22.異端者 前編
「貴方の事を確実に殺してあげる。だから懟呪の効果だけ言っておいてあげる。貴方が思うように感情を知れるし、俊足で動くことも出来る。強力な守りに特化した壁も作れる。対象を全て壊すことも可能。部屋も発動可能。だけどね、今部屋を使っても面白みがないでしょ?」
そう言っている彼女の顔は笑っていなかった。
――これはどういう事だ? あいつの魂は部屋の中に、
「その話はあとからちゃんとしてあげるから人の話ぐらい少しぐらい聞いた方がいいと思うわよ、そこが貴方の欠点だもの。自己中心的過ぎて妄想を膨らませすぎるところよくないと思うわ。ちゃんと懟呪の能力言って上げるからちょっと待ちなさい。分かった?」
――これ以上戦おうとしても俺の方が手も使えねえから不利。さらに言えば敵が自ら自身の弱点を教えてくれるんだ。こんないい機会はねえだろ。
そうして、ノンは話し出した。
「考える事多すぎてほんとうるさいわね。少しぐらい黙ってなさいよ。私の能力は十一個存在している。五つは答えてあげないけどそれ以外は全部答えてあげるわ。一つ目、「速攻の逃亡」早く動くことが可能。ただそれだけの効果。これで目の欣求の攻撃とかを防ぐことが出来た。
三つ目、「自己防衛」何からでも守ることができる黒い壁をいつでもどこでも生成することが可能。欣求や懟呪の攻撃からも身を守ることができるわ。これであなたの作り出した手の懟呪の複製から守った。条件は、理解の懟呪自体が黒い壁の生成方法を完全に理解していること。
四つ目、「過去と感情の全貌」相手の全てを理解することが可能。条件は召喚者が目視したことがある事。これで貴方の能力を全て知った行動も丸見え。
五つ目、部屋。八つ目「ブラフをかける者」召喚者が懟呪の能力を懟呪が出ていない状態で使用することが可能。あと一つ私には●の能力が存在していてそれで二回目の手の攻撃を防いだわ。
この六つの能力とあと五つあるわけだけど、それぐらいは又無駄な考察して知りたいんでしょ。さ、戦いましょ。貴方を確実に殺してあげるから。」
ノンはやっと笑った。エビルは自身が考えたことが異常なほどに間違っていなかったことを知りそうしていう。
「面白そうじゃねえか、お前は誰か分かんねえがな。」
「楽しそうで何よりだわ。まあ、嘘はあんまりついてほしくないんだけどね。」
「くそがよ、」
――十一個か思ったよりも多いな。右手、両手合わせて計八つだとしてあと四つもあんのかよ。その中の一つが今のあいつの状態を作っている物だと断定してよさそうだな。この効果の詳細とあと未確定の四つの、欣求っぽいあのバットの能力も知らないといけねえな。
ノンはエビルにあまり考える隙を与えんとばかりに動き始める。速攻で動くことでエビルに場所を特定させないようにする。
――この用法でやるぐらいしか攻撃手段がないと思わせるようにしている。という事を俺が思っていることをあいつは知ってやがるんだから。そこまで読んでその逆なのか。こういう考え事で俺が考え込むことまで考えて攻撃手段を使っていないのか。どちらかは分からないがどちらにせよ今の俺には攻撃手段がマシンガンと目の欣求しかない。それらは全て速攻に逃げる事と壁を作って守ることで封じられる。
懟呪の能力もほぼ全て出し切っている。手の懟呪は存在していない。他の手段を使っても早く終わらせることは出来てもうまくいかない可能性が高い。他の手段を使った場合もおもしれえかもしれないがな。だが、今俺はそんな早く終わらせるとかもうどうでもよくなっている。どうなろうが、どうでもいい。この戦いを楽しみたくてしょうがねえ。
バッゴン
「4」
後ろからまたしても顔面をバットで殴られる。
――クソうるせえやろうだな、ちょこまかしやがって。
それに対してエビルはマシンガンを連射するもノンはそれを華麗に躱しバットで殴る。
バッゴン、バッゴン、バッゴン
「5、6、7」
エビルはマシンガンを連射する速度が低下しながらもまだ連射し続けるがその猛攻が収まることは無く、それをエビルは止めることが出来ない。そうして彼女は考え気付く。
――こいつは腹が立つし、めんどくせえ。強いが、あの人に比べれば弱い。あの屈辱に比べれば全然平気だ。面白くても嫉妬はしない、勝っても負けても面白かったと思うだけで達成感なんてありゃしねえだろ。だが、この戦いをさらに面白くするためにはこれをやるしかねえだろ。試すしかねえといった方がいいな。今ならいけるだろ。
「面白いですね。」
ノンはそう言ってバットで殴った。
バッゴン
「8」
エビルはその殴られた瞬間に右手の人差し指と中指を口の中に入れ込みかみちぎる。ノンは、バットで殴るのを中止して後方へと下がる。
――やっぱり。
右手の指をかみちぎった瞬間、切断部分から赤色と青色、肌色の液体が地面へと垂れ数秒後丸い形状となって宙に浮き、肌色の手の懟呪が左手だけでなく右手も持ち合わせ召喚される。エビルの両手の人差し指と中指が再生されることは無い。
「これは、成功ってことでいいのか? まあ、いいや。後はこのままこいつを殺すだけだ。」
――そうなるわよね。
「失われ死秘宝」
エビルはそのまま手の懟呪の手を合わせてそれを十組複製させる。
――まだよくわからねえが、何かしらの新しい能力だってことは分かる。十組の手だから大抵のポーズは作ることは可能。後なんだこれ、左目で十組の手の位置が特定できるようになってやがる。これは面白いじゃねえか。左目見えなくなってよかったのか。
「やっぱり、面白いぜ。」
――観察出来て操れる手は十組、二十体が限度みてえだな。ただの単細胞な生物百体作るよりかは自分で自由自在に操れる生物に十組いる方がやりやすいだろうな実際の手の数的には二十体だしな。敵の懟呪の効果的に考えて速攻で動き攻撃も防がれるならそれらを手で完全に封じた状態で倒すしかねえな。欣求とかの攻撃手段と四つの能力が明確になっていないことだけが腹正しいがな。
エビルは、合わさっている手を八組動かし、それらを左手と右手で分裂させて動かす。他の二組の合わさった手は全てエビルの事をガードするためにエビルの周囲全体を四角形になるように覆っている。
――使い勝手がいいな。真上だけ空いてるのは少しだけ気色悪いが、
エビルの操る手達は全員がノンの事を追うように彼女が動かし続ける。ノンは近づいてきたそれへとバットを振る。
バッゴン
そうしてバットが手の懟呪の複製物の右手に当たってもそれにはあまりダメージが及ばず、すぐに動き続ける。
――これはやばいかもね。でも、そんなだわ。
バットの欣求の形状を
「2」6
と宣言することでバットの形状がハンマーへと変形する。
――バットをハンマーに変える懟呪の能力か。何かしらの効果の違いがあるんだろうな。
その青色のハンマーをノンはそれへと振る。
ドン
「1」5
その音が響くと同時に、その右手が徐々に消え、同時にその右手と対になっていた左手も消えた。
――なるほどな、ハンマーで殴ればその存在を消滅できるか、細胞自体を破壊し木っ端みじんにしてるってことだな。あいつは「2」と宣言していた。最も可能性の高い効果の内容は懟呪の能力で、バットで殴った数を消費することでハンマ-へと形状を変えている事だろうな。
敵に近づき攻撃をするデメリットと敵からの攻撃から自身を守るためのメリットを合わせて0にしようとした結果。デメリットとしてバットがメリットとしてハンマーが最も適してるってなったんだろな。
「お前の能力なんとなくわかったぜ、それも知られてるとは思うけどな。」
――あとは、あれだな。あいつのハンマーは懟呪の効果によって変えられたと思っていたが実際は違うかもしれないな。バット自体がハンマーに変更できる能力を持っていた可能性が高いかもしれない。俺の場合もそうだからな。そう考えるとバットは欣求であることが確定するな。
目の欣求の能力は、対象物が生物だけに限られそれを俺が目視することでその場所を木っ端微塵に爆裂できる能力。その爆発の威力はどんなものであっても変化することはねえ。
あと、目の欣求の効果によってそこに何も覆っていなければ身体能力の向上みたいな感じで全体的な肉体的増強も効果の一つだ。目の欣求の能力は分厚いコンタクトを被せることで防ぐことが可能。
条件は、片目ごとに一日三回しか使えない。めんどくさいから両目で使うことがざらだけどな。三回使った場合は一日の間まあ、深夜0時までだが目が黒く染まり見えなくなる。俺の欣求でも能力とそれに伴っての条件があるって言う事はあいつの欣求も同様なはずだ。
さっきの敵に近づき攻撃をするデメリットと敵からの攻撃から自身を守るためのメリットを合わせて0にしようとしたっていう考察めいたバカな発想は、懟呪が強力な効果でない限りは大抵条件を求めないことと、今俺の欣求でさえ能力とそれに伴う条件があるんだから敵にもあるだろうという考察から否定できる。
あいつの武器が欣求だとして「1」とか「2」って発しているあのカウントっぽいもんは懟呪の効果としても適用されているかもしれねえ。カウントによる能力の発動条件の解放とかな。一番発動条件として取り込みやすいのは自分で能力と条件を作れる●の能力だろうな。
あとあいつに向かっている手は七組、十四体。一回の攻撃で二体やられるだろうなあの感じじゃ。まずは、手をいったん下がらせるしかねえな。下がらして攻撃を防ぐしか。
エビルは左目で手の位置を把握し一組の両手のみを残し他すべてを自身の近くへと戻していく。
――これで、俺のガードを固めてやりたいが、あいつは俺の感情を知ってやがるからな。まだ隠している可能性も、
「2」3
その時、エビルの左目から見えたノンの元に残っている両手の視点からノンがハンマー以外の何かを持っていることを確認した。
――あれは、何だボール? 又青色か、あのボールを出すためにカウントをハンマーと同じように使っていた。カウントによる懟呪の能力の発動条件の解放によってボールが生み出されたのか、バットの欣求によって生み出されたものかはまだわかんねえがな。
ハンマーは地面に置いている一旦は今しか攻撃する場面はねえが、ボールが何かわかってない以上は迂闊に近づけやしねえ。一旦待つしか。
――バカだわね。
ノンはボールを投げる姿勢を整えボールを彼女めがけて投げる。その球はエビルの元へとゆっくりと直進していく。
――手で守るしかねえな。
彼女は全ての手を操作し手を縦に立たせ鉄壁の布陣のように何体も重ねる。
――これで防御は完璧なはずだが、ハンマーを使って青髪が攻撃をしてくる油断を誘うためのを攻撃である可能性も拭いきれねえな。なら、後ろで一体見張らしとけばいいな。
左手を一体その布陣から移動させる。ボールはいまだに直進しそれがやっと完璧な布陣となっている手の集合体の一体目に当たる。
バン……、シュゴーン!!
その音を立てると一体目の右手の中心が破壊されそのボールは一切のダメージを受けることなく何も無かったかのようにスピードを速めてエビルへと向かって直進していく。その一体目の右手は中心部分がなくなると徐々に消えていき同様にその右手と対になっていた布陣から去った左手も自分が死んでいくことに自覚がない者のようになんの恐怖すらも感じず通常通りの動きの最中に徐々に消えた。
――……、クソがよ、ハンマーと同じような能力多分だがもってやがんのかあのボールは。あいつの場所も見えてねえな。このままボールは直進してくるだろうな。今の青髪の位置は??
エビルは左目で手の懟呪の複製物の全体像から見るがそこから見える場所にはすでに青髪はいなかった。
――逃げようとしても今場所が分かっていない青髪にやられる。それならこのままの状態で手を破壊して入ってくる青髪を対処しながらボールを受ける。
どこからやってくるか分かんねえ状態よりかはここに絶対来るという事が分かった方がいいだろ。ハンマーの効果もボールの効果も細胞を破壊するか、その対象を破壊する効果何だろうが実際はどんな効果かも深くは知れていねえ。未知なものに対しては受けるしか手はねえ。
ボールは青色に輝きその存在を強調しながら縦に連なっていた手を無慈悲に全て破壊し彼女を守っていた四角形の手の一つを破壊しエビルの目の前へと到着する。それと同時に
ドン
「1」2
ノンがエビルから見て右側の右手をハンマーによって破壊し中へと侵入する。同時にエビルの前の手と右側の右手が消えたことでその手と対になっていた後ろと左側の左手も消えた。
――予想通りだが、これでどっちかの物には当たっちまうな。ボールはまだ直進し続けてる。ずっとだ。左目で見てても一切曲がることは無かった。直進しかしていねえ。左に避けてボールの攻撃を一旦阻止しようとするしか。
エビルは左に避ける。ボールは速度を落とすことなく直進し、そのまま暗闇の彼方へと消えていった。
――ボールの位置は変更することは出来ねえみたいだな。だが、まだハンマーが残ってやがる。もし、さっきの考察があっていてバットで殴った数を消費することでハンマーに変えたりしていた場合、今までバットで殴ったのは「8」、消費するときに宣言した回数が「6」。後「2」は消費できるな。多分だが、バットからハンマーに変えるので「2」。ハンマーを振るので「1」。ボールを生み出すし投げるという一つの工程で「2」。ここはまだ不確定な点が多いな。
そう考えると今からハンマーで殴られると「1」消費することになるな。このままだとハンマーの能力が不確定なまま受けることになっちまう。なら、
エビルは自身の真上に存在していた手の懟呪を自身の前へと移動させる。ノンは一瞬立ち止まりそれを見ながら言う
「2」0
――今あいつ2って言ったな。これで0になったはずだ。手の懟呪の複製体は左目で見えねえしさっきの複製体みたいに手取り足取り動かせねえしな。今青髪がどうなっているかも確認できねえ。だが、ハンマーで殴ってくることは確定し
バッゴン
「1」
その瞬間、エビルは頭をバットで殴られた。
――またこれかよ、だが、分かったことがあるな。ハンマーからバットに形状を変化するときにも「2」消費しなければいけないって言う事だ。多分だがこれは欣求の効果によるもの。この状況だと青髪の欣求の効果を少しずつ増やしてるのと同じ行為をしているだけになる。
まずは、青髪のバットによる攻撃を防ぐことが大優先。それによって青髪の今判明してる攻撃手段を防ぐことはできる。
右の「目の欣求はあと二回。マシンガンの弾はまだ残っている。懟呪もまだ生きている。青髪の懟呪と欣求の能力をなんとなく理解できてきた。さっきよりも条件は良くなった。このまま行けるぜ。
「2、3」
連続的なバットの欣求による攻撃をエビルは受けながら動くことは無く手の懟呪がノンへと近づき彼女は俊足で逃げる。
――流石ね。全て分かっていても少しだけ行動が遅れてしまう。彼女は異常なほどに早く成長してしまう。……、
エビルは手の懟呪の手を合わせ
「失われ死秘宝」
十組の手をまた複製する。
――さてと、もうすぐかしら、
――青髪はバットとボールで連続的な攻撃を仕掛けて少しずつ俺の体力を消耗していく作戦だろうなだからバットをまずは奪ってそれから。
その時、ノンの顔つきが少し変わった。
「理解の部屋」
ノンは笑ってそう言った。




