表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/111

1-2:覚醒

『グガ……ガ?』

「やべっ。動き出した」


 モンスターが混乱している間に早く逃げなきゃっ。


「止まれ──」


 と叫んだが止まらない。じ、条件が違うのか?


『グルルルルゥ』


 念じるだけじゃダメ? 他には……他……瞬きか!?

 止まれと念じながら瞬きをする。すると案の定、モンスターの動きは止まった。

 しかも後ろのモンスターも揃って止まっている。


 は、はは。こりゃいい。

 いいけど、動きを止めたところで俺にはどうすることも出来ない。

 モンスターを倒す? この十歳の体で?

 無理無理無理無理。


 逃げる!

 それしかない。逃げで──振り向いて動きを止めて──逃げて……。


「う……眼が痛い。もしかして、使用回数の上限があるのか?」


 これじゃあ逃げ切れない。十秒足止めしたところで、子供の足じゃあ直ぐに追いつかれる。

 せめて避難区画にまで逃げ込めれば……そう思っていたけれど、そこまでまだまだ距離がある。

 あと何十回と動きを止めなければ、とてもじゃないがたどり着かない。


 ダメ……なのか……

 そう思った時、突然すぐ横の通路へと引きずり込まれた。


「よく頑張ったな坊主」

「え?」


 俺を担ぎ上げたのは獣人族の男だった。

 虎をそっくりそのまま擬人化した姿の獣人族は、灰色の珍しい毛色をしている。


「お前ぇ、軽いな。だったらこの先の空気穴から放り投げれば、届くだろう」

「なっ。く、空気穴って、天井まで五メートルはあるんだぞっ」

「なぁに。俺様は筋力には自信がある。めちゃんこだ。だから届く!」


 おいおい冗談だろ。確かに獣人族は人間に比べてパワーがあるって、記憶が蘇る前のでも知っている。

 だからって五メートルだぜ。いくらなんでも届かないだろ。

 それに上の階──地下三階の町まで地面の厚みだけでも数メートルあるんだ。


 届く訳がない、届く訳が──


『ルガアァァッ』

「ち、もう来やがったか」


 止まれっ──咄嗟にモンスターの動きを止める。

 止めきれなかった奴らに押し出され、硬直したモンスターが雪崩のように転がって来た。

 

「うっらあぁっ!!」


 雄たけびにも似た声と同時に、俺の体が宙に投げ出された。

 まっすぐ、垂直に上昇。


 視線を移すと、あの獣人族がニッコリ笑って俺を見上げていた。

 

「長生きしろよ、坊主」

「あ……ああぁぁぁっ」


 カウント0……。

 優しい笑みを浮かべた獣人は、押し寄せたモンスターの波に攫われ……


「止まれえぇぇーっ」


 空気穴から見える僅かな視界では、ほんの数匹しか動きを止めることは出来なかった。

 この瞬間、眩暈がして──


「おい、穴から子供が飛び出して来たぞ!?」

「キャッチ! もう大丈夫だぞ少年」


 地下三階まで飛び出した俺は、ゴツゴツとした腕に抱き留められた。

 

 薄れゆく意識の中、俺は必死に懇願する。


「この下に……俺を……俺を助けてくれた人がいるんだっ。助けて、助けてっ。誰かあの人を助けて!!」


 そこまで叫んだあと、意識はぷっつりと切れた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ