4.本音と建前
その頃、シケンとムーンは、左の穴の中をただまっすぐと進んでいた。進めば進むほどランプの数が少なくなっていき怖さが倍増していく。その現状にムーンは
「こ、こ、こ、こ、こ、こ、こ、こ、こ、こ、こ、こ、こしゃい!!」
と怖いという言葉が言えないほどまでに怖がっていた。
――いつもより、ムーンは怖がっていますね。まあ、彼女の性格から考えればそうなるのは妥当ですが。しかし、おかしい。これほどまでに歩いても一向に転生者もモンスターさえも現れず景色も一向に変化することがない。普通は洞窟内ならモンスターは出るはずその常識がここでは通じていない。ということは
「ムーン、」
と言って歩くことをやめムーンはその様子をびくびくしながら振り返り見る。
「これは、多分ですが罠です。このまままっすぐ行っても何もないと思われます。一旦帰りましょう。」
「で、でも、」
「このまま行って敵の思惑にはまるくらいなら戻って一旦皆さんを待った方が確実で危険性がありません。」
「でも、」
「でも、何ですか?」
「でも!! わ、わたし……、私は!! 転生者を殺さないといけないんです!! パパや、ママ、の為に……、」
これまでにないムーンの真面目な回答にシケンは少し感情を揺さぶられながらも自身の意志を変えずに話し出す。
「…………、で……………、しかし、そうして行った場合、ムーンの目的が達成する前に死んでしまう場合もありますけどそれでもいいんですか?」
「別にいい!! ハッ!! ……で、です……。」
とムーンは即答した。その早さとオーラをシケンは目視し意志を変えた。自身の人を見る目のなさと自身の意志の弱さを読み取れないながらも何かしらに呆れている感情を覚えながら言う。
「分かりました。このまま進みましょう。ですが、これでムーンが死んでも私は知りませんよ、これはムーンの目的です私はどうでもいい。だから、ムーンが死んでも私は私を守るために逃げるだけです。それでもいいですよね。」
「はい。」
とムーンはこれまで以上に強い意志で言った。
――彼女は転生者を憎んでいるきっと彼女のお父さんやお母さんの名前を出してきたことから親を殺されたことが原因になっているのだろう。私はそのことを一切知ることが出来なかった。分かろうともしなかった。
シケンは無意識に下唇を噛みしめながら、彼女たちはまっすぐと進んでいった。
そのかなり前エビルは
――これで、分担はすることが出来た、ここからが正念場だね、まあめんどくさいことが減ったと思うとラッキーだね。シケン君はな~~、意外とあの子弱いんだよな。リーダーを気取って真面目ぶって全力で頑張ろうとしていることはいいんだけど、それほど頭もよくないし、いろいろと知らなすぎる。
例えば、キョウ君が実はシケン君を好んでいるとか、後はムーンの過去とかそれを知ってもらうためにいろいろと僕も気を使っているんだけど、もちろんあの子はそれを知らない。変なもんだよ、ああ、ほんとに鬱になりそうになるよ。でも、まだみんないいよね。大抵何かしらの目的と強い意志がある今入ってきたユウ君? で名前あってるな? は分からないけど、もしユウ君に目的がなかった場合は論外としか言いようがないね。
論外なんて言葉、キョウ君絶対に知らないだろうな~~~~。こう考えると、一人って楽だね、やっぱり。おっと、
そんなことをエビルは歩きながら考えていると前の方から何か小さな音がした。
――やっと転生者達が登場してくれるのかな? いや、これは違うね、ただのモンスターだな。でも、これはもしかしたらいい機会なんじゃない、魔王幹部の情報をゲットするためにも。
前方からすごい勢いで襲いに来ようとするモンスターの大群は全部スライムのようだった。
――スライムか、これはやっぱりこの洞窟変だね。ここは転生者によって作られた物である可能性が高いかな。それとも……、まあ、いいや、一旦
エビルは自身が後ろに抱えるようにして持っている銃を両手で持ち構え、一体のスライムへと目標を定め撃つ。目標へと的中しエビルは感情の中で順調だと一瞬思ったが、スライムは撃たれると同時に再生しサイズが2倍に増加した。
――まあ、よくあるパターンだ、でも今回はちょっとヤバイかもね。
エビルは自身の左手を見る。
――この制限さえなければ簡単にこんなスライム君はけちょんけちょんにぶっ殺せるけどどうするかな、まずは情報の整理の為にいろんな情報を知るべきだね。
彼女は銃を後ろにかけて大量のスライムへと向かって全速力で走っていく。スライムは勢いを衰えることなくだが速くすることもなくエビルへと向かってくる。スライムとの距離が残り数センチになった時彼女は空中に飛びその勢いのままスライム達を飛び越えて着地した。そうするとスライム達はそのまま直進していきスライムの後方にいるエビルを無視した。
――スライム君達はただただ直進するだけのモンスターのようだ。あ~、そういう事か。これであの子達をいかせてこの洞窟の穴を塞ごうという訳か。また、前からあの子達来てるね。これは、逃げようがないかな。あの穴のサイズはさっきので塞がれちゃう。ここにいても一瞬の隙に寝たりしたらあの子達に連れていかれて死ぬ。もし集中力を切らさなかったとしても食料がないから死ぬ。この状況だけ見れば詰んでるね。あーこ、こ、こ、こわ、こわい、怖い、怖いよ、こしゃい。こんなことをどうせムーンは言っているんだろうね。
まあ、制限さえなければ簡単に出れるんだけどな。ほんとに腹が立つ――――――。………………、できる事ならやりたくなかったけどこれやるしかないか、でもこれやると嘘ついてるとか言われるんだよな、キョウ君とか絶対うるさく言うなまあ、
「いいや。」
エビルはそのまま自身の目を開き、手を近づける。そうしてフィルムの様なものを両目から取り去り、そのフィルムを地面へと捨てた。彼女の目は、水色で少し黒が混じったような色から完全な白色へと変化した。
――久々に欣求を使う事になるかな、まあできればあの色の目の方がいいんだけどね。あんまりこの目の色好きじゃないし、それは置いといて入り口に向かおうか、
彼女が後ろを振り向いた瞬間後方からスライムの集団がやって来る。それを察知し後ろを振り向くと
バゴン!!!!!!
という常人なら鼓膜が破れるほどの音を出してスライムを木っ端微塵に爆裂し再生しなかった。
「あ~、無駄にしちゃったじゃないか。まあ、いいや。」
そう言うと、彼女は走り出した。その速さは彼女の先ほどの走るスピードの3倍ほどの速さはあった。彼女はスライムが穴に埋まっていることを目視すると
バゴン!!!!!!
と先ほどと同じ音を立てスライムは木っ端微塵に爆裂し再生することはなかった。
――このまま、外にでるとまだキョウ君とレイ君が出発していない可能性があるから一余の為元に戻しておこう。
彼女は自身の右ポケットからケースを取り出しコンタクトレンズをつけた。そうして彼女の目は水色で黒が少しある目へと変化した。
――もう、これで最後じゃん、危なかった。なかったらキョウ君とレイ君を殺していたかもしれない。ほんと良かった。あ、いないのか。ん? ……………、なるほど、地下に行くと多分だけど転生者がいるんだね。レイ君がそれを分かっていたというのが妥当かなだから行くことが出来たのかな? レイ君は裏切り者の可能性が高いか、だからあの時少しレイ君の筋肉がピクリと動いたのかもしれない。だけど、そんなへまをレイ君が裏切り者だったとしてするんだろうか?
あの子なら絶対にそんなへましないだろうね、って言う事は、レイ君は裏切り者の可能性が低い。万が一あの子が裏切りだったとしてもキョウ君ならどうにかしてくれるだろう。
だから、この3つの穴は全て罠の可能性が高いという事だ。まず、率先して行うことはシケン君とムーンの救出。その後に転生者抹殺への参加。これでいい、単独で動けないのはめんどくさいけどあの子たちを守らないと、
エビルは、左の穴へと走って入って行った。その時には彼女の走る速さは通常の速さへと戻っていた。
――このままいってもシケン君とムーンは直進している可能性が高いはずだからかなりの時間がかかるは……、
エビルは立ち止まる。目の前にはムーンと前にシケンがいた。ムーンはエビルがここにいるという目の前の情報を知るとすぐにシケンの後ろへと隠れた。
「あれ、エビルさん。」
とシケンが言う。エビルは今の現状を即座に理解する。
「……、これは、まずいかもしれないね。多分ここは入り口がない永遠の道だ。ずっとぐるぐるぐるぐる回ってるんだろう。」
とあたかも分かっていたようにエビルは話を進める。
「でも、ランプの光は徐々に薄くなっていきましたよ。」
とシケンが言う。
「それは、ここが転生者によって作られて今も見られている状態で調整されていると考えればつじつまはあう。あと地下に転生者がいる可能性が高くてそこにキョウ君とレイ君が向かったかもしれない。一旦そこに向かって転生者がいた場合は戦わないといけないね。」
とシケンとムーンに伝える。
「じゃあ、一旦ここから抜け出す必要性がありますね。どうやるんですか。」
「ん? そんな手段僕は何も思いつかないよ。君達は何か思いつくかい?」
「いや、何も?」
「そうか、じゃあ、ムーン死んでくれ。」
「え、」
とムーンが言い、ムーンはシケンの後ろからエビルの方を見る。そうするとエビルは笑顔の顔で彼女を見ていた。それは狂気的なようにも見えるし、ただ無邪気なようにも見える。
「嘘だよ、嘘。」
ムーンは、泣き出しながらすぐにシケンの後ろへと隠れた。シケンはエビルがそう言ったことを聞いて少し怒ったような言い方で
「やめてくださいよ、今はそういう嘘を言ってる時ではないんです。早く抜け出す方法を考えてください。」
「はいはい。」
――ほんとに、真面目だな、でもそれは君の目的を達成するために用いられる表面上の偽りだよね。そういうことするの僕あんまり好きじゃないんだ。真面目なことで偽りの仲間への思いが本物になってきていることをシケン君は本当に分かっているのかな。少しだけ動いてあげよう、めんどいけど。
「いちよ、もう一度言っておくよ、僕は裏切り者ではない。」
「はい、それは前に聞きました。」
ムーンはびくびく震えている。
「そうだね、これはシケン君も前に聞いたと思う。じゃあ、こうするとどうなるかな。」
と言ってエビルは歩きムーンの元へと行きびくびく震えているムーンの右の耳の近くで言う。
「僕は、裏切り者ではない。」
エビルの分かりづらいシケンへの助け船を彼女は半分あきれ顔で無視した。ムーンは大号泣し、エビルを怖がっていた。エビルはあまりうまくいったという実感を持つ事は出来ず、自身の本音の感情を建前の感情で表面上は濁した。