23.異端者 後編
――……あーあ、元に戻ちゃったなー。さっきまで楽しかったのに。えーっと、これが青髪君の部屋みたいだね。黒い空間って普通すぎないかい。オーロラが輝いてるね。幻想的な風景を見せるだけの時間稼ぎのための部屋なのかもしれない。
その瞬間、あたり一体が変貌し彼女の両サイドにノンが現れる。ノンは言う。
「貴方を殺してあげるわ。感謝しなさいよ。」
――おお、あの懟呪君かな。元気そうで何よりだね。
「はい、はい、わかったから早く来てくれ。懟呪君。」
ノンの体をまとっている理解の懟呪はその発言に対し少し苛立ちを見せながらも言葉を発する事を我慢し両者共バットを構える。
――両サイドの二人ともバットを構えちゃったね。このまま攻撃を食らうだけで済むのかな。それだけで終わりなら簡単な話だね。
一方のノンが黒い地面を漁り青色のボールが出てくる。それを手に持ち少しだけ投げた後にすぐさまエビルめがけて
ドン……、ガギーン!!
打つ。
それがエビルの精神に近づく。
――体を持たないから別に痛い思いはしないとは最初は思うんだけどね。これ
エビルの精神にそれが当たる。
――イッタ、あれ本当に痛いね。
「グハ、」
身体をえぐられたわけでもないにも関わらずエビルは声を出してしまう。そのボールはもう一方の方のノンへと行き渡る。
――かなりやばいかもしれないね。これはもう一回で死ぬんじゃないのか
ドン……、ガギーン!!
同じ音を鳴らしボールが打たれる。
それも同様にエビルの精神へと当たる。
――これは死ぬんじゃないのか、いや死ぬね。
「グハ、痛い、すごく痛い、死ぬね。」
そのボールがもう一度ボールを出したノンの方に帰ってくる彼女はそれを一切外すことなく打つ。
――ヤバイね。
ドン……、ガギーン!!
「グハッ」
何千回もそのボールが打たれエビルが食らうを繰り返される。それによってエビルの精神は
「ハハハ、痛い痛い、でも楽しいね。これはずっと受けていたいよ。本当に本当に」
と自身の感情を言葉に出していた。
ノンはそれを見て少し笑いながらボールを打つ。
――後十秒ね。
ノンはボールを打つ。
「グハッ、はーはー、痛い痛すぎる。本当に、痛い、痛い、痛い、痛い、」
――時間。
「さてと、もう終わったかな。狂うの疲れちゃったよ。もう帰っていいんでしょ。」
「流石だわね。狂う真似なんてして、本当に苛正しいわ貴方。」
「いや、本当にどうしようもなかったよ、逃げることが出来なかったからね。僕は精神なんて崩壊していない。逆に死ぬ経験を何度も出来て楽しかったよ。ありがとうね懟呪君。」
そのままエビルの精神は去って行った。
「ヤバイ野郎だわね。」
理解の懟呪はそう言って素振りを始めた。
その少し前現実ではノンが抜け殻となっているエビルへと近づいていきバットを頭へと当てる。その時手の懟呪は一切動くことは無かった。
「4,5,6,7,8,9,10,11,12,13,14,15,16,17、18,19,20,21,22,23………………、99、100。」
彼女はそう言った後、
「2」98
と宣言し青いバットの形状が青いハンマーの形状へと変化した。そのままノンはエビルの心臓部分に向けてハンマーを振る。その瞬間、彼女のポケットから白い物体が飛び出し黒い壁をエビルの前に作り上げる。
04:10:55
ノンはそれを見て動揺しハンマーを止め数秒後地面に落とす。
「……、なんで、貴方はエビルを守ったの!! 今倒せば未来通りにエビルを殺して終わったのに。」
「つまらないわ。」
「何言ってるのよ、このまま倒せば終わる話じゃない。」
「それがつまらないって言ってるのよ。多分ノンには私の心の気持ちなんて分からないわ。だけどね、理解しているという事はそれだけ何も面白みがないという事なの。何をやろうにも変わらない未来と現状を見てしまうのよ。それがどれだけつまらないことか貴方は分かってなさすぎるわ。」
「そんな事分からないよ。私は貴方じゃない。」
「少し、ノン私に似てきてしまったみたいね。前よりかは面白さがなくなってしまったわ。さらに言えば私に似せている所がかなりある。似てしまったともいえるけどね。そんなに上から目線で偉そうじゃなかった。もう少し気弱で少し弱い部分もあった。だけど、今のノンは少し強くなって未来が見えて調子に乗りすぎているわ。だから私はあまりあなたに今魅力を感じない。だから、元のノンに戻すために少し罰をくらわしたかっただけ。」
――嘘よ。私は、今のノンも大好きよ。少し気弱なくせして上から目線に物事を考え調子に乗ってしまっているわ。悪に浸っているって勘違いしている可愛くて汚らしいじゃない。従順な子を痛めつけるほど面白いことは無いわ。まあ、すべてを理解していることがつまらないって言う事は本当、だけどね。
「だからって、」
ノンは明らかに動揺していた。だが、話している間ずっと口元は笑っていた。
「分かっているはずよ。私は今未来を見ることは出来ないし、人の事を知ることも出来ない。まあ、ノンの体に入ってしまってあなたの感情を知れば別だけど。なんでかはさっきも言ったみたいに全てを理解しているとつまらないからね。だから私は貴方に能力をあげて全ての能力を与えてあげたわ。」
――理解している日常がつまらなくてもそれが日常だと私は思い込んでいた。そんな私は全てを理解できていない、知らないバカな貴方に魅了されてしまった。ただそれだけ。
「だからってだからって、ひど過ぎるよ!!」
「それだけ甘えすぎていてしまったという訳よ。第一エビルがもし帰ってきたとしても彼女の考えていることは全て分かるはずよ。負ける理由が見つからないわ。だから大丈夫よ。貴方は死ぬことは無いわ。」
――まあ、不確定だけどね。死んだら死んだでそれもノンの運命その運命は未来を理解できていない私を興奮させてくれるわ。はー、楽しそう。
理解の懟呪は笑う事を必死に抑えながら言う。
「帰ってきたみたいよ。」
ノンは理解の懟呪が笑いを必死に抑えていることなど気づきもせずに
「帰ってきたぜ。青髪。」
少し冷や汗をかいていた。




