21.ボーっと送る日々 後編
ノンはその後もガリュウを刺しガリュウは何度も
「なんでだ、」
と言った後に死んでいった。
――これで、魔王幹部を殺せることが出来たはず、
ノンは家を出て歩き始めた。ガリュウを隠そうとした。彼女はそこで食器棚の中を見たそこに一つの手紙が入っていた。時間がないにも関わらずノンはそれを見てしまう。
――ノン、俺は魔王幹部に脅されていた。魔王幹部はヤスユだ。
それはガリュウの筆跡であった。
――!!
ノンは自身がやったことが思い込みによる早とちりな行動であることを察する。
ノンは走り街へと出た。右ポケットにナイフを隠しながら、
「お前の家族、仲間を殺してほしくなかったら協力してほしい。」
「は?」
「もう一度言った方がいいか、お前の家族、仲間を殺したくなかったら協力してほしいと言ってあげているんだ。優しいとは思わないのか?」
「何を言っているんだ、お前。調子に乗るのも大概に。」
その時彼の後ろに違和感を感じたガリュウはすぐさま後ろを向くだがガリュウの目からは何も見えなかった。
「お前の後ろには暗闇の何かが存在している。だが、お前はそれを見ることは出来ない。」
「あ?」
その瞬間、ガリュウの顔に線が入り皮膚が破られ血が飛び出る。それにガリュウは驚きながらも目の前の男へと言う。
「お前の言っていることは本当、なのか?」
「本当だ。あと、俺は実は俺ではない。っていうか、もうこの言葉遣いがほんとに疲れる。だからもういいか。この型ぐるしすぎる言葉遣い。」
「……、ああ」
ガリュウはそうとしか言えなかった。
「いいんですね。言葉遣い変えます。よし、楽になった。格好は変えませんよ。今変えると存在バレてしまいますからね。それで私達から貴方にお願いしたいことはまず一つ目私たちの事を言わないこと。二つ目、貴方が魔王幹部又はそれの部下のふりをすること。」
魔王幹部という言葉を聞き少しガリュウは驚くもすぐさま元の表情に戻る。
「三つ目、それらを行ったうえで普通に生活する事。以上三点です。ほら意外と普通でしょ。別にそれほどまでに怖がることは無いですよ。ただ魔王幹部側にいるっぽく見せればいいんですから。勿論その為の道具はたくさん貸してあげます。例えば、デーモンの印とか、赤い歯とか、後なんですかね。イヤ特にないですね。
まあ、それらすべて貸さなくてももう貴方は魔王幹部側の人間だと疑われると思いますけどね。だって、貴方のそばに私以外の魔王幹部がいますから。だから私達から貴方に実行してほしいことはたった二つですね。私たちの事を言わないこと。それを言わず普通に生活する事。ただそれだけですね。守ってくださいよ。守らなかったら。ノンちゃんが死んじゃいますよ。」
そう言ってその男は徐々に暗くなって消えっていった。
「分かった。」
ガリュウはその者が消えた後の数秒後にそう言った。
数日後
「ピンポン」
――また、ケルグスか、
ドアを開けるとそこには茶色の髪に、茶色の目をしたキグという男性が立っていた。
「ガリュウさん、ちょっと。」
「なんだ、お前、」
そう言いつつもガリュウはキグが歩き始めた後ろをついていき路地裏へと着いてしまう。キグは話始める。
「ガリュウさん、なんなんですか。なんで、ツュクルノーさんからガリュウさんを毎日連れてくるようにって言われたんですか。俺? よくわかんないんですけど。」
そのキグの言葉に思い当たる節しかないガリュウであったが、
――こいつが俺を魔王側だと思わせるようにあいつらが仕組んだ奴なのか、それならこいつには言ってもばれないんじゃないのか。こいつに言えば助かるんじゃないのか。いや、ないな。こいつが魔王幹部である可能性もある。それなら言った場合俺が約束を破ったとしてノンが死ぬ。絶対に何も言うな。
「なんでですか、答えてください。ガリュウさん」
と何度もキグは説明を求めるもガリュウはいつも通りの怒り癖を見せることなく一向に何も言おうとしない。キグは明らかに苛ついた様子を見せながらも何も言わないならしょうがないと諦め、
「もういいです。これからは迎えに行きますから。できる限り早く起きてくださいよ。」
とキグは言い去って行った。
そうして現在に戻る。ある二人はキシュツルーの外で話し合っていった。
「お前もお前でくそ野郎だな。なんでこんな手段を取ったんだ?」
「そりゃあ、人が全力で頑張ってでもうまく出来ないうまくいかないことが決まっていてそのまま死ぬその滑稽な姿は密の味がするからですよ。ああ、おいしくてたまらない。ガリュウの筆跡っぽく私が書いた手紙もその発火元になりえるかもしれませんしね。」
シクーツはそう言ってケーキを食べた子供のように大満足な顔をする。男は顔には出さなかったもののその事を聞き少し引いていた。
「そうか。」
男はそう言い、シクーツから去って行った。十分後
バン
そう音を立ててシクーツは死んだ。
――クソ野郎を殺るのもやはり面白いものだな。
彼はそう思いながら建物を破壊しこのキシュウツル―を歩き始めた。その頃ノンは彼女の家から帰宅していた最中であったヤスユを見つけてしまう。彼は武器屋の中にいた。
「やあ、ノンじゃないか。どうしたんだ。こんな夜遅くに。」
ノンは彼に向かって迫ってくる。
「なんだい、ハグかそんなにこわか、」
ブス
「……あれ、ノンなんで僕の心臓を刺しているのかな? なんでか教えてくれな、」
ガバッ、
そう口から血を大量に吐き出し音を立てる。ノンはその言葉に答える。
「貴方がお父さんを、お父さんを殺したんじゃないの、なんでそんなに、変わんないのよ!!」
字足らずなままノンは言う。その言葉をヤスユはなんとなく察知し、ノンの体に抱き着く。
「何があったかは分からないけど、大丈夫だから、僕は何もしな、」
「嘘よ!! 嘘、絶対に嘘!!!!」
「だから、何も、」
「嘘だって言ってるでしょ!!!! ……、なんで、なんで、分かってくれないの、なんで、なんで、なんで、」
ヤスユは何も言えなくなってしまった。何も言えなくなりながらも何かを言おうとはしていた。
――どうすればいいんだろう、こういう時僕は何ができたんだ。何も出来ていないじゃないか。一人の女の子の感情すら知らずにただ馬鹿みたいに遊びを教えて楽しんでいただけだったじゃないか。もっと知らないともっと人を助ける人にならないといけない今何ができる。何も出来ない。でも何かはしないと、ノンが助からない。
ヤスユはボロボロの体の状態のまま動き出そうとする。動こうとする彼を彼女は見て
――逃げる、逃げさせない。
ノンは無意識に近くにあったナイフをヤスユへと投げる。それがヤスユに刺さり彼は動けなくなってしまう。
「嘘つき、」
彼女は感情のこもってない声でそう言うもヤスユには聞こえていない。意識が朦朧とする中、ヤスユは気絶した。ノンはそのまま外へと出る。
――なにこれ、
外に出るとそこは業火が舞い上がる空間に変わり果てていた。
――どういう事、
彼女はただ困惑していた。今がどういう状況なのか彼女は一切分からなかっただが、この状況が恐ろしく何か嫌な予感を直感的に察知していた。彼女は走り出した。誰かいないかと誰か私と同じ一人で孤独で今の状況が分からない人がいないかと、そうやって彼女は孤独を避けようと街の中を探し回った。しかし何も見つかることは無かった。
ノンは立ち止まり今のこの状況で助かっている人がいないかもしれないという事に気づき困惑した。彼女は何もすることが出来なくなったがたくさんの事は考えていた。考えて考えても彼女の思っている核となる部分は変わっていなかった。
――なんで、こうなったの。なんで、
戸惑いや困惑による絶望である。
「大丈夫か。」
そんな言葉は彼女に向けられたもの
ではなく、ヤスユへと向けられたものであった。ヤスユは目を開ける。そこには、
「父さん? 父さんだ! なんでここにいるの?」
ヤスユの父らしき人物はヤスユの左肩を右手で触っていた。
「そうだな、話すと長くなるんだが、一回俺の話を聞いてくれ。実は俺はお前を、
殺さないといけないんだ。」
「え、」
ヤスユはただ固まる。
「俺の主の自我は爆弾の自我。条件は黒であること。代価として敵がその爆弾を切る又は破壊することなく爆発したが受けなかったダメージ分を食らう。「爆発へのカウントダウン」様々な爆弾を作り上げることを可能とする。作り上げた爆弾は全て人にくっつけることが可能。
爆弾の種類は六つ。「赤の爆弾」設置五秒後に爆発し、範囲一メートルほど擦り傷ほどのダメージを与える。サイズは五センチ。作成時間は十秒。「青の爆弾」設置三十秒後に爆発し、範囲五メートルほど軽傷。サイズは十五センチ。作成時間一分。
「黄の爆弾」設置一分四十秒後に爆発し、範囲百メートルほど重傷。サイズは三十センチ。作成時間三分二十秒。「白の爆弾」設置後対象者が意図的にその爆弾を切る又は破壊すると爆発。範囲一メートルほど対象者の自我の中でランダムに選ばれた能力が一日の間使用不可能になる。サイズは十五センチ。作成時間六分。
「黒の爆弾」設置十分後に爆発し、範囲十メートルほど死亡。サイズは五センチ。作成時間十分。「茶の爆弾」サイズは十センチ。作成時間一秒。当てる又はくっつけるだけでそれ以外の効果は付与されていない。爆発もしない。
だが副の自我「弾該爆剛の自我」の効果により茶の爆弾の効果がランダムで茶、赤又は黒の爆弾の効果に変化する。ランダムの確率は茶が三十パー、赤が六十五パー、黒が五パー。俺のMHは1000だ。
「爆彪」爆弾十五個までを表に作成可能。ポケットの中に入れておき取り出すタイミングまではどの爆弾であってもサイズは五センチに統一される。取り出すと元の爆弾のサイズに変化する。
「死の爆弾」右手で対象者を爆発し、殺す。自身へのダメージは一切ない。代価として俺の自我の全ての情報を対象者へと教える必要がある。」
ヤスユの父は右手でヤスユの左肩をすでに触っている。
「お前の主の自我は風の自我だな。知っているはずだ。主の自我を使うには代価を払う必要がある。それで父さんなお前の自我の代価を調べた。するとなんだ風の自我を使う代価は異常に馬鹿になることだったんだ。おかしいと思っていた。俺の子供がこんな馬鹿であることは、お前は俺の一生分の恥だ。」
ヤスユは泣くことすらもできずただ何かを話そうともがくが、彼には顔の感覚はもうない。ヤスユの皮膚はバラバラに崩れ去り粉雪のように地面へと降り死んだ。
そんな息子の姿に目も向けることもなくヤスユの父は歩いて行きながら黒色の爆弾を設置し街を破壊していった。ダンダンと歩いて行くとそこには一人の青髪の少女が絶望するかのようにうつむきに座っていた。それに黒い爆弾を設置した後ケルグスは話し出す。彼は彼女の顔が見えていない。
「お前、大丈夫か、」
「……、」
一切ノンは反応を見せることがなかった。それを不思議がってかケルグスはノンの顔を持ち上げる。ノンの顔は鼻水と水が大量に付着していた。
――うわ、気色わりい。
ケルグスはノンの顔を地面へと放り投げる。
――あの顔って、
意識が朦朧の中投げられたことで少しだけ自我を取り戻したノンは現状を少しだけ察知し、地面に投げられたという事実を知らないまま起き上がり泥まみれの顔で座った状態でケルグスに向かって話し出す。
「生きていたんですね。」
――そうか、こいつはあのクソの娘か。さっきの俺の行動を覚えてないっぽいな。
「そうだ、大丈夫だったか。おじさんと一緒に逃げような。」
ケルグスはそう言って手を差し伸べてくる。ノンはそれを見て右手でゆっくりそれを掴もうとする。その遅さにケルグスは苛立ったのか。強制的に自身の手へと近づけようと手を動かそうとする。その動作をケルグスが行った時ノンの脳から記憶の破片が蘇る。それはノンの母の言葉であった。
「ノンちゃん、絶対に知らない人の手を握ってはだめよ。それは地獄への切符掴んだら死んでしまう。だから絶対に握ってはだめだからね。」
ノンは右手をひっこめる。ケルグスはそこにあるはずの手がないことに驚きつつももう一度ノンの手を取ろうと右手を強制的に取ろうとするもノンは一歩下がりそれを避ける。それにケルグスは疑問に思ってか。聞く
「覚えていないか。俺はがりゅ、いや君のお父さんの友達さ、」
「……、そんなこと分かってます。」
「じゃあ、逃げよう。ここにいると危険だ。」
「嘘だ、」
「……、何を言っているんだ? ここにいると火が回ってしんでしま、」
「嘘だ嘘だ嘘だ、」
「なんでか、教えてくれないかな?」
「もう何も信じられないよ、」
ノンはそう言って泣き下へとしゃがんだ。
――……、これはめんどくさい。もう早めに殺しておくか。だが、待てよ。殺す前に俺が殺したと言って絶望を味あわせてそれを見た方がいいんじゃないのか。シクーツが言う通りに。普通はこんなことしないんだがな。まあ、一回ぐらいやってみるか。
「そうだ、嘘だ。俺は魔王幹部だ。」
「……、え?」
ノンはただ戸惑った。
「そして、お前のお父さんを魔王幹部のように見せたのも俺だ。それでお前のお父さんは何処なんだ。もう死んだか?」
「え? えあ、 え?」
――なんだ、つまらないじゃないか、何が面白くてこんなことをシクーツはやっていたんだ。
ノンはただただ困惑に困惑を繰り返していた。
――私は、私は、
「……、おい、何か話してくれないのか。つまらないな。」
「嘘ですよね、魔王幹部なんて、」
「嘘ではないれっきとした事実だ。」
「え、 」
「……、なるほど、もしかしたらお前はお前の父を殺したのか?」
「……、」
その沈黙の末にノンは自身の右手を見て理解した。
――全員私が殺した。
「あああああああああああああああああああああああああ、あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ。」
ノンはそう叫び現在の状況を確認した後その叫び声のままケルグスにナイフを刺そうと近づく。ケルグスはその行動に一瞬驚いたもののすぐにその行動の真意に気付き避けながら赤色の爆弾を二個取り出す。それらをすべてノンへと投げる。
ノンの顔へと当たった爆弾は五秒間爆発しなかったが、五秒後爆発しノンが少しだけ弾き飛ばされる。
――ほー、
その爆発を受けてもノンはケルグスへ向って走っていく。それを無慈悲にも赤色の爆弾を一個投げて爆発させることで自身の元にこさせようとしない。
「ああああああああああああああ」
ノンはただそう叫び続けていた。
その時、シクーツの言っていた言葉をケルグスは思い出す。
「人が全力で頑張ってでもうまく出来ないうまくいかないことが決まっていてそのまま死ぬその滑稽な姿は密の味がするからですよ。ああ、おいしくてたまらない。」
――確かにな。面白くてしょうがないな。
その時ケルグスは満弁の笑みを浮かべた。ノンは煙を抜け少しボロボロになった服と皮膚を無意味に見せつけながらケルグスへと向かって走っていく。
――無残だな。
「ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな、ふざけるなーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。」
その時ケルグスはノンを足で吹っ飛ばす。吹っ飛ばした場所へと走り移動しノンの顔面を掴み目を合わせる。
「お前は、お父さんを思い込みで殺したんだろうな。良かったな。」
「ふ、ふざけ、」
掴まれたまま彼女は地面になすりつけられそのままケルグスは走る。
――なんだ、すごく面白いじゃないか
「ははははは。」
ノンは地面に大量の血を付着したまま倒れその周りに取り出した青色の爆弾を一つ設置しそれが爆発する。
――面白くて仕方ないな。最高だ。
その時ノンは立ち上がりボロボロのままいう。
「存在」
「die everything」
ノンはもはや無感情のまま欠伸をするときに伸ばす手の形を体の後ろで作る。そうすると町全体に白色の四角形が作られ全てを包み込む。
「あ?」
その時ケルグスに過去の情景が思い浮かぶ。
――ああ、
その瞬間ケルグスの感情は浄化され消滅した。
――精神は崩壊しなかったでもやっぱりつらいわね。
ノンは、精神を崩壊せず過去を直視した。そのまま彼女は現実へと戻っていった。




