5-1
「なっ、えっ」
目の前で翼が羽ばたいた。その瞬間、何かが飛んで来て顔に当たる。
なんだ?
拭ってみると、それは赤い……血?
よく見ると、真っ白な翼に赤く染まっている部分がある。
怪我、しているのだろうか?
と、そんなことを思っていると、突然女の子が──
「ぶわっ」
落下した。
ちょうど両手を差し出していたおかげで、なんとか無事キャッチ。
「お、おい大丈夫か? おいっ」
見た目は俺より少し幼いぐらいか。苦痛に歪んだ顔は怪我のせいだろう。
そう思ったら、女の子を抱えた手にぬるりとした感触が伝わった。
「まさかこっちも怪我してんのか!?」
片手で体を支えてぬるっとした方を見てみると、やっぱり血だ。
マズい。軽傷じゃ済まないかもしれない。
ど、どうする。神父の所に連れて行くか?
いやでも神父からエルフやドワーフの話は聞いたことあっても、羽根の生えた種族の話は聞いたことが無い。
とするとレアな種族だ。
このまま町に向かえば、どうしたって人目に付くだろう。
ロクでもない連中の目に留まれば、何をされるか分かったもんじゃない。
「そうだ。袋の中にゴミポーションが何本かあったな」
たいした怪我を治せないのは、この三年間で俺自身が身をもって体験しているから分かっている。
ただ立て続けに使えば、少しは回復するってのも知っている。
だから狩りに行く時には、これまで拾ったゴミポーションを十本ぐらい持って行くようにしていた。
「今日の分と含めて十三本か」
まずは傷口の確認だ。
左の翼と、それに左わき腹に……矢傷か?
「よかった。思ったほど大きな傷じゃねえな。悪いけど服を捲らせて貰うからな」
と断りを入れても、相手は気絶している。
すこーしだけ服を捲って、露になった傷口に一本目のゴミポーションを注いだ。
しゅーっと音がするだけで、傷が塞がっているようには全く見えない。直ぐに二本目、それから三本目も開けてかける。
「やっぱまだ足りないか」
四、五、六、七……とかけてようやく傷が少しだけ塞がった。
翼の分も残しておきたかったが無理そうだ。教会の軒下に五十本ぐらい隠してあるから、それも持って来よう。
残り六本を全部ぶっかけ、万が一を考え彼女を壁際に運ぶ。
「このまま気絶しててくれよぉ」
聞こえている訳ないだろうけど、そう言って俺は全力で駆けた。