私がヒロインなんて、聞いてない!!
「フレデリカ・デリンジャー、お前の行動にはがっかりだ。よってお前と婚約破棄する」
とある伯爵家のパーティーにて、開口一番、とある子息が言った。
な、何か起こるのかしら?も、もしかしてもしかしなくてもこれは……本で見た婚約破棄の現場……!
本みたいに悪役令嬢と呼ばれるいじめっ子とかはいるのかしら?私、すっごいこの手の物語が好きなのよ。なんというか、スカッとするじゃない?ほんとにざまぁみろ!!よ。
お、オホン
すみませんわ。少々、熱が入りすぎてしまって……。
そうそう、自己紹介がまだでしたね。
私の名前は、ルフェーリア。カナン子爵家の一人娘よ。弟もいて、今年で5歳になるのだけれどまだまだ可愛いわね。(そこに若干の腹黒さを感じるのは私だけかしら……?)
まぁ、それはさておき、重要なのは今、ですわ。
今、婚約破棄をおっしゃられたのはこのパーティーの主催者であるリンデン伯爵家のご子息、カルフール様。
そして、婚約破棄を言われたのが、そこにいる気の強そうな女性。デリンジャー辺境伯家のフレデリカ様ですわ。
まさに悪役令嬢、と言った見た目だけれどざまぁする女の子が見当たらないわね。所詮は現実ね。
「フレデリカ、言い逃れはさせん。お前はある貴族子女に毒を飲ませようとした」
フレデリカ様は青ざめた様子でリンデン様を見ている。
「違いますわ!カルフール様、誤解ですわ!そもそもその方がそう言ったのですか?」
「無論、証拠はある」
そう言うと、リンデン様は私の方を見た。
「来い」
へ?私?
キモっ……コホン。
「ルフェーリア、来てくれ」
え、やっぱり私?というかキッモ。普通婚約者でもない異性を呼び捨てする?キッッッモ……オホン。
「えっと……キッではなく私がルフェーリアですわ」
思わずキモっが出てきそうでしたけれど、何とか押しとどめましたわ。
「それで……リンデン様、私に何用でしょうか?」
「あぁ、ルフェーリア。私は君のことが好きだ。婚約してくれないだろうか?」
え……。怖っ。
あ、申し訳ありませんわ。少々、いやかなり動揺してしまって……。キモっのキの字さえ出て来ませんでしたわ。
「あの……リンデン様。恐れながら、この状況で何の冗談でしょうか?」
「喜べ。私は冗談ではなく本気だ」
一方的に惚気ながら言うリンデン様。
えっと……ますます喜べなくなったのですが……?
それよりも今はどうにか動揺を隠すので精一杯ですわ。
「あの……そもそも私、リンデン様とそれほど親しかったでしょうか?」
恐る恐る聞いてみる。
「ハッ笑わせるな。ルフェーリア、私達はいっしょに食事をした仲じゃないか。それに、先日の手作りクッキーも美味しかったぞ」
あ“ぁ“ん?……コホン
ほんとこいつ……ん“ん“、リンデン様は何をおっしゃっているのかしら?
きれた。まじできれました。もうこの際バシッと言ってやりますわ!!
「笑わせないでくださいませ。いっしょに食事?何を言っているんですか?私が食べているところに勝手に居座っただけじゃないですか!!
それに手作りクッキー?こい……リンデン様のために作ったはずがないじゃありませんか!!せっかくの私のおやつを私より爵位が高いのを利用して奪っただけではありませんか!!
それに私が嫌と言ってもしつこく纏わり付いて一体何様のおつもりですか?伯爵子息だからと言って、やって良いことと悪いことがあるのはお分かりですか??リンデン様の行為は他ならぬストーキングと呼ばれるものです!!お分かりにならないようでしたらこちらも訴える覚悟ですので、その覚悟はお有りで?」
シーンと静まり返る会場内。
ポカーンとしているリンデン様とフレデリカ様。
いや、ちょっと待って。リンデン様がポカーンとなっているのはまだわかる。ですがなぜフレデリカ様まで……?
まぁ、ともかく言ってやりましたわ!!我ながらよくぞここまで息が続いたものね。リンデン様のあのポカーンとした表情。フフッ……笑えますわ。と言うか笑ってやりますわ。
「だ、だがルフェーリアは」
「そのルフェーリアと呼ぶのはおやめになってくださいませ!!私はいつ名前で呼ぶのを許したのかしら?」
「……わかった。それで、何と呼べば良い?」
そんなの決まってますわ。
「カナン子爵令嬢、と」
「わかった。だが、カナン子爵令嬢はフレデリカから毒を入れられていたではないか!!」
はぁ?
「一体いつのことでしょうか?」
「ほら、あのカナン子爵令嬢がフレデリカ二人だけで茶会をしたときだ」
確かにありましたわ。というかなぜ、こっそりとした茶会のはずなのにリンデン様が知っておられるのかしら?
……怖っ
「あぁ、あの時ですね。」
取りあえず表情に出ないように言う。
「あぁその茶会の後、ルフェーリアは」
「カナン子爵令嬢と、お呼びにくださいませ」
しつこい奴ですわね。
「カナン子爵令嬢はとても苦しそうにしていたではないか!!だから毒を盛られたのだろう?」
「……リンデン様、それは毒ではありませんわ」
「なん……だと!!」
「ちなみに私はどのような様子でしたか?」
「あぁ、とても苦しそうにしていて、目が充血して皮膚もぽつぽつと赤い斑点のようなものが出来ていた」
うん。間違ってはおりませんが、毒ではないですね。というか何でこい……リンデン様はそこまで詳しく知っていらっしゃるのかしら?
「リンデン様、それは“アレルギー”ですわ。私、実はナッツアレルギーですの。あの時は私がうっかりフレデリカ様に言い忘れてしまったのです」
そう。私はナッツアレルギーなのです。あの時は伝え忘れてしまった私のミス。だからフレデリカ様には何も悪くない。幸い、私のアレルギー反応は命に関わる程大きなものでもないので、せいぜい蕁麻疹が出る程度である。
というか、私のせいなのにあの時は、フレデリカ様が人目や場所を気にせず謝罪をしようとするものだから大変でしたわ。
「アレ、ルギー?」
「あら、ご存知ありませんでした?アレルギーというのは、特定のものに対し体が過剰に反応してしまう症状のことですわ」
「……わ、わかった」
「それに、です。そのあとのフレデリカ様との茶会を思い出して下さいませ。フレデリカ様と私しか知らなかったはずの茶会についてなぜか知っているリンデン様ならおわかりになりますでしょう?」
「あ、あぁ」
「その中で、先程以外で私の様子がおかしかったことはありましたでしょうか?」
「い、いや……ない」
「でしょう!!でしたらもう、私に関わらないで下さいませ!!……フレデリカ様、勝手に出て来て申し訳ありません。私は身を引くのでどうぞこの先はお二人で」
完全に蚊帳の外になっていたフレデリカ様に言う。
「あ、あ……え、えぇ、わかりましたわ。……カルフール様。先程のルフェーリア様の発言から、わたくしには何の非もないことがわかるかしら?」
「だ……だが、それはフレデリカに脅迫されていたかもしれぬ」
「はぁ。今更そのようなことをいうのですか……。先程の様子からルフェーリア様が脅されていたなど誰が思うのかしら?むしろ、カルフール様の方が問題ですわ。傍目から見ても、あなたは好意の持つ女性を勝手に追いかけ回し、自身の権力を利用して言いなりにさせていたようにしか思えませんわ」
間違いはないので必死に頷く。
そして、フレデリカ様が最後の言葉を紡ぐ。
「あなたなんて、こっちから婚約破棄ですわ」
読んでいただきありがとうございます。
ちなみに、ルフェーリアとフレデリカはすごい親しい訳でもないけど、互いの顔は知っている程度の仲です。
カルフールとの婚約破棄後、二人は親友になったそうです。