17.安らかな時間
――あ――、まださすがに来ないのかな。かなり時間がたったようにも思えるけどね。シケン君は死んでいないだろうか。まあ、死んでいたら死んでいたで妥当な気もするけど……。来たかな。
「行きますよ。」
「ありがとね。レイ君。送迎なんて。」
そんな発言をレイは無視しエビルの手を持って目の見えない彼女の手を引っ張るようにして歩かせる。
――まあ、そうだよね。レイ君が来ると僕は思っていたよ。あの段階で一番冷静なレイ君が生き残ってメンバーを率先する可能性が高かったからね。でも不思議なものだ。なんでレイ君はこんなにも早くここに来ることが出来たんだろうね。怪しくて仕方ないけど。そんなバカなミスをレイ君はきっとしないだろうね。でも少し、
エビルは見えない目の方向をレイへと向けていた。
彼女らは狂璽隊の本部へと着きエレベーターで地下一階へと降りている。
「レイ君、今何時くらい。」
「十一、三十」
「そ、……、あそうだ、レイ君僕の部屋からコンタクトの奴取ってきてくれないかな。あれないとやばいことになるんだよね。」
「……、」
レイは無言でいなくなる。エビルはレイの足音を聞きながら呆然と立ち尽くしレイを見送った。
その頃、死殺醜のリビングにはヒキとユウがテーブルに、ムーンがリビングにある自身の部屋で疲れを癒すために寝ていた。ユウは先ほどの出来事を振り返る。
――私は戦闘をしてほしくなかった。転生者なら敵が降参すれば逃げてくれると思っていた。でもそんな考えは甘えでしかなかった。結局転生者はダークネスと呼ばれている人に殺されてしまった。私は何もできなかった……、
その時、ドアが開き誰かが入ってくる。そこには
「誰?」
――この人は誰なんだ?
そこには18歳ほどの紫髪に紫目の女性が立っていた。すぐにその女性は戦闘態勢に入る。
「待ってください。」
ヒキがそう言って立ち上がる。
――どういう事、ここは狂璽隊のメンバーしか入ることは出来ないんじゃ。
その瞬間その女性は左手を前へと出す。左手は変形し一つ一つの指が剣の様な形状になりそれをヒキに向かって伸ばし彼女の体に刺さる。
「グハッ」
そう言い血反吐を吐きながらも言う。
「私は狂璽隊のメンバーです。だから戦いは、」
「嘘をつかないで頂戴。あんた達からは負のオーラを一切感じない。ってことは懟呪を持っていないという事そんなあんた達が狂璽隊に入ること何て出来ないはずよ。」
「分かりました。懟呪を見せます。」
ヒキはそう言って左手を自身の右肩へと置こうとする。その時紫髪の女が左手を伸ばしヒキの左手の先端を粉々にした。
「負の感情を持っているなら普通右手での懟呪の召喚も出来るはずよ。ほら、やってみなさいよ。」
「……、やってみます。」
ヒキはこれ以上ないぐらいに自信のない表情を表に出す。
――どうするか、右手から懟呪なんて出すことは出来ない。左手は使えない。ユウさんは怯えて動けていない。どうすることも出来ないか。ならせめて
ヒキは右手を左肩へと乗せる。紫髪の女性はただその様子を見ている。数秒間それが続くが何も起こることは無かった。紫髪の女性は左手を元の形へと戻し始める。それをヒキは察知しナイフの欣求を右ポケットから出し、右手に持つ。紫髪の女性はそのヒキの動作を見たと同時に左手を剣の形状へと即座に変化させヒキへと伸ばしていく。
「死ね、」
その攻撃がヒキのナイフよりも先に彼女の心臓へと当たりそうになる。
――まだ、
ヒキはその左手の攻撃を飛び避け、空中に浮遊した状態で右手のナイフを紫髪の女性の心臓部分めがけて投げようとする。
――へー、少しはやるじゃない。だけど、
「あんたの負けよ。」
その時
「バカが、やめろ。」
――何この声? あれ、二人が動いてない。
リビングのドアが開く。そこには
「やー、ただいま、そして馬鹿どもが、」
両目が水色に戻っているエビルはそう言って両手を人の頭に押し付けようとするが
――あれ、
見えていなかった為その手は彼女が思っていた場所に落ちずそのまま重力の関係で彼女は頭から地面へと落ちていった。
「イッタ、」
レイはそんな茶番を気にせず空中に浮遊した状態にあるヒキと何かをしようとしていた紫髪の女性に対して言う。
「彼女は仲間です。」
――え、ほんとに仲間なの?
――危なかった。
――……、
その瞬間ヒキが動き出す。彼女はすぐさまナイフの投げる方向を変更しナイフをドアへと刺す。
「ありがとうございます。」
ただヒキはレイにそう言ってテーブルへと戻って行った。
「ヒキ君だね。どこにいるのか教えてくれないかい。僕は今目が見えないんだ。教えてくれないかい。ねえ、聞いてる?? おーい、聞いているかい、おーい。」
――……、
ユウはただそう思いながら、レイの事を見ていた。その十秒後紫髪の女性は動き出す。
「そうなのね、少し疑わしくなってた。で、結局、」
「その声はブスじゃないか。良かった生きてたんだね。」
紫髪の女性フーズは少し動揺しながらエビルの方向を見る。
――げっ、エビル。
「0時を回ったみたいだね。目が見えるようになったよ。ほらやっぱりブスじゃないか。あれ、それにしてもなんで口調を普通に戻してるんだ。」
「…………、」
フーズは少し嫌そうな顔をし数秒間沈黙状態を作り上げた後意を決したのか話し出す。
「和雅名はフーズ、増殖する不満の懟呪を持ちし紫髪の女。」
「まって、和雅名はだめだよ、流石に〇の〇ばの〇ぐ〇〇のパクリになる。もう少し、変えて、」
フーズはイラついた表情を見せながらも少し考えた後話し出す。
「我はフーズ、お前の心臓は我がいただく。」
「それ、怪盗のパクリだよね。もう少しパクリじゃないやつっぽいの無いかな。ブス流の中二的なの。」
「わ、吾……、わ、我が…………??」
ユウはただ困惑していた。
――レイは生きていた。いつばらすかなんてわからないけど、このままいけば正体がばれることは確定している。どうするべきか。
ユウがそんなことを考えているとレイがテーブルへと座りフーズとエビルもテーブルへと歩きついた
「やあ、君がユウ君であってる?」
彼女は少し動揺する。
「は、はいあってます。」
――異常性はなさそうだ。ムーンっぽいと言われればそうでもないし、シケンっぽいと言われれば全然違う。しっかり者でもなければ、緊張癖もあるわけでもない。この子はただの凡庸な普通の子なんじゃないのかな。
――今は一旦変な行動を取ることをやめよう。疑われないように、目立たないように静かにここにいよう。
フーズが左目を抑えながら話し出す。
「吾はフーズ、手に属した物体でそなたを地の底ラブダウンへと送ってやる。」
「まあ、一旦はそんなとこかな。それを永遠に宜しくブス。」
「当たり前だ。吾の手もその言葉に賛同している。」
「はい、お願いします。」
――見せかけの性格っぽいね。ムーンとシケンとそう言うところでは共通しているらしい。めんどくさいとしか言いようがないね。
「はー、」
エビルはため息を吐きながら話し出す。
「僕はエビルだよ。宜しくね。」
そう言ってエビルはユウへと手を差し伸べる。ユウはその手を即座には取らず少しの沈黙の後にゆっくりと手を握った。エビルはその時ユウへと向かって精一杯の笑顔を向けた。ユウもその表情を見て見せかけの笑顔を作った。
その時、リビングのドアが開きキョウが入ってきた。
「お、いたいた、レイと、ムーンと、あ、フーズじゃねえかお前生きてたんだな。それは良かった良かった。ヒキも新しい新人も生きてるっぽいな。あ、シケンは何処だ。」
「キョウ君、そんなことよりなんで君は又裸でいるんだ。」
「あ? また俺やってるか?」
「そうお前は罪を犯している。」
とフーズが全力で中二らしき言葉を放つ。その言葉通りキョウは裸であった。
「早く、着ろ。」
レイはそう言い、キョウは少し腹立ちながら
「あー、分かってるよ。んな事、もう一回行ってくるわ。じゃ、」
ドン!!
そう言いリビングの扉が勢いよく閉められた。
「さ、話してくれないかい。さっき何が起きて今どういう状況なのかを、ヒキ君。」
ヒキは、話し出す。彼女は転生者を一人殺したこと。ユウから聞いたダークネスが助けに
きて転生者を殺しユウとムーンを救った事を話しそれ以外の状況は知らないことを告げた。
「へー、ってことは今シケン君行方不明ってことだね。携帯も持ってないからね。」
「吾は携帯を全員が持っていないことが問題だと思うがな?」
自身の言葉の語尾に適正な言葉を未だ見つけられていないフーズは少し迷いながら放つ。
――あれ、携帯ってそう言えば私は配られなかったけど、
「携帯、詳しくユウに、エビル。」
「……、シケン君はそんなことも言っていないのか。本当に使えないねあの子は、言っておくよユウ君。携帯は新人に渡されて場所が分かる物が入れてある。それによってムーンの場所が分かった。」
「その場所が分かる物が入れてあることは知っています。ムーンさんが見つかった時にそのことをうっすら聞きました。」
「それで新人に渡された後、ある程度の力が育ったと思った時に携帯を取り上げるようにってダークネスさんから命令されてるんだけど、絶対に携帯があった方がいいんだよね。情報を共有できるし携帯が壊れない限りは場所も知れる。それを取り上げる必要性は異常なほどにない。ダークネスさんに頼んでみるかな。」
「そうなんですね。」
ユウはその言葉を言って会話を強制終了させてしまう。その事を彼女は一切気付いていない。
――なるほどね。話を盛り上げもしないし強制終了させちゃうか。ユウ君はシケン君やムーンとは全然内面にある性格や考え方は違うっぽいけど表面上では同類ってことだね。
「シケン君がいないってことは僕が指示するしかなさそうだね。明日の話をしていくよ。明日は、チースム王国へと僕らは向かう。実際は魔王幹部の所に行く組と三つ目の最後の王国チースム王国に行く組で別れてるんだけどね。ムーンだけは魔王幹部の方に行くそうだよ。シケン君から聞いてるかは分からないけど、幻花、分かるヒキ君、ユウ君?」
「分かります。」
と同時に言う。
「ならよかった。その中のツサイとアクム、ムーンが魔王の所に行くことになってるんだ。」
「大丈夫なんですか、魔王軍って強いんじゃ。」
ユウは分かり切っている質問をする。
「まあ、強いと言えば強いけど魔王幹部はもうほぼ転生者達が倒してると思うから大丈夫だと思うよ。あと、自分で分かっている質問をしないでくれないかな? ユウ君。」
「……、は、はい。」
――この人にもばれているのか?
その瞬間リビングのドアが開きキョウが中へと入ってくる。
――ほんとにうるさいな。
「ほらこれでどうだ。」
「そうだね、いいと思うよ。ブスはどう思う。」
「吾は、血以外に興味はない、だから早く消え去れ。」
その発言にエビルは右拳でフーズの頭を叩く。
「いた、」
フーズが素を出してかエビルは何度も殴る。
「ブス、中二がなってなさすぎだよ。もう少し設定をしっかり作らないと。ほんとめんどくさい。」
――マジで腹立つ――、絶対一年後ぶん殴ってやるからな。覚悟しとけよ、エビル。
「キョウ、早く座れ。」
レイはキョウに命令する。
「あ、うるせえな、いちいち命令してんじゃねえぞ。」
そう言いながらもキョウはテーブルの椅子へと座る。
――え、座るんだ、
とユウは思う。
「それじゃあ、話を続けるよ。それでチースム王国での作戦内容は王国の王を数人で最初に倒してその後に王を倒したことを全員に何かしらの手段で報告。国全体を破壊して全員殺して終了。こんな感じだね。」
「あ? 作戦内容、エビルにしてはあんま決まってねえな。適当っていうか、なんとなくだな。あと、……」
「黙っとけ、クソバカ野郎が」
レイはそう言って左手を作り冷酷の懟呪をレイの後ろに召喚し、キョウの時間を止める。その後もレイはぶつぶつと何かを数秒言い、黙った。その言葉は彼女たちには一切聞こえていない。
「それでどうするかだね。僕は人を殺したいから町全体を破壊したいんだけど。」
「すいません、なんで王を先に倒すんですか、それだけ。」
ユウは少し謝るように立って質問をする。
――それなら質問しなければいいのにね。本当に
「王を殺さずに先に国全体を破壊しようとすると王にその情報が行き渡り他の町へと情報が伝わって僕達の存在がばれたり、援軍が来る可能性が高まる。だから王を先に殺すんだよ。分かったら座っててユウ君。」
威圧を掛けながらユウへとエビルは話し終えユウは はい、と少し落ち込むように言って座り込む。ヒキはエビルの表情を観察しユウが言葉を発した瞬間に今日はあまり話さないでおこうと心に決めた。
「それで、レイ君はどうどっちの役割がいい?」
「まち」
「ヒキ君」
「まちです。」
「ユウ君」
「……、まちですね。」
「キョウ君はまあ町でいいかな。さてとブスはどっち。」
――もちろんわかっているよね。ここで誰も入れていない王に入れないといけないことなんてそうじゃなかったら僕は君を
「ふん、そんなことに興味はない、その時の状況に吾は任せる。貴様らのちっぽけな戦闘能力でせいぜい街を破壊するのだな。」
――……、
「それなら、僕は王の方に行くよ。それじゃあ解散。明日の為に休息取っといてね。僕は寝るよ。じゃ、」
――無視なのかよ。
フーズのそんな突っ込みはむなしくエビルが瞬時に帰ったことで意味のないことになってしまった。エビルが帰ると同時にユウとフーズ以外のメンバーは次々とリビングを去り個人部屋へと帰っていく。レイは自身の部屋がリビングにある為そこへと入って行った。
ユウはフーズと二人になったことにかなり時間がたった後に気づき戸惑いながらも空気感に堪えれず外に出ようとする。それをフーズは止めることなくユウはリビングを去り個人部屋へと帰って行った。
「あーーーーーーーーーーー、腹立つ、やっぱあんな契約しなければよかった。ほんと何してんだ私、苛経つわすぐエビルを殺したい。」
「呼んだ、馬鹿。」
「え?」
フーズの後ろにはエビルが存在していた。
「げっ、」
「そんな嫌な顔しないでくれよ、一世同期なんだから。」
「あんたと同期なんていう事実が異常に苛正しいわ。」
「ひどいね。さすが馬鹿だ。」
「もうやめないその言い方普通にフーズがいいわ。」
「それじゃあつまらないじゃないか。それに僕が愛称をつけて呼んでるのは馬鹿だけなんだし、」
「それ全然うれしくないんだけど、一匹狼、」
「久しぶりにそんなセリフ聞いたね。一匹狼って結局何なんだい?」
「あんたから質問なんて久しぶりね。」
「そうだね、僕もあんま、」
「一匹狼の意味なんて全然知らない。狼なんて聞いたことないし、」
――……、
「馬鹿はやっぱバカだね。」
「それはどういう、」
「明日はチースム王国に馬鹿は行けるわけだね。そういえばチースム王国には死ぬ直前に愛する人には反対の言葉を言って愛情表現する風習があるらしいね。気色悪い風習だよ、知ってたかい?? ……まあ、僕にはなんの感情もないけど、」
フーズは突っ込みをすることなくその発言にただ沈黙を貫き、顔を下に下げる。
「……、そ、まあ明日は頑張ってね。僕は馬鹿の事が嫌いだから生きててほしくないんだよ、」
「……は? あんた何言って、」
「無関心の告白だよ……、そんなことも分からないのかな、君は、」
「……、その威圧してると後輩がみんなあんたの事信用しなくなってくわよ、それでもいいのあんたは?」
「別にどうでもいいよ、僕は僕の為に生きてるからね。他人の事なんて大抵興味はない。自分の本心の赴くままに行動する。死んだらそれまで、それが僕のモットー。ああ、これは愛情表現じゃないからね。なんか不満あるかい。」
「……、あんた、クソだわ、」
そう言ってフーズはリビングのドアへと歩きドアを開ける。エビルはその姿を見ている。フーズは後ろを向かずに言う。
「早く死んでくれないかしらね、クソ人間、」
――ああ、いやだいやだ、腹立つのに、好意寄せてるなんて、ほんと嫌だわ。
フーズの口元が少し緩んだ。
エビルは彼女がいなくなって数分後に
「あはははははははは、」
と大爆笑した後、ドアへと歩きそこから立ち去った。
その頃、ユウはベットの上で眠れずにいた。
――あれがこの隊の実力。ダークネスと呼ばれる人は異常。それ以外も懟呪を使っていない状態。欣求という懟呪を持つものが所持している武器での戦いですら圧倒的だった。私との力の差を感じてしまった。
やっぱりあの人たちは怖すぎる、もうここに居たくないとすら感じる。でもしょうがないんだここにいないと何も情報を得ることは出来ない。だから今はひたすらに待つしかない。ただ待つしかない。ただ、
――シケンいなかったな、あいつ、どうしていやがるんだ、いねえってことは死んだってことか、なんだかな――。
キョウは裸の状態でベットの上で気付かずに泣いていた。
「あハハハハハハハハハハ、」
10月12日
4:00:10
――さてと、やっと着いたもう四時頃かな? このままここで待機しようか。ダークネスさんには携帯のことについてのディスカッションでダークネスさんの異常なまでの根拠のない意見を論破できたから明日には全員配られるはず、後はチースム王国の周辺の街を破壊することだね。いつもの事だから大変ではないし楽しいからいいけど、連続で動いているとやっぱり疲れるね。それはそれで楽しいけど。さて、最初にウィーユ街の破壊をするかな。
彼女はウィーユ街に着き最も高い建物を上り座る。
――妙だね、誰もいない、光もない。これは、
彼女はあたり一帯を見渡す。
――人影かな、あれは
彼女は目を凝らす。そこには何者かが立っていた。
――暗くてはっきりは見えないけどあの子笑ってるね。気色悪。
「フッ、
フーズ
不満の懟呪
他詳細不明




