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59:初めてここに訪れた冒険者

「十秒だからな!」

「了解した」


 小部屋を拠点に探索を開始した。

 方向感覚も全くないので、俺たちが最初に入って来た穴の位置を南に設定。

 四方の穴の内、北と東の穴の先にある通路はそう広くもない。

 だが生息しているモンスターはほぼ大型の物ばかりで、この二カ所の通路なら一体しか通れなかった。


 同時に二体の相手は難しい。だが一体なら、俺の一時停止を駆使して倒すことが出来る。

 アレスにも俺の一時停止スキルの話はしてある。だから彼は俺の隣に立って、視界の妨げにならないようにしていた。


 一時停止直後、アレスは右から、俺は左から、それぞれ奴の首を狙う。

 大型モンスターの首を一撃で切り落とすには、力よりも武器の耐久度の方が心配だ。

 それで二人同時に左右から切り込みを入れ、最後に──


「行くよ!」

「あぁ、任せたぞ!」


 セシリアが風の魔法で残りをちょんぱ。

 これでだいたいギリギリ一時停止の効果時間が終わる。

 一時停止のタイミングが早いと、俺とアレスが接近するのに時間が掛かり過ぎて危険だ。だからって接近してからだとアレスが視界に入ってしまう可能性もある。何より近づきすぎて攻撃を喰らうって可能性もな。


「ふぅ。動かない相手だと分かっていても緊張するもんだね」

「動かないつったって、十秒限定だからな。連続使用は出来るが、どうも重ね掛けはできなくってさ」


 一時停止は効果が切れてからしか再使用は出来ない。

 だからその一瞬が怖いんだよ。

 なんせ奴らのステータスは、今の俺よりも上だ。少なくとも体力はそうだった。


 強奪の件はアレスには話していないが、穴に落ちて一晩あの部屋で過ごし、今朝、一番最初に出った奴にスキルを使ったら体力が盗めてしまった。

 つまり俺よりも高いってことだよ。

 下手したここの奴らのステータス、四桁あるかもなぁ。


「リヴァ、もう少し進むかい?」

「そうだな。通路が狭いうちは進んでみよう」

「階段あるといいねぇ」


 東の通路から調べているが、今のところは見つかっていない。

 階段が見つかれば、ここが既に人が出入りしたダンジョンかどうかが少なくとも分かるんだがな。

 もし誰かが足を踏み入れていれば、転移用の魔法陣があるはずだから。


 しかし願い虚しく、この日は階段を見つけることが出来なかった。

 まぁゆっくり進んでるしな。

 仕方ねえさ。


「あの時落したのが、帰還じゃなくって転移の指輪だったらまだよかったんだが。くそっ、なんで転移の指輪はダンジョン内じゃ使えないんだよ」

「あれ? 知らなかったのかいリヴァ。転移魔法は肉体をマナ粒子化させて、目的地まで超高速で飛ぶ魔法なんだ。だから天井のある場所で使うと、マナ粒子がつっかえてしまうんだよ。まぁ簡単に言うとだ、天井で頭を強打する、みたいなね」


 ……そんなRPGあったな。


「帰還魔法の方は、神の祈りによって教会に瞬間移動用の扉を開く方法が使われる。だから壁や天井があっても安全に移動できるんだよ」


 こっちはどこでもドア形式か。

 ただし開通できるのは教会一カ所のみ。魔法も万能じゃないってことだ。


「不幸中の幸いだな。五日分の食料は、俺の空間収納袋の中。五人分だったから、切り詰めれば十日は持つだろう」

「それにお肉のドロップもあったしね!」

「暫く肉生活になるだろうが、空腹で死ぬことはなさそうだね」


 餓死の心配がないのはいいが、ずっと肉ばっかりってのもなぁ。

 肉をドロップするなら、せめてキャベツをドロップするモンスターもいたっていいのにな。






 翌日も階段は見つからなかった。

 そして体力強奪も成功している。まぁ一日成功した程度じゃ、ここの奴らのステータスは把握できないけどな。


「残りは西の穴の先だね」

「広いから複数に襲われる可能性もあるし、出来れば北と東の通路で見つけたかったんだけどなぁ」

「ここは深いから、シルフも全然外へ通じる道が分からないみたい」

『ここは地下五〇階以上の規模を誇るダンジョンの下層エリアにのみある安全地帯。であれば、ここは最低でも地下四〇階あたりということだ。我もシルフも、地上の気配は辿れぬ』


 老舗の人気ダンジョンだといいなぁ。

 もし魔法陣がなかったら、最低でも四〇階も上らなきゃいけなくなる。


 帰還の指輪をあそこで落としたのが痛すぎる。

 あれがあれば今頃、迷宮都市でのんびり風呂にでも入ってただろうに。


「いっそ最下層だったらな。たしかダンジョン主を倒したら、地上に出る魔法陣が発動するんだろ?」

「あぁ。倒してから十分間だけ、魔法陣が浮かび上がると言われているよ。私も実際には見たことはないけれどね」

「王子なんだったら、当たり前だろ」


 ここがもし最下層なら、主を倒すのも一つの手段だな。


「ははは。その場合、主を倒さなきゃいけないんだけどね」

「大丈夫。リヴァがいるもん」

『何を言う。我がおるのだから安心するがよい』

「でもデン様、ずっと何もなさっていませんよね?」


 そう、デンは何もしていない。

 まぁしいて言えば後方の見張りとかか。


「デンはセシリアを介さないと、攻撃とか出来ないのか?」

『攻撃は出来る。が、我が力を使えば、娘の魔力を消費させることになるのだよ』

「えっとね、今のデン君の状態なら魔力は消費しないんだけど、攻撃態勢だと『召喚』段階に入って私の魔力が必要になるの」

「精霊魔法はいろいろ面倒なんだな」

「召喚している間はずーっと魔法使ってるって思ったらいいよ」


 デンは自分の意思で強制召喚状態になれる。だが自分の力がなくても、俺たち三人だけで今のところはなんとかなってるし手を出さないと言った。


『我の力は強大過ぎる。ここの奴らなど我の雷一発で消し炭になろう。にゃはっはっはは』

「まぁ奥の手ってことだな。ダンジョン主に出くわした時には、よろしく頼むぜ」

『任せるがよい。にゃはははははははは』

「デン様がいらっしゃるなら、確かにここが最下層である方が有難いかもしれないね」


 あぁ、もういっそ最下層なのを祈ろう。


 そんな祈りが通じたのか、小部屋を拠点にして五日目。

 そろそろ野菜が恋しくなるこの日、ついに見つけた。


 地上へ帰るための手段──ダンジョン主を。


『余はこの地を治める魔神将アークデーモン・ドズゥールディア。外の世界の者よ、余の前に初めて訪れた者として、余の軍勢に下ることを許そう』


 どうやら俺たちは、初めてここに訪れた冒険者だったようだ。



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