだっけな、そうだ、初体験みてえな、意味は分かるよな? だから、お前を俺の赴くままにぶち殺す。酸素が足らなくなってきやがる、早いところお前を絶対に殺す。お前は俺の人生で出会った人間の中で最も最悪な害悪だ。」


そうキョウは言うと手を尖らせ、手の甲をくっつけそのまま指と指の間に尖らせた指を入れる。


「暴走、」


キョウがそうはっきりと言うと、彼女の背骨あたりから赤い物体が出てくる。それは、キョウの体を完全に覆い隠す。


「グワアアアアアア」


とその赤い物体は、音を立てる。ソードはまだ床に這いつくばっており動くことが出来ていない。


――これは、なんなんだ、あの黒い物体とは違う。でも、早く倒さないとこの赤い物体は危険な気がする。


ソードはそう思うと、床に這いつくばった状態のまま右手を前に出しながら、立ち上がる。そうすると、ドアからとキョウが自身の体から抜いておいてある剣が赤い物体に向かって直進してくる。


――バカが……、


キョウの体から現れていたその赤い物体は口を二つだし、口を大きく開け全てをその口の中へと入れ込んだ。


――なんだ、あれ、剣を飲み込んだ? 剣は刺さっても痛いのに、飲み込むなんて正気じゃない。早く、こいつら、こいつらを殺さないと、殺さないと死ぬ。


ソードはキョウに向かって右手に剣を持ちながら左手を前に出し、剣を赤い物体に向かって直進させるも全てを飲み込んでしまう。


――早く、早く、殺さないと、早く、早く、早く、


ソードは無我夢中に走った。ただこいつをこいつらを殺そうとそれは憎悪の感情ではなく、正義と自己を守る為であった。


――早く、早く、殺さないと1秒が遅すぎる、1秒が30秒みたいに感じる。足、速く動け、仲間を守るために正義を遂行するために。


――なんだ? こっちに近づいてる奴ほんとに俺が殺そうとした奴なのか、なんか違う気がするな、あいつほんとに俺が殺したかった奴なのか、いや、あいつはただの転生者だ。何だ、思い違いかつまんねえな。論外野郎は早くぶっ殺してやるよ。


「巨大化した愚物」(フーシード)


キョウはそう言うと、彼女の体を覆っていた赤い物体が彼女の体から離れる。ソードはその状態を見ながらもただ直進する。


――やっぱ、思い違いだな。


赤い物体は彼女から離れた瞬間から徐々に徐々に大きくなっていく。徐々に徐々に。流石にソードはこの様子を見て走ることをやめてしまった。そうしてその赤い物体暴走の懟呪は10メートルほどの大きさに変化した。


暴走の懟呪は、下を見下ろす。そこにソードがいた。


――これは、殺される、殺されてしまう、早く逃げ、ないと、早く、逃げ、逃げ、


「グアアアアアア」


ソードの目の前には、暴走の懟呪がすでにいた。


――逃げ、


ガグ、グチャ、グチャ、グチャ、グチャ、ゴックン。


そう音を立てて暴走の懟呪はソードを食った。ソードはその瞬間死んだ。そうして暴走の懟呪はその分さらに大きくなった。


「おい、暴走。戻りやがれ、これで作戦終了だ。早くしろ、俺は、もう、体力の、げん、か……、」


キョウはそう言って意識を失い倒れた。暴走はそれを上から見下し



食べた。暴走はそのまま何処かへと消えていった。歩くことも移動することもなく、そこに誰もいなかったかのように消え去った。


ソード 主の自我(固有能力)

・剣の自我 剣を手で触れずに操ることが可能。

条件

・右手か左手をパーの形の状態のまま突き出すと剣がその方向へと飛ぶ。剣はなんでも操ることが可能。 

・一回の発動で40本のみ。

・パーの形にしなかった場合は好き勝手に飛ぶが、使用者に当たる事はない。


「剣舞散乱」(けんぶさんらん) 強い負の感情を使用者が持っている場合、条件を全て無効にする。

他詳細不明


・回復の自我 詳細不明


シクーツ(ヘブン)主の自我(固有能力)

・暗闇の自我 詳細不明

・人間に化ける自我 一回転すると人間の姿に化けることが可能。

他詳細不明


キョウ


暴走の懟呪 

手と手の甲を付け指を尖らせて指と指の間に指を入れていく。そうすると彼女の背骨あたりから赤い物体が出てきて、それが召喚者の体を完全に覆いつくす。瞬時に召喚することも可能。


② 「巨大化した愚物」(フーシード)

召喚者を覆わなくなり、独立することによって自由に動けるようになる。その際、食べた量だけ徐々に巨大化していく。食べて巨大化する効果は召喚者がこの懟呪をしまうまで持続する。

条件

・最初の大きさは人間を包めるほど。

・召喚者の体を覆っている状態では形態は変化しない。

・召喚者を覆わなくなる。

・でかくなるまで量に関わらず同じ時間かかる。


③ 「全てを食す馬鹿」(ホースディアー)

なんでも全てを食べることが可能。


他詳細不明


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