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「私は貧乏子爵家の三男坊で、名はアレスと言う。家名に関しては、申し訳ない。実家の家計を少しでも助けるために、こうして冒険者になったんだ」
「い、いやいいんです。むしろ自分で子爵家の者だって、俺らみたいな平民に名乗るってのも珍しい方だし」
「ははは。それでこっちがキャロン。見ての通り神官だ。腕はいいから安心して欲しい。で、お目付け役みたいな彼がディアンだ」
「俺はリヴァ、こっちはセシリアだ」
俺が自己紹介すると、セシリアも三人に向かってお辞儀をする。
「お二人はご夫婦なのですよね?」
「ぶふっ。な、なんで!?」
キャロンと紹介された女神官が、突然そんなことを口にした。
「あ、えっと……ギルドの職員の方と話しているのを、その……」
「あ、あぁ、聞いていたんですよね。まぁ、その……えぇ、夫婦、です」
「で、です」
さすがに偽装ですとは言えないし、ここは認めるしかない。
あぁクソ。体が熱い!
野良パーティーを組むことになった俺たちは、さっそく森の迷宮に向かう乗合馬車へと搭乗。ダンジョンまでは三日かかる。その間にお互いの話をすることにした。
話といっても身の上話ではなく、能力的な話だ。
「リ、リヴァ。君はまだ十六歳なのだろう?」
「正確には、もう少しで十七ですけどね」
ディアンが俺の冒険者カードに浮かび上がったステータスを見て驚愕する。
「自分のステータスがいいのか悪いのか、判断基準がなくてよく分からないんだけど」
「そ、そうか。まぁクランにでも入っていなければ、他人のステータスなど見る機会は少ないだろうからな……俺のを参考に見せてあげよう」
ディアンのカードに浮かんだのは、
筋力1015、体力1235、敏捷320、魔力150……軽くチートじゃね?
「ステータスのどれかひとつでも1000を超えれば、Aランク相当だと言われている」
「じゃあSランクは?」
「2000を超えることだ」
神父がSランクだったってのは、嘘じゃないようだな。
「君のステータスだとBランクだろう。その若さでBとは、すさまじいな」
「そ、そうなんですか?」
「このまま鍛錬を続ければ、Sランクも夢じゃないだろう。俺はもうこの年だ、成長は止まったも同然」
そう話すディアンは、どこか寂しそうでもあった。
きっともっともっと上を目指したかったんだろう。
だけどAランクだって相当なもんだ。
冒険者はBランクで一流と言われているから、Aは超一流だ。
「しかし近接スキルを持っていないというのは、勿体ないな」
「教えてくれる人がいなかったもんでね。育ての親は神父だったし」
「まぁ、私と一緒ですね」
地下街の孤児院育ちって意味なんだけど、まぁ彼女の場合は絶対違うな。
「はは。ディアンはどうやら弟子を得たいようだね」
「で、弟子などと。そんなたいそうなものではなく──いや、機会があるなら、技を伝授してやりたいとは思いますが」
「え? 本当か!?」
「ほら、弟子が出来たじゃないか。はははは」
Aランクの剣士に技を教えて貰えるなんて、そんな機会、絶対にないぞ。
ここは何としてでも彼から技を習わなきゃな。
三日間の馬車での生活は、決して快適とは言えなかったが以前よりは良かった。
アレスがいいクッションを用意してくれていて、それのお陰で尻の被害は最小限に。
さらにキャロンの治癒魔法を、恥ずかしながら受けたので元気もりもりだ。
「しかしこれだけの数が走ってると、なかなか壮観だな」
「ははは。確かに」
「目的地はみなさん同じですからねぇ」
俺たちが乗る馬車の前にも後ろにも、その前も後ろも、そのまた前、後ろも……とにかく何十台と馬車が連なっている。
目的地はモーリアの森の迷宮だ。
「お、なんか豪華な馬車の一団があるな。早馬か?」
「どれだい」
身を乗り出し、アレスに「あれだ」と馬車を指差した。
すると途端に彼の視線が険しくなる。
「あれは……貴族の馬車だ」
「貴族? なんで貴族が」
「フォルオーゲスト侯爵家の家紋を掲げた馬車ですね。確か二人のご子息が冒険者をしているはずです」
「あぁ。まさか移動手段に、侯爵家の馬車を使うとはな」
侯爵っていや、上流貴族じゃねえか。
俺たちの乗る馬車から、更に十台ぐらい後ろを侯爵家の馬車は走っていた。
それがだ──突然角笛が鳴らされ、馬車が次々と停止。
そしてあの豪華な馬車の一団が俺たちを追い抜いて行った。
その時に見えた。
先頭の馬車に乗っていたのは、あの男──青い鎧のウザい野郎、紅の旅団リーダーだっていうスティアンが乗っていた。




