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サイキョウシャ  作者: 若山薫
13/25

13.ただひたすらに

――交渉的な物は彼女には不可能なようだ以外にもしっかりとした目的と価値観を持っている。まあどうでもいいのだが、先ほどまでのは俺を試すための作戦であったと受け取る方がよさそうだ。そう考えると完全に殺せる作戦を構成しなければいけない。敵に悟られている情報はいくつか存在している。


彼がそう考えている時剣の懟呪は前と同様に剣を彼へと向かって近づき振りかぶろうと又は刺そうとしている。


――そんなことを考えるよりも今は自分自身の守備に転じるしかなさそうだ。黒い物体は今後ろに三体、前に二体存在している。先ほどの状況と変わらないように見えるが確実に違う事は俺の今の状況だ。黒い物体の実体化された剣で刺され水の剣もまだ生成していない状態にある。流石に黒い物体の再度の攻撃の前には完成するとは思うが。このままだと剣自体を全て避ける手段がなく剣が何本か刺さる可能性が高い。


――水での攻撃の具体的な詳細は分からないけど、あんな場面で交渉を持ってくるほどの冷静さがあるという事は、作戦を戦闘中に考える事も出来る可能性が高い。なら私は転生者に勝つには何をすればいい。今考えられるのはただ攻撃を束ねて考える隙を与えないこと。私にはそれしか今は思いつかない。


彼の前には剣の懟呪が二体、後ろには三体おりすべてが彼に攻撃をしようとしている。


――このままだと逃げる手段が存在していない。一旦これをやって逃げるほかなさそうだ。


彼は両手を水で覆う事を突如として停止し、壁の方向へと体を回転させ、両手を剣の懟呪へと向ける。そうして手から水を出し剣の懟呪へと当て剣自体が分解され消滅する。


――敵の再生スピードは約二秒。今この段階で敵からの全体攻撃の剣の本数は合計十五本。十五本は俺の腹に刺さっているはずだがその場合にも剣自体は生成されるらしい。これもすべて敵を弱いと思い込んだ俺の直観力の鈍感さが招いた現実だ。まあ、逃げようとすれば実際は簡単に逃げられるがな。


彼は彼女がいない彼が先ほどいたドアの方向へと走っていく。同時に水を手から発射し彼の前にいる剣の懟呪の剣を分解させていく。


――これで向かっている方面からの剣の攻撃は防ぐことが出来る。だがあと二体の剣六本は防ぐことは出来なさそうだ。後ろに手をやったとしても前方の黒い物体の剣全てを消滅させることが出来なくなるさらに言えば後ろに手をかざしたとしてもどこに何があるかを把握することが不可能。水で剣を部分的に当てることは出来ないだろう。あたってもあの黒い物体に当たるだけだろう。


彼はそのまま直進し剣の懟呪三体の剣を一時的に水で破壊し消滅させる。剣の懟呪の剣は徐々に形作られていく。彼の後方に存在している剣の懟呪の剣が彼の腹に六本すべて刺さる。


――流石にそうなってしまうか。だが、先ほどの行動で敵の方へと走り抜け敵を殺そうとしても敵が剣を振って黒い物体を動かし五体との戦いになっている可能性が高いだろう。そう考えるとそれよりかはこの方が得策とはいえる。


――転生者が何をやりたいかは私にはわからない。今ここで止まって考えていることが最適なのかも分からないけど。この状況下で敵が逃げて更に剣を六本刺されるようなへまをすることが変だと私は思ってしまう。よく考えろ私、この状況で剣を刺されることのメリットを考えろ。敵のメリットは私を罠にはめることが出来るのと、あとは能力自体を下手に見せる事をしなくてもいい事。


この二つから考えて今敵の所へと行っても罠の場合ははまってしまうし、隠された能力がある場合それでやられる可能性もある。第一今敵が持っている能力の詳細を見てはいるけど考えていないから知らない。まずは水の能力について思い出して深く考えないと敵の考えている事すら分からない。脳を使って考えるんだ私。


シープは前方へと走り続けるも黒い物体の黒い部分に当たり一時的に走れなくなる。


――体全体も実体になったのか?


水を手から噴射して黒い物体の体の一部分を一時的に消滅させ剣の懟呪を抜けることに成功したシープは、そのまま少しばかり直進し自身が入っていたドアの前へと到着する。体からは少し血が垂れている。


――まだ黒い物体の剣の攻撃は来ている。生成スピードは衰えがないようだ。攻撃自体も一体の時と変化ない。強化されているわけでもなく、弱体化しているわけでもない。黒い物体の剣以外の黒い部分は、攻撃をするほどまでに強い刃の様なものを持ってはいないが、剣で斬ったり、水を当てて一時的に消滅させておかないと抜けることは出来ないようだ。黒い部分体全体も剣と同様に実体と化しているのか?


彼は両手を覆うようにし五秒後に水の剣を生成した。シケンの前にいる剣の懟呪はそのまま動かず、他三体は彼が進んだ方向へと動き続けている。


――剣が九本同時に九秒後ぐらいにきて遅れて六本がその十秒後くらいに来そうだ。さっきの挟み撃ちに比べれば楽だ。ここで俺が考えるべきことは作戦だ。油断が生んだ今の状況。作戦があった場合こんなことにはなっていなかっただろう。


敵の能力のおさらいだ。まず一つ目黒い物体を出現させることが出来る。その時謎のポーズの様なものを左手で取っていた。手で形作らないと出現は出来ないと考えられる。


二つ目黒い物体を、敵が持っている黒い剣を振る。又は持つことで出現させることが可能。その時五本指でしっかりと握っていた。三つ目さっきと同様の手を右手で作ることで黒い物体を一体から五体に増殖させた。


黒い物体が元から存在しておりそれを俺の目にも見えるようにしたという可能性もあるが、一つ目の時は急な水の攻撃に驚いていた為事前の準備は出来ていないと考えられる。その為事前準備が出来ていなくても出現できる。手によって出現させることが可能だと思われる。


敵がそれも考えて事前準備をしている状態でそれを隠すために驚くような身振りを振っていた場合。その場合は、二回も俺をはめたことになる。それでも敵は俺を倒すことが出来なかった。そこまでの作戦内容を考えれた場合そんなへまをするだろうか。そう考えれば事前に準備をしていなくてもある特定の手の形を作ることで黒い物体を出現させることが出来ると考えられる。


四つ目、敵の傷の回復の能力。これは黒い物体を出現させたときにのみ起こったことだ。右手で黒い物体を増殖させたときにはそれが起こらなかったという点を踏まえると回数制限があるとも考えられる。だが、それは不確定だからこの能力も作戦の中に組み込まなければならない。五つ目、黒い物体の体自体が実体と化していると思われる点。その上すぐに斬った部分、なくなった部分、消滅した部分は形作られもとに戻ってしまう。


剣が刺さっているのはどうにかなるとして、これらの能力と不確定要素を考慮して作戦を立てる。完璧で抜けのないただ敵を殺す為だけの作戦を。


彼は自身に刺さった剣に触れることなくただその場で作戦を考えながら剣の懟呪の攻撃を待った。


その頃シケンは水の能力についての詳細を考えていた。


――転生者が持っている水を操る能力はいくつか種類が存在していたはず。まずあったのは水を手から直接出す能力。これによって私は暗闇の中から攻撃を受けてしまった。次に水の剣が生み出されていた。その後に敵は自分の体を水で覆って、剣の懟呪の剣を消滅させていた。


そのあとに、剣の懟呪の新しい⑥の能力「利き手の感謝」(ラブライトハンド)によって剣の懟呪を五体へと分身させ、敵は「波」という声を上げた後に水が敵の体全体を覆っていた。敵の能力は水を操る能力であることは間違いないけどどうゆう条件で水を操っているのかは一切分からない。声で「波」と言ったのには何か意味があるのだろうか。ただ私を惑わすための策略? 全く分からないけど、敵が絶対に私を騙して策略的に勝とうとしていることは確実。


交渉を持ち込んで嘘の情報を言って自分だけ得しようとした可能性が高い。そう考えると時間を稼ぐメリットがあるのかもしれない。それももしかしたら策略のうちなのかもしれないけど。


時間がたてばたつほど今の状況では敵は剣が刺さっていて貧血になるリスクがあるから。このまま時間を使うメリットは私にも敵にもないはず。ただ私は敵を殺さないといけない。このままいっても敵の策略にはまって負ける。それなら策略にはまってしまえばいい。この敵は何処まで天才かは分からないけどある程度頭がいい。この冷静さと冷え込みすぎている目を見ればわかる。


そう考えれば逆に策略にはまってしまってそこから敵の作戦を考えた方が……、待ってでもその頭のいい敵の作戦を私が考えれることが出来る? 無理。ならどうするべき、


シケンが思考を巡らしている間に彼は水の剣二本を地面へと投げたその間に手を水でまとい五秒経過し新たな水の剣二本を両手に持ったタイミングで


「瞬」


そういうと彼の体全体が水になった。それが浮遊し、剣の懟呪二体の前に水の液体が飛んできてすべての水の液体が移り終わると水の液体が人に戻った。この一連の行動は四秒ほどで行われた。


――ヤバイ、このままだと前の繰り返しに、何か何か、何か、


そうして彼女は考える。考え考えつくして何かを思い出し少し苛立っているような表情を顔に出しながら言う。


「腹が立ちますね。」


彼はそのまま水の剣を持ちながら走り続け、後ろから来ている剣に見向きもしていない。彼女は自身の

剣の欣求(シスターウィンング)を振り剣の懟呪を一体瞬間移動させて出現させ、後ろへと走っていく。瞬間移動した剣の懟呪は、彼女の背後につきながら三本の剣を彼の方へと向かわせる。彼はすぐさま目の前にいる剣の懟呪二体を水の剣で斬り彼女を追いかけ始めた。


――これだとさっきと同じで防ぐことが出来ない、駄目だ自分の身を防ぐことが一番大切なのにそれすらも考えてない。元から私はすごくバカだったんだ。バカな振りをしなくていいっていう利点はあるけど。


彼の握っている水の剣の剣先は他四体の剣の懟呪たちの方向を向いており剣先から水が吹き出ていた。その水の攻撃を剣の懟呪達はもろに受けておりどれだけ生成しても永続的に攻撃が当たるようになっており、その剣が彼の元まで届くことは無かった。彼女は後ろを振り返りながら走る。


――剣の懟呪がやられていて攻撃が当たっていない。この状況ならまずは剣の懟呪あと二体をこっちに持ってきて彼に攻撃を少しでも当てるようにしたい。このままだと敵に攻撃が当たらない可能性が高い。


彼女は一度立ち止まり、もう一度五本の指でしっかりと剣を握ったまま剣を振る。そうすると水によってかなりの部分に空洞が開いている剣の懟呪がもう一体瞬間移動した。その瞬間彼は剣先を前へと向け水を噴射するのを止め目の前にいた剣の懟呪二体を斬り彼女の目の前へと到着する。


――ヤバイ、このままだと前回と同じに。


その時彼は両手から水の剣を床へと捨てて


「氷」


そう言うと水の剣は液状へと変化した後に固体と化し冷凍に床が凍る。それが彼女の元へと行き彼女は凍ってしまい動けなくなる。彼の目の前にいた剣の懟呪二体も凍るには凍るがそれは一瞬の事で、二秒ですぐに元の状態に戻る。


彼はもう一度剣を両手から生成する。その生成時にも剣の懟呪の猛攻は収まることを知らず、前からと後ろからの猛攻撃により剣が当たりそうになっている。


――まだ、大丈夫だな。


水の剣を両手に生成した瞬間に氷を解く。その時には前方の剣の懟呪からの攻撃をシープは受けさらに六本の剣が刺さる。


――氷の生成をすることは分かったけど、この時間は必要があるのか。


その時彼が彼女の目の前に到着していた。


――これは私を油断させるために、


彼は彼女の顔に向かって右手の剣を振る彼女はその攻撃を避けるもよけきれておらず彼女の左手自体が切り落とされる。


彼は彼女が保有していると考えられる五つの能力の考察から攻撃手段を確定させていた。


――まず、最も重要になることは敵の指を死滅させる事。そうすればこれまで上げてきた条件の大半を枯渇する事が出来ると考えられる。勿論、黒い物体が残るとは思うが傷が治る可能性と剣を振ったりすることで黒い物体を前に出させることの確率を減少させることが出来るはずだ。第一黒い物体自体を殺すことは今までの事から不可能だと考えることも出来る。その為敵にそれをある程度使わせなくするという点で見てもこの作戦が最も合理的かつ安全な作戦だろう。



その後敵の能力を完全に理解する為に敵自体に死という恐怖を少しだけ与えて敵の能力のさらなる提示を期待し、ほぼ能力を提示しただろうと俺が直感した時に部屋の中に入れて殺す。ただそれだけだ。


――ヤバイ、剣の懟呪を召喚できなくなる。剣を振って瞬間移動することはまだできるけど右手がなくなったら。


――あとは右手を。


彼は左手の剣でもう一度彼女を斬ろうとする。左手が切られたことに驚きながらもその行動に瞬時に彼女は気付き剣の欣求(シスターウィング)でそれを抑え込む。彼の左手の剣が彼女の剣と触れる前に彼の右手の剣で彼女の右手の中指、薬指、小指を切り落とし彼は両方の剣で彼女の剣を抑え込む。


――前と同じ、また押し負ける前回みたいに何か新しい手段を生み出すことも出来ない。剣の懟呪をここに瞬時に移動させてもいいかもしれない。でもいまもう敵には剣がいくつも刺さっているそれでも彼は一切変化を見せようとはしない。ということは剣の懟呪を出して剣を刺してたとしても動かなくなることは無いという事になってしまう。それなら


彼女は剣で水の剣を抑えながら剣の懟呪を目の前に召喚させる。


――右手の人差し指と親指しかない状態で黒い物体を出したという事は条件なしでも出現させることは出来るのだろう。情報としては少ないが右手と左手をほぼほぼ失くしたという点で見れば次の手には持っていきやすい。


作戦も多く作ることが出来る。だがなぜ今このタイミングで黒い物体を出現させたのか。先ほどの戦いで水の剣に防がれていたというのに。


その剣の懟呪は剣を持っておらずただ右手がいくつもある存在と化していた。


――なるほど剣を持たせずに黒い物体の手を使って俺を捕まえ攻撃する根端か。剣をどれだけ刺しても俺を殺すことが出来ないと悟ったのだろう。これで黒い物体に対して敵側から指示が出来るという事と、剣を持っていなくても黒い物体は存在することが出来るという事は分かった。


彼は黒い物体の右手に掴まれた後ぐるぐると回され彼女から離れたドア付近の地面へと叩き落される。


それと同時に剣の懟呪は彼にめがけて剣の攻撃を束ねる。


――かなり何度も攻撃してくるな。苛正しい。


彼は水の剣を掴まれている最中に作っておりそれを出し剣の懟呪の攻撃をもう一度剣で斬りながら彼女がいる方角へと進む。剣が何本か刺さりながらも歩みを止めることはしない。


――剣の懟呪のさっきの攻撃はやってこないようだな、ん?


剣の懟呪を抜けた先に彼女はいなかった。


――……そうか、


シケンは剣の懟呪の手によってドアの前へと持ってこられていた。


――なるほど、ドアの中に入り鍵をかけることで俺が剣の懟呪と戦う事を強制させようとする作戦か。転生者がほかの転生者のかたき討ちは絶対にするだろうから逃げることはないだろうという理由からやってきたな。


――頭のいい敵の作戦なんて私には絶対に思いつかない。だから相手の癖を知ろうとした。それは案外簡単な事だった。それは何度も敵は同じ流れへと持っていくということ。それが敵の癖だと私は思った。だから私自体がいなくなれば敵は癖に頼っていた作戦自体を壊さなければいけないだろうと思ったからやってみたけど。どうなるかはわからない。よし、後はこれで鍵を掛ければ。


――バカだな。俺がいた部屋に入るとは。


その時ドアが勝手に閉じた。部屋の底には水が満ちており彼女の足が少しずつ分解されていく。ドアを開けようとしても一切ドアが開くことは無い。


――これはまさか、罠にはめられた。


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