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サイキョウシャ  作者: 若山薫
14/25

14.ハデン

彼は歩きながら剣を抜き始める。


――これもあまり意味は無い攻撃だった。俺の皮膚は全て水でできている見せかけの物だ。見せかけの皮膚の中に他人の俺が殺してきた悪から出た血が入っている。その更に中に本当の皮膚が存在している。敵が本当の血だと思い込んでいる物は全て見せかけの物。


敵の作戦は最後まであまり見抜くことは出来なかったが俺の作戦を見抜こうとしている気はなかったように思われる。だが、能力自体は見破られているかもしれない。俺の能力が水を操る能力であるという事。それだけは見破られているだろう。まあ、それ以外の点で言えばなんとなくでやっていたことが多いだろうが、


そこまでは感覚的に分かってはいても完全には分からなかっただろう。やはり俺の欠点は能力自体の少なさにある。それによって完全に能力を全て使い切ってしまう。作戦自体が曖昧であるという欠点もあるとは思うがやはり前者が最も欠点だろう。そこを直すしかないな。


そんな時にも剣の懟呪からの攻撃は止まらない。彼はそんなことを気にせず歩きながら刺さった剣を永遠に抜く作業を行っていた。そのころシケンは、自身の現状を強制的に認識する。


――これで私は死ぬ? 目的も達成できずに、この水が足にだけある場所で死ぬの?そうかあの時も私はなんだかんだ負けたんだっけ。死にはしなかったけど。


そうして彼女は過去を思い出す。



「ねえ、ねえってばハデン(ねえ)聞いてるの?」


と八歳だったシケンが自身の姉であるハデンに向かって遊ぶことを強要するような言い方をする。その妹の言葉にハデンは


「なに、遊んでほしいならシグナル(にい)に遊んでもらえばいいんじゃないの。」


と自分が遊ばないことを当たり前かというような言い訳をする。


「そうだけど、だって、」


とシケンは何かを言おうとするもそれを言う前にハデンはシケンの元から立ち去ろうと歩き出す。そうするとハデンの前から男がやってくる。男はハデンを見ると同じ目線になるように座って言う。


「ハデンは本当にめんどくさい子だね。自分も遊びたいのにツンデレみたいにしてさ。ちゃんと話せばすごくいい姉妹なのに。」


「子供扱いしないでよ。シグナル(にい)、同じ目線にしなくていいもう私は11歳よ。」


そうハデンは言い、シグナルという18歳の男の顔面を優しく殴る。


「そうか、そうか、すまん。いい子だな。」


シグナルはそう言って元の体制に戻りハデンの頭を優しくなでる。その対応にハデンは


「……、貴方は私のお兄ちゃんでしょ。ペットみたいに接っしないでよ。もうほんと嫌になるわ。」


ハデンは怒ったように言いながらもその口は終始笑っていた。それをシグナルは見ながら頭をなでる事をやめずにさらに少し強くしてなで続ける。


「そうか、そうか、よーしいい子だ。」


「だからやめろって言ってるじゃないの。」


「そうか、そうか、ハハハハ。」


そう笑いながらも頭をなでる事をやめない。ハデンは もー、 と言いながらその後それを続けられていることに一切の文句を言わなかった。その時シケンが話始める。


「シグナル(にい)、遊んでくれる。」


そう言われたことでシグナルはハデンの頭をなでる事をやめその姿勢のままシケンの方を向き言う。


「いくらでも遊んであげるよ。ハデン姉様も、もちろんやってあげるよね。」


シグナルは笑いながらそう言う。


「……、い、嫌よ。」


「正直者じゃないな。たまには一緒にやらないのか。」


「嫌だわ。」


そう言ってハデンは歩き始めこの部屋から立ち去ろうとする。


「シケン、ちょっとこれを言ってくれないかい。~~~~~~~~~。」


シグナルはそうシケンに耳打ちをして


「分かった!!」


シケンは大きな声でそう言った後にハデンを指さして言う。


「ハデン(ねえ)、い―――――――――っつも遊んでくれないっ!!!!」


ハデンはその言葉に一切反応しないことが出来ず後ろを振り返って言ってしまう。


「分かったわよ、遊べばいいんでしょ。遊べば。」


ハデンは渋々ながらも遊ぶことに了承した。


「やった――。」


「良かったねシケン。ハデン姉(ねえ)と遊べる!!」


――あなたが一番喜んでるじゃないの。


とハデンは11歳ながらにしてすごく冷たい突っ込みを自身の兄にしているのであった。ハデンとシケンは外へと出てシグナルが何かをとってくる。


「ハデン(ねえ)、なんでそんなにいつも怒ってるの?」


「別に意味はないわよ。ただなんか分からないけどむしゃくしゃするだけ。」


「なんで?」


そんなシケンの疑問の回答をハデンは知らなかった為答えることは出来なかった。


「なんで、なんで? ねえ、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、ねえ、なんで、なんで、ハデン(ねえ)、なんで、なんで?」


知的好奇心旺盛のシケンは何度も何度も聞く。その言葉に苛立ちが少しずつ募ったハデンは本当の怒りを少しだけ出そうと声を上げようとする。


「う、」


「遅かったよね、ごめんね。ハデン、シケン。これから遊びを始めよ。」


その瞬間にハデンは言葉を発することをやめ、通常の雰囲気へと戻った。


――危なかった。ハデンが少し苛立っているところが見えて本当に良かった。姉妹喧嘩にならなくてよかった。危ない、危ない。


シグナルはそう言うと中央に缶を置きいう。


「これは何よ?」


ハデンは説明を求める。


「そうか、これを一度もハデンは遊んだことなかったんだね。これは缶蹴り。」


「缶ってこの庶民的な物が?」


――庶民的って、


「そうだよ、これを缶というんだ。」


「フーン、不思議なものね。」


――知らないことが普通じゃないんだけどね。


「缶蹴りは鬼ごっこの発展形、応用系?? みたいなものなんだ。鬼と逃げる人がいて鬼は逃げている人を見つけ名前を読んで缶を一、二、三と言って踏む。そうすると見つかった人は捕まってしまう。逃げる人が缶を蹴れば捕まった人は解放できるんだ。」


「何よそれ、すごく逃げる人が有利じゃないの。」


「そうだね、でもここには三人しかいないし前まではハデンがいなかったから二人で遊ぶことが多かったんだよ。だからそれほど偏りがなかったんだ。」


「そうだけど、ここじゃ狭く、」


フィールドの自我(フィールド)


シグナルがそう言うとあたり一面が変化していき視界から見える風景が野原へと変化する。そこに隠れる場所として建物や遊具が少しずつ存在している。


――なるほどこうなるのか。


「この風景はなにか分からないけど、いいじゃないの。」


「そうでございますか、上から目線でありがとうございます。ハデン(ねえ)さま。」


と少しだけ煽るようにシグナルは言う。ハデンはそれにイラつくこともなくむしゃくしゃすることもなくその言葉を無視した。


――来ちゃったか、このハデンの集中した状態が。容赦ないからな。この状態にハデンがなっちゃうと。負けず嫌いだからという訳ではないんだよね。それがまたすごいところではあるけど。これは相当なハンデが僕達に必要っぽいな。


「ねえ、ハデン。」


「……、何よ。」


「ハデンは鬼ごっこ強かっただろ。だからこの缶蹴りも強いと思うんだ。だから最初で悪いんだけど僕達が逃げる側をするからハデンが鬼側をやってくれないか。」


「いいわよ。」


ただそう即答した。


「そうか、ありがとう。行こうシケン。」


そう言いながらシグナルは走る。


「え、なんで、ハデン(ねえ)が鬼なの。シグナル(にい)。」


「それはあれだよ。強いからだよ。頑張って逃げて鬼に勝とう。あ、言い忘れてたけど一分後に開始で十分で終わりだから。よく覚えておくように。」


「頑張ってね、ハデン(ねえ)!!!!」


この時一切ハデンが反応することは無かった。彼女がこの時間何を考えていたかは分からない。ただ彼女はただ一点に集中して何かを考えているようだった。そうして一分を体内時計で図っていたハデンは動き始めた。動き始めた時間は正確に一分であった。


――ハデンは圧倒的な集中力とその場での冷静さ。勝ちに直結するために動くことが出来てしまう。だからハデンはあまり遊びというものを面白いとは思えないしシケンと遊んでも自分がいつも勝ってしまう。その事に何かしらのシケンへの申し訳のなさが働いて、あまりシケンと遊ぶことをハデンは避けてきたんだろう。でも、初めて遊ぶ遊びならハデンにも負ける確率はあるんじゃないのかな? そう思ってやってみたけどどうなるか。


「シグナル(にい)、見っけ。」


「ハハ、見つかっちゃったか。」


「インチキ。」


ハデンはそう言った後に缶の場所へと戻り


「一、二、三」


と缶を踏みながら言った事でシグナルは捕まった。


――あれ、シグナル(にい)捕まった? どうやって助けよう。


「捕まっちゃったか、やっぱりハデンはすごいね。」


と後ろの髪を掻きながらシグナルは目の前のハデンに対して言う。その言葉に彼女は一切耳を傾けず言葉を放つ。


「リューz。」


「ちょっと待て。」


とシグナルがいいハデンの右腕を掴む。それにハデンは反応し不満顔のままシグナルを見る。


「何よ。」


「副の自我を使うことは無しにしよう。これは一世遊びの一種だよ。姉として遊びとしてその手段はずるいと思うんだけど、分かるよね。」


「……、わ、分かってるわよ。そんな事。」


そう言ってハデンは動き始める。シグナルは笑って手を振って彼女を見送った後少し眉をひそめた。


――それは嘘だね。ハデンは集中しすぎて一切周りが見えていなかった。普通副の自我を妹と遊ぶときに使うことはない。使っても二人ともが了承して又はその遊びとして使う事が多い。なんでなのかは分からないけどハデンは集中すると一向に周りが見えなくなってしまう。そこが遊びを初めて行う時のハデンの一つのデメリットかもしれない。


そんなことをシグナルは思っているとハデンが缶の元へと戻ってきて缶を踏み


「一、二、三」


と言いシケンは捕まった。


「捕まったちゃった。」


「やっぱり二人とも弱いのよ。私には何度やっても勝てないわ。」


そこでシケンの過去の回想は終わった。


――この後何度か缶蹴りをやってずっと負けたんだっけ、でも一度だけ勝てそうになったんだよね。……、






もうずっと負けてバッカ。このまま死ぬ。









その時自身が受けた屈辱と痛みを、ただそれを感じるただそれを受ける痛みを彼女は一瞬だけ思い出してしまった。だが、その一瞬は彼女が生きるための理由と感情を持たせるのに十分な時間であった。




















――ハデンを


殺す。


「剣の部屋」(ソードフォール)


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