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「ご結婚おめでとうございます、リヴァさん、セシリアさん」


 ……結局こうなった。

 こっちの世界では富裕層や貴族でもないと、結婚式なんて挙げることはない。

 役場は存在するが婚姻届けなんてものも貴族階級の者にしかない──と神父に聞いた。

 偽装結婚し放題な世界だけど、そもそもそれを利用した犯罪なんてのがないのだからする必要も本当は無いんだ。

 例外として地下から地上の居住権を手に入れる時ぐらいか。

 それだって冒険者になって金を稼げるのは極一部の奴だけ。

 そしてたいていはそれなりに歳がいってからだ。

 だから普通に恋人だの配偶者がいるのも当たり前だったりする。


「しかし冒険者になって二年もしねえうちに居住権を手にいれちまうとはな」


 ギルドマスターがニヤりとしながら俺に言う。

 まずは地下のギルドで金が出来た旨を報告し、同時に俺とセシリアが(偽装)結婚したことも伝えた。


「まぁ金に関しては、俺を指名して依頼してくれる人がいたからてのもあるけど」

「それも実力の内だ。お前は依頼された内容のものを期日内にきっちり揃えてきただろう。依頼主の信頼を得られるだけの実力と、それから運があったってことだ」


 運は確かにあっただろうな。


「それとこんなべっぴんの嫁さんが出来た運もな」

「よ、嫁!? あ、うん、まぁ……」


 ちらりとセシリアの方を見れば、耳まで赤くしてもじもじしていた。

 それを見たせいか、俺も顔が熱くなるのを感じた。


「はぁ、いいなぁ。俺も女房が欲しいぜ」


 あ、ここのギルドマスターは独身だったのか。

 しかし俺たちみたいな若い男女が、しかも居住権を手に入れるタイミングで結婚なんて……なんでアッサリ信じるんだ?

 普通疑うだろ。


 そう思いながら、次は上のギルドに報告だ。

 居住権は地上の町に駐在する領主代理から買うことになるが、その仲介をギルドがやってくれる。

 実はこの仲介にも金がかかるそうなんだが、冒険者はこれが免除される。

 と言っても、ギルドに登録するのに本来は金が必要だし、それを考えればタダってのも当然の権利か。

 

「まぁ、やっとご結婚なさったのですね」

「え、やっと?」


 地上のギルドに報告すると、顔なじみの職員がそう言って手を叩いた。


 やっと?


「うふふ。お二人が愛し合っていることは、わたくしたち職員内では周知のことだったんですよ」


 ……。

 え?


「いつもお二人は一緒でしたし、他の方がパーティーに加入されることもありませんでしたし、何より」

「おほんっ。えぇー……悪いがこいつは俺の大事なパートナーだ」

「「きゃーっ」」


 な、何を言っているのか分からない。


「あの時からピーンっときてたんですよぉ」

「ねぇー。あの紅の旅団リーダーのスティアン氏に彼女が声を掛けられたときの、あのセリフ!」

「はぁ、私もあんなセリフ、言われてみたいわぁ」


 紅の旅団のスティアン?


 ……あ、初めて地上に上がったあの日のことか。

 そういやセシリアにしつこく絡んでたから、勝手に話をするなって……あぁ、あれか。

 女子って、ああいうのが好きなのか……。


 それで、下のギルドでもまったく疑われなかったってことか。

 いや、俺たちってずっとそういう目で見られてた!?


「「ご結婚、おめでとうございます」」

「あ……どう、も……」

「あ、ありがとう……」


 こうして偽装結婚は成功し、俺たちは揃って地上の居住権を手に入れた。






「な? 俺様の言った通り、上手くいっただろう」

「なんか腹立つけど、おかげさまで上手くいったさ」


 居住権を手に入れても、直ぐにここを出て行く訳じゃない。

 そもそも地上で暮らせる者は、地下への出入りは自由になる。

 もう暫くはこれまでと変わらない生活を送るつもりだ。


 俺がここを出て行ってしまえば、チビたちに十分な飯を食わせてやれる者がいなくなってしまう。

 一番上のイストがもう少し大きくなるまでは……今年やっと十歳になったばかりだからなぁ。


 夫婦じゃなくって、家族単位に居住権をくれりゃよかったのに。

 そうすりゃチビたちも一緒に……。


「リヴァ、なぁに神妙な顔してんだよ。新婚生活についてか?」

「は? な、なに言い出すんだ生臭坊主!?」

「まずは新居を考えなきゃなぁ。お前、この迷宮都市で暮らす気はないんだよな?」

「そ、そのうち出て行くつもりだ」


 まぁあちこち旅をして、それから考えるつもりだけど。

 セシリアの事もあるし、人間の町よりは獣人族たちが暮らす山の中とかの方がいいだろう。


『我は直ぐにでも旅立ちたいぞ』

「あぁ、お前のこともあったな」


 まぁデン自身はどこかに行きたい訳じゃなく、どこへでも行きたい派だ。

 どこへでも喜んでついて来るだろう。


「リヴァ、これから暑くなってくるから、行くなら南より北がお勧めだよ」

「あぁ、南はここより暑いもんな。んじゃあ東の方から北の山脈を迂回して──」

「ダメだ!」


 突然神父が声を荒げる。


「前にも言っただろうっ。北東は国境の小競り合いがあって危険だって!」

「前……あ、あぁ。そういやそうだったな」

「北の山脈はいい。あそこは険しく、人間が入って行くのも稀だからな。だがそこまでだ! それ以上北上すれば、巻き込まれるぞっ」

「お、おぅ。分かった。北東には行かない」


 なんで神父は、そこまで北東を避けろってうるさいんだよ。

 そこまで言われると、逆に気になって行きたくなるだろ。


 そうは思ったものの、結局は目先の目標をクリアするのが先決だな。

 まずはデンをまともに扱えるようになるためにも、俺の魔力を最低でも140ぐらい増やさなきゃならない。

 デンの力を十分に発揮できるようになれば、ダンジョンでの荒稼ぎも可能だろう。

 なんだったら最下層攻略も……。


 最下層のボスを倒せば、高確率でお宝が手に入ると言う。

 それにあの遺跡の古代獣だ。

 あれを倒せるようになれば、奴が守っているお宝だって手に入るはず。

 デンと違ってあっちは本物の古代獣だからな。


 教会のチビたちは全部で七人。

 金貨七〇〇枚か。



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