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32-2

「元のサイズに戻すときには、そこから垂れてる紐を引っ張ればいい。ただしテント内にこいつより大きな物が残っていたりすると、縮まない」

「こいつってのは、もちろんさっきの小さいサイズの?」

「そうだ。まぁ忘れ物をしないで外に出ろってことだ」


 考えようによっては親切だな。


「実はこの地下で、最初はテント暮らしでもしようかと思っていたんだ。せっかくこれがあるんだしな」

「でも店主が部屋を貸してくれたと」

「そういうこと。おかげで五年もずっと袋の中にしまいっぱなしだったんだ。使ってやってくれ」


 また厨房に戻って、さっきの小部屋へ。

 次に取り出されたのは地図だ。何枚もある。


「ここが迷宮都市フォレスタンだ。この上の町な」


 この迷宮都市を中心に描かれた地図と、別の町を中心に描かれた物──計九枚ある。つなぎ合わせると一枚の大きな地図になるものだった。

 他にも魔物避けのランタン、コンパス、それに──


「こいつは『疾風のガントレット』だ。風の加護を受けたヤツで、装備すれば体が羽根のように軽くなる」

「こ、高級品そうなんですけど? それにこれは俺には大きすぎますってっ」

「心配ない。魔法の武具は持ち主に最適なサイズになるからな」


 そう言って彼は青色の籠手の金具を外して俺の腕に巻きつけた。

 するとしゅっと締まって、俺の腕のサイズに合わせて小さくなった。


「これ一つで敏捷のステータスが25ほど増える」

「一つって……え、じゃあ両腕で……」

「あぁ。50増えるな」


 え、それめちゃくちゃ凄い装備じゃないか!?


「そ、そんな凄いもの、いただけませんよっ」

「そう言うな。これでは宝の持ち腐れだろう?」


 ライガルさんはそう言って失った右腕を見せた。

 二の腕の先からごっそり無くなった右腕では、確かにガントレットの装備が出来ない。

 でも……。


「ならこうしよう。依頼が終われば戻ってくるんだろう? その時に返してくれればいい。ダンジョンに潜る時、依頼を受ける時、その都度貸してやる。そしてその都度返してくれ」


 それはつまり、必ず生きて戻って来いと言う彼の言葉でもあった。






「気を付けろよ」


 地下一階へと上がる階段の前まで、ライガルさんが見送りに来てくれた。

 なんだか命の恩人にこうして見送られるのは恥ずかしい。


「テントはちゃんと入れたか?」

「はい」

「ハンカチは?」

「えっと……タオルなら」

「食いものは?」

「だ、大丈夫です」

「冒険者カード、忘れてないだろうな?」

「ここに」

「それから、えぇっと──」


 いつまで続くんだ、これ。


「リヴァ、子供みたぃね」

「うるさい子供」

「いいいぃぃぃーっ。子供違うもんっ」


 俺は成人しているけど、セシリアはまだ未成年なんだ。子供じゃないか。

 

「あぁ、そうだ。いいか、ルーキーの頃によくあることだが、冒険者になったことで自分が突然強くなった気になる奴がいる。自分を驕るな。強い奴はいくらでもいる。自分はようやくその底辺に立てたんだと、そう思え」

「底辺に……」

「そうだ。お前には見込みがある。俺の野生の勘がそう言ってるが、それは今すぐじゃない。驕って命を落せば、全て終わってしまうのだからな」


 どんなに将来有望であっても、死ねばそこでお終い。その通りだ。

 自分より強い奴らはいくらでもいる。ゆっくり、地道に──そいつらからステータスを強奪してやる!


「よし、二人とも行ってこい」

「「はいっ」」


 一階へと続く階段に、一歩足を踏み出す。


 あぁ、そうだ。

 ずっと言いたかったこと、言い忘れてるじゃん俺。


「ライガルさんっ」


 振り返り、彼に向かって頭を下げる。


「あの時、俺を助けてくれだありがとうござます」

「お、おい、こんなところでか? 恥ずかしいからやめてくれよ」


 苦笑いを浮かべる彼に向かって、もう一つ……

 新しく伝えたくなった言葉を──


「ありがとうございます! ライガルさん、生きていてくれてありがとうございますっ」


 ──伝えた。



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