12.浅すぎる解釈
「貴方は転生者ですね。」
と暗闇で見えない者へとシケンは声を掛ける。
「……、」
その者からの返事はなくもう一度水が迫ってくる。
――躊躇してくれない、避けるしかない。
シケンは先ほどの攻撃を受けてそう判断し自身の目の前へと来た水を左へと飛んで避け少しドアから離れる為に走り一定距離離れた場所で止まる。剣の懟呪も同様にしてシケンの前に付きながら動く。
――この水は転生者の能力であることは間違いないと思うけど、能力の詳細がないから敵がどう動いてくるかは一切分からない。どうやって動くべき??
シケンがそんなことを考えているとその転生者は暗闇であった部屋から出て姿を現す。その者は、男で黒髪に青色の目であった。その転生者シープはシケンが飛んだと思われる右方向を見るとそこにはシケンが存在していた。
「お前が、謎の黒い物体を使って転生者を殺している者であっているか?」
――なんでそれを知っているの?? まさか情報がばれている!!
少しの沈黙がその場を支配する。
「……そうか、それでは殺す。」
とシープは言い、ドアを閉める。
――情報がばれている。ヤバイ、その情報をなんでレイさんは言わないんだ、一回はあの地下らしき場所でこの転生者の仲間と戦っているはずなのに、なぜかは分からない、分からないけど。この転生者らしきいや水の能力は固有能力だ。多分、だから敵は転生者、転生者は絶対に私たちの事を知っている。だから、だから、だから、
と自分自身が考えたことの結論が出ないままにして動かずに考え事をしている。その間にシープはシケンが動かないことに少しも動揺せず、表情を一切変えることなくシケンへと向かって走る。シケンは考え事に集中している為それに反応できなかったがシケンの懟呪剣の懟呪がそれに反応する。剣の懟呪が反応したことでシープは動くことをやめ止まる。
――剣か、
剣の懟呪は黒色の物体であり右手はなく、左手が三本生えており左手はそれぞれ剣を一本持っている。存在していない右手は切断されているかのようにすっぽりと空いている。顔は何処にあるかよくわからない構造になっており、左腕以外の部分は大きさこそ限定されるが勝手に動くようになっている。
――敵の謎の黒い物体を操る者は怒りっぽいとか様々な憶測が飛び散っているが実際にどうかはまだこの時点では判断不可能だ。一旦その黒い物体を見て分かることは異常に強そうと恐怖すら少しだけ感じてしまうほどの威圧感があること。それぐらいの情報しか判断することは出来ない。
敵に攻撃してどのように動くかを知り作戦を立てないと勝つまでの手段が見えない。一旦もう一度攻撃してどのような能力を敵が保有しているかを判断するべきだな。今分かっていることは敵が何かしらの回復のスキルのように見えるものを持つことと噂通り何かしらの黒い物体を保有している事ただそれだけ。
彼は両手を水で覆い五秒後水をまとった剣の様な形状のものを作り終わる。彼女は時間を気にしだす。
――このままこの転生者を倒すことが最も優先すべきことだとは思うけど。やっぱりムーンを早く助けないといけないという思いも強い。でもこのまま敵を他の人の場所へ連れて行っても行った先に仲間ではなく転生者がいる可能性もある。どうしたら、
そんなことを考えている間にも転生者シープは感情を表に出すことなく剣の懟呪へと迫っていく。彼はそのまま剣の懟呪へと走りながら両手の剣で斬る。
――斬ったがインパクトが薄いな。実体ではないのか。この黒い物体を斬ってすり抜けることが出来てしまった。影か、敵の能力なのか。どちらにせよ、意外にも今目の前にあるこの物体自体は弱い可能性が高いのかもしれない。まだ不確定要素は多いが、
彼はそう思いながら剣の懟呪を抜けた先にいた彼女へと標的を定める。剣の懟呪の斬られた場所はすぐに再生しており剣の懟呪は左手を一つ使いシープへと剣を刺そうとする。
それをシープはシケンの方向を向きながら左手の水の剣で止める。
――剣は実体だ。インパクトがかなりある。
シープは左手に力を入れ剣の懟呪の剣を持ち上げて振り払い、そのままシケンへと直進をする。左手は剣の懟呪の意志で元の場所へと戻っていく。
――ヤバイ、作戦が思いつかないまま転生者がこっちに来て、
棒立ちの様な状態にある彼女を目の前にとらえた彼は
――案外弱そうだな、まあそれが作戦の可能性もあるが、一旦今できる最善を。
シープはシケンの体を真っ二つに斬ろうと剣を後ろに持ちながら走ってくる。
――ユウさんやヒキを助ける時間は今ない。だから今はこの現状をどうにかしないといけない。でも、ムーンを早く助けるためにはこの人から逃げながらムーンを探したほうが、ヤバイ!!
シケンはそう思い焦りつつも自身の左部分にある所の鞘に収めていた黒色の剣、剣の欣求を右手の五本の指でしっかりとつかんで取り出し即座に前方へと振る。振った場所にはシープはまだおらずその数メートル先でシープは走っていた。
その時シケンが剣を振った場所へと剣の懟呪が召喚される。目の前に突如として現れた剣の懟呪を見てシープは少し動揺しながらもそれを顔に出すことは無く、1秒ほどで我に返り剣の懟呪への攻撃を躊躇なく始める。
――これが敵の能力なら分かりやすく能力を提示してくれてありがたい。敵は自身の剣を振ることによってその振った場所へと剣を何本も持った化け物の様な存在を瞬間移動することが出来る。ただただ単純な能力で隠そうとすれば隠せそうな能力だが、彼女もしかしたらかなり弱いかもしれない。
焦ったような咄嗟の動作もそれを物語っている。これは簡単に勝つことが出来るかもしれない。だが油断は禁物。細部にまでこだわって絶対に勝つための作戦を立てなければいけない。そうしなければ死ぬリスクがある。
――ヤバイ、転生者に能力を無意味に提示してしまった。落ち着け私、落ち着いてリーダーなんでしょ私は、落ち着いて落ち、
剣の懟呪は先ほどの教訓からか左手を三つ使い、剣をシープへと向かい振る。それを彼は直感的に感じ走りながら自身の上半身から水を生み出し、それで自身の足以外の部分を瞬時に覆う。
――1か。
剣の懟呪の左手三つは彼の心臓部分と右手、左手を狙っておりそれらが彼を覆っている水の中へと侵入する。水に触れた直後にその剣は細胞レベルにまで分解され破壊された。その事に気づいた剣の懟呪はすぐさま左手三つの攻撃をやめて自身の体の近くへと持ってくる。そうして二秒後に剣が再生する。
――剣は実体だが半永久的に再生するという訳か厄介この上ないな。
――多分、転生者が持っている能力は水を操る系の固有能力。でも、水の威力が半端じゃないほどすごいし、操る力もかなりある。水自体を剣に変えることも出来るし自身の体にも覆う事が出来る。このまま転生者を倒したい。けど、本当に倒せるのか。剣の懟呪でこれほど攻撃しても簡単によけられたり受け止められたりしてしまう。このままだとやばいんじゃ。それなら逃げて全員で戦うしか。
「しね。」
シープはシケンの真上に存在しておりそれを彼女は彼の声が聞こえるまで知ることが出来なかった。
――ヤバイ剣の懟呪をもう一度召喚するしか、
彼女は剣の欣求をしっかりと握って空振りし剣の懟呪を彼女の真上へと瞬間移動させる。それに躊躇することなく彼は飛んだまま彼女めがけて向かってくる。その時体全体を覆っていた水は消えていた。
――斬ればすり抜けることが可能な事は分かっている。ただこの状況で敵が何も動かなければ勝ちで簡単に倒すことが出来る。しかしそんなに簡単に倒せられる存在だった場合、転生者がたくさん殺されたという噂があるが、ここにその者が存在しているという事実からその噂が事実の可能性が高いという推測になることが少しだけ苛立たしい。
――このままだと剣の懟呪をすり抜けて私に攻撃が当たってしまう。どうにかしないとどうにかどうにか、今はあれしか。
その時剣の懟呪を彼は斬って彼女が直視できるようになる。
――何かしらの罠であることは間違いない。だがこれが罠だとしても防ぐ手段は存在している。まだこの状況でそれほど敵の罠を恐れることは無い。剣の形状に変化なし。剣の本数が増えているわけでもない。このまま勝つと変な気分になりそうだ。罠であることを願う。
「フッ、」
無意識に勝利を確信してしまった彼は息が吹き出てしまう。
「調子に乗らないでください。」
シケンはそう言って水の剣の攻撃を剣の欣求で受け止める。飛んできたことによる重力のプラスが剣にさらに威力を増す。彼は地面へと着地しそのまま二つの水の剣で彼女を押す。
――それほど強くない。これはただ弱いだけなのか? いやだが調子に乗るなと言って。
そう思っていると剣の欣求の先端から剣の懟呪が出てくる。剣の懟呪は左手三つを彼へと振りかぶる。
――これなら。
――そうか。まあ、それなら別にどうにでもなる。
剣の欣求へと使っていた右手の水の剣を使い攻撃してくる剣の懟呪の左手三つを同時に抑え込み切り裂く。剣の懟呪の剣は切り裂かれ左手全てが体の近くへと戻っていく。この時左手の水の剣は彼女の剣の欣求を抑え込んでいる為彼女はまだ逃げることが出来ていない。
――ヤバイ、このままだと死ぬ。これは、これは、これが絶望?
彼は右手の水の剣をもう一度剣の欣求へと当て抑え込むようにする。彼女は抑え込められ踏ん張ってはいるものの徐々に地面へと近づいて行っている。
――このまま後は剣が粉々になるのを待って何度か来る黒い物体の攻撃を耐えればいいだけだ。
彼女は目の前を見るとそこにはなんの感情も持たないような顔をした転生者が存在していた。
――この人は一体何なんだ。転生者は大抵正義の感情を持って動いてるんじゃ、でもそう考えれば妥当なのかもしれない。私たちは悪であるからこそ転生者である善が壊すべき存在なのかもしれない。だからこの人は私を殺そうとしている。そんなの当たり前だ。転生者は転生者で一人一人の感情があって何かしらの目的や執念があって動いているのだから。
転生者にも目的や執念はある。それは、私たちも同じだ。
…………、
私は、今それを実行できているのか?
ただひたすらに仲間の事だけ考えていたそれは自分の目的を果たすために有効活用したかったからただそれだけでもそれは不可能だと気付いた。それはなぜか彼女たちにも目的や執念があってそれを私に踏み込んでほしくなかったからなのかもしれない。具体的な理由なんて分からない人の感情も分からない。だからこそ、第三者から見た人間は自分勝手で自己中心的に見える。私には、狂璽隊のメンバーは自己中心的に見える。
でもそれは私が一番なのかもしれない。目的を達成するために使おうとした仲間だと思って従わせようとした。狂璽隊のメンバーについて知って、助けたり戦ったりして、自分自身への信頼を得ようとした。
でも駄目だった。信頼なんて得ることは出来なかった。一人で目的を達成する事しかできなくなった。なら信頼を今更得ようとしても無駄なんじゃないの。そこまでは分かっているでも、目的を達成するためにはこれをするしか
この時やっと彼女はエビルの言っていたことを思い出す。
「もっと君は考えて考えて、それを行った事によって生じる責任まで考えて行動した方がいいと思うよ。そうしないと、今日にはもう死んじゃうかもよ。」
――私は敵の事を考えたかイヤ考えてもほぼいなかったただ今の状況では無くて仲間の状況や今自分が仲間の為にやるべきことばかりを考えていた。それはただの逃げだったんだ。現状から目を背ける為の逃げ。なら今の狂璽隊のメンバーに思っていることも私なりの逃げの一つの手段なのかもしれない。
ただ信頼を勝ち取る為なんて言い訳をして自分の目的を達成するために有効活用していただけだしそれ自体がもうできないのに仲間の事を信頼しようとしているそれはただの逃げじゃ。彼女たちは何かしらの執念と目的があって動いているはずだ。だから邪魔をしてはいけない。
こんな風にして私は私がしたい目的から目を逸らしていた。目的を遂行しているふりをして自分を騙していた。そんな自分が腹立たしい。でも、それでも、逃げようとしている自分がいる。まだ現実から目を逸らそうとしている。
「もっと君は考えて考えて、それを行った事によって生じる責任まで考えて行動した方がいいと思うよ。そうしないと、今日にはもう死んじゃうかもよ。」
――逃げる行為をして何が起こる、そんなことわかり切ってる私は今ここで死ぬ。何もできないまま死ぬ。
死んだら、
あいつらを殺せない。
彼女は水の剣で押されながらも剣の欣求を離すことはせずただひたすらに粘っていた。が、
――なんだ。
剣の欣求を離し水の剣の刃がシケンの元へと近づく。
――自殺か、
――…………、
「邪魔をしないでください。」
シケンはそのままの姿勢のまま右手で剣の懟呪を召喚する手を作った。
「利き手への感謝」
その瞬間剣の懟呪がさらに四体現れた。
――同じことの繰り返しをしているとも見えるがこれは何体も存在している。これが敵の作った罠か。最大まで勝ちの希望を持たせておいて少しの油断で自身が勝つというそこまでが敵の作戦であり目的であると考えられる。
そんなことで俺が負けるわけがない。やっとここからが戦闘開始だ。
剣の懟呪は先ほどとは異なり右手が三本生えている代わりに左腕がなくなっていた。剣の懟呪は彼女の前に二体、彼の後ろに三体存在しており、今すぐ攻撃を仕掛けてこようとしていた。それを観察して気付いた彼は、
――このままだと死ぬか。
彼は彼女を切り裂こうとしていた自身の手を引きすぐさま水の剣二本を地面へと投げる。その時にはもう彼の後ろに存在していた剣の懟呪達が全員計九つの剣を使って全方向から攻撃を始めていた。
「球」
と彼は言う。そう言うと彼が投げた水の剣が水に変化し液状になって即座に彼の範囲三メートルを球状になって彼を包み込む。剣の懟呪の攻撃は彼を包み込んでいる水に触れると剣が分解され消滅した。剣の懟呪三体は全員が右腕の長さを初期状態に戻すために右腕を縮めていき、攻撃を中止する。
――さてと、このままだと何かしらの打開策が出される可能性がある。とはいえ、俺も罠があるはずと虚言を言っていたが実際は簡単に勝つことが出来るであろうと考えていたことは確かだ。確実に勝つための作戦が思いつかない。これはいっその事、能力を提示する時間を作ることが適作かもしれない。
「交渉をしよう。少し情報を与える、俺の持っている能力についてだ。」
彼がそう言い始める。彼女は立ち上がり応答に答える。
「なんでですか。それをして貴方に利点は特にないような気がするのですが、」
「交渉と言っているだろう。交渉内容はこうだ、今から俺は持っている能力を提示する。その後お前の情報を少しだけ教えてくれ。ちなみに俺は情報を全て教える。どうだ?」
「そうですか、分かりました。いいですよ、」
「それではこれを解く。」
そう言って彼は覆っている水を解く。その瞬間、彼の腹に剣の懟呪の剣十五本が刺さる。
「……、」
彼は何も話さない。それを見て彼女は話はじめる。
「そんなわけないでしょ、私は貴方みたいなクソ転生者の言う事を聞きません。ただ私は目的を達成するために生きていたいだけです。その為に貴方達は邪魔すぎる。」
その発言を聞き彼は表情を一切変えることなく自身の腹に刺さっている剣に一切触れることなく言う。
「そうか、本当にどうでもいい。」
そう言って彼は両手を水で覆い始めた。