30-2
「よし、通れ」
通行用カードを使って地下三階から二階へと上がる。
地上を見たあとだとここも大概雑な街並みだけど、それでも地下三階よりはマシだな。
「ふぃ~。かいあん、遠いなぁ」
「そうだな。上りと下りの階段は階層の両端にあるからな」
階段から階段までは真っ直ぐ一本道だ。にも拘わらず、歩けば三十分もかかる。
「お腹空いたねぇ」
「朝飯は上で食おうって言ったの、お前だからな。そもそも地下一階まで上がらなきゃ、飯屋なんてないだろうし」
階段までの一本道を歩く限り、屋台の「や」の字すら見当たらない。
ただこの時間だからか、通りにはほのかに食い物の匂いは漂っている。
ほのかに香る匂いでも、こう腹が減ってるとなんでも美味そうな匂いに感じるな。
「ん~、美味ししょ~」
「んー、そうだ……ってここどこだ!?」
「リヴァ、行きたいとこあった、違うの?」
どうやら匂いを辿ってふらふら~っと道を外れたみたいだ。
しまったな。どこをどう歩いて来たのか、全然分からないぞ。
と言っても流石に何十分もふらふらしていた訳じゃないし、適当に歩けばそのうち元の道に出られるだろ。
「とりあえずあっちに行こうぜ」
「うんっ」
広い道に出れば、だいたいあの通りに繋がっているだろう。
そう思って歩き出した。
だから──
「おい。その先に行くのは止めておけ」
背後からそう声を掛けられたとき、自然と身構えた。
なんせ声の主の気配をそれまで全然感じなかったのだからな、警戒もする。
ただ──
何故だか胸が熱くなった。
「そう身構えなくていい──と言っても、地下街じゃ無理な話だな。だがその先は治安の悪い闇市場だ。子供が行く場所じゃあない」
声の主の方へと振り返ると、そこには虎をそっくりそのまま擬人化したような姿の、珍しい灰色の毛並みを持つ獣人族の男が立っていた。
何かが胸にこみ上げてくるのを感じた。
その獣人には右腕がない。
その獣人は左足の膝から下が義足だ。
「迷子になったのなら、表通りはあっちだ」
そう言って獣人族の男は、左手に持った杖で右の通路をさした。
「おじさん、ありがとうごじゃいましゅ。リヴァ、行こう。──リヴァ?」
スタンピードから五年──
まさか生きていたとは。
しかもこんな近くにいたなんて……




