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57:はははは。

 落ちている。

 どこまで落ちるんだよ、チクショウ!

 

「セシリア、お前は飛べ!」

「と──うん、はい!」


 バサァっと翼を広げた彼女は、右手を俺に差し出した。


「セシリア、君は……有翼人だったのか!?」

「それはあと。リヴァ、アレス、私に捕まって!」

「断る」

「リヴァ!?」


 別に彼女にしがみついて助かるために飛べと言ったわけじゃない。

 飛べる彼女が俺たちと一緒に落ちる必要はない。だから飛べと言ったんだ。


「リヴァ! 捕まってっ」

「ダメだ。お前まで落ちる必要はないだろう。だがこのまま上に行っても、奴らが……」


 スティアン。あいつに有翼人であることがバレれば、何をされるか分かったもんじゃない。


「いやっ。私ひとり助かるなんてヤダ!」

「何か考える。だからっ」

「ヤ! ぁ……きゃあぁぁっ」

「セシリア!?」


 なんだ。どうしたんだいったい。急にセシリアが羽ばたかなくなった?

 いや、羽ばたけないのか!?


『ふむ。空間が歪んでおる』

「デン!? 歪んでるって、どういうことだよっ」

『言葉の意味のままだ。この穴は、別のダンジョンに繋がっておるようだ。今は空間と空間の狭間におる。繋がったら落下を再開するから、対策を考えるなら今の内だ』

「わ、分かった。何か……何か……」

「リ、リヴァ。その生き物は?」


 アレスの質問は後回しだ。

 落下が再開するまでに何か──せめてパラシュートでもあればいいが、そんなものこの世界にそもそも存在しない。


「いや、でも……代わりになりそうなものなら!」

『急げリヴァ。じき繋がるぞ』


 慌てて服の内ポケットから巾着を取り出す。空間収納袋だ。

 手を突っ込み取り出したのは、三角形の物体。ついさっきまで体を休めるために使っていた、テントだ!


 紐は二段階目まで引く。


「アレス、そっちの端を掴め!」

「テントなんてどうする気だい!?」

「いいから掴め! くっ、なんか空気の流れが変わったぞ」

『繋がったぞ! よし、娘。羽ばたけ!』

「リヴァは!?」

「これで落下速度を緩める。セシリア、飛ぶんだ!」


 テントの入口側を下に向け、アレスと俺とで広げるようにして掴んだ。

 簡易パラシュートだが、流石に本物のようにはいかない。

 それでも落下速度は確かに緩まった。


「けどこれじゃあまだダメか……他に手はっ」

『娘、魔法は使えるな!? シルフを召喚し、下から風を送りこめ』

「わ、わかった」

「その手があったか! アレス、テントを離すなよっ」

「言われなくても!」


 セシリアが翼を折りたたみ加速する。

 俺たちの下に回り込んだ彼女が呪文を唱えると、一気に風が吹きあがった。


 更に減速。

 それでもまだスピードはあるが……。


「アレス、多少の怪我は覚悟してくれよ」

「あぁ、分かっているよ」

「リヴァ、リヴァッ。地面が!」

「セシリア、斜めに落下できるよう横からの風も頼む!」


 テレビでも目にしたが、パラシュート降下だって真っ直ぐ落ちる訳じゃない。

 落下の衝撃を和らげるために斜め角度で地面に侵入する。


「アレス、地面に足が着いたら駆け足だ!」

「駆け足? 走るのかい?」

「まぁそんな感じ。行くぞ!」


 横風が吹く。

 テントごと流され、かなり低い角度で地面へと落下することが出来た。

 それでも勢いは完全に殺すことは出来ず、結局最後はテントに引きずられて打撲と擦り傷を作った。


「リヴァ大丈夫!? アレスは? ねぇ二人とも大丈夫!?」


 駆け付けたセシリアの目には涙が浮かんでいた。

 その顔を見てやっと……やっと助かったんだと実感。


 そしたら急に、

 急に、


「ぷはっ。くはははははははっ」

「リ、リヴァ?」

「ふっ。はは、あははははははは」

「な、なに? どうして二人とも笑うの? ねぇ、何がおかしいの?」


 何がおかしいって、テントだぜ?

 俺たちテント広げてここまで落ちて来たんだ。おかしいに決まってるだろ。


 それに、緊張の糸が切れたからかもしれない。

 とにかく笑った。

 

 ようやく助かったんだ──と安堵する暇はなかった。


「二人とも走れ! あんなもの、相手出来るわけがない!」

「クソッ。一難去ってまた一難かよ! セシリア、こっちだっ」


 落下した先は森の迷宮とは別のダンジョン。

 そう、ここはダンジョンの中なんだ。


 俺たちの匂いを嗅ぎつけて、あっという間にモンスターが集まって来た。

 しかもデカい奴らばかりだ。

 逃げた先の通路もやたらと広い。こんだけ広いってことは、象みてえなサイズがデフォルトのダンジョンなんだろう。


 そしてデカいモンスターってのは、往々にして強い!


『坊主、右に行け。小さな横穴がある。そこなら奴らも入ってはこれん』

「分かった、右だな!」


 デンの言う通りに右へと曲がると、五〇メートルほど先で行き止まりになっていた。


「おいデン!?」

「こっちだリヴァ、セシリア!」


 突き当りの手前の壁に穴があった。俺たちですら立ったままでは通れないような穴だ。

 ひとまずそこに駆け込み、奥へと進む。

 通路へと入って来たモンスターが手を伸ばしてくるが、なんとかギリギリ届かない所まで逃げ込めた。


「アレス、先はどうなってる?」

「待ってくれ、ここまで来ると通路の明かりも届かなくて真っ暗なんだ」

『我が明かり代わりになってるから、さっさと光る魔石を出すが好い』

「す、すまない。……よしあった」


 コツンっと音がして辺りがぽぉっと明るくなる。


「天井、高くなってんだな。これなら屈まなくても歩けそうだ」

「そうだね。少し先が広くなっているようだ。モンスターのいる通路に出なければいいが」

「慎重に進もう。もし別の通路に出るようなら、いったんここに戻ってこれからの事を考えないとな」


 だがその心配はなかった。

 穴の先は正方形の小部屋のようになっていて、四方の壁にここと同じような穴があるだけ。


「この穴も人ひとりが通れる程度の狭い通路だね」

「一時避難所みたいなところかな? ダンジョン内にそんな場所が本当にあるのか?」

「ある。と聞いたことがある。ただし地下五〇階にもなる、巨大ダンジョンの下層エリアにだけ……ともね」


 つまりここは、その地下五〇階以上もある、巨大ダンジョンの下層ってことだな。

 はは、はははは。


完結まであと2話執筆ぐらいなところまで書いたのでエタ回収。

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