9-2
「んー、あぁ、なんか不自然に四角い岩だろ」
神父がその方角に向かって歩き出す。すると目の前の草むらからモンスターが突然──そう、それまで見えなかった奴が突然出てきた。
「リヴァ、たすけてぇー」
「棒読みいぃ!」
駆けてきたモンスターをハンマーでブッ叩く。
「うへっ。お前、なんつーエグい武器使ってんだよ。つかそれ掘削用だろ?」
「借りた」
「嘘つけぇ。まぁいいや。今みたいにな、一定距離に近づくまでモンスターが見えねえんだ」
「それってヤバくね?」
死体が消えて魔石が一つ転がる。それを拾いながら周囲を警戒した。
「大丈夫だ。向こうも俺たちが見えてないからな。一定距離ってのも、だいたい50メートルぐらいか」
「モンスター側も条件は同じか」
「そういうこと。それに上の階みたいなのだって、角を曲がったら目の前にモンスター! ってこともあるだろ。それ考えりゃ、対して変わりゃしねぇよ」
それ言われると、まぁそうなんだけど。
この、まるで地上のような構図の階層はちょいちょいあるらしい。
森の中、雪原、砂漠、廃墟……だけど階層内の全てが見たまんまではないと神父はいう。
「ここだ」
「……草原に……ダンジョンの入口……しかも裏側は何もねえじゃん!」
「そもそもダンジョンってのは、空間を捻じ曲げられて作られてんだ、常識なんて存在しねーんだよ。さ、入った入った」
さっき見た不自然に四角い岩は、ダンジョンの入口だった。
表から見るとそうなんだが、裏に回ると長方形の岩にしか見えない。
神父が入って行くので仕方なくついて行くと、中は本当にダンジョンだった。
「どこの階層にもな、こんな風にダンジョン内のダンジョンがあるんだよ」
「面倒くせぇー」
「そんなもんだ──って納得するしかねぇ。なんせここは、迷宮神が創りたもうた世界なのだからな」
迷宮神ねぇ。いったいどんな奴だよ、こんなもん作ってんのは。
それにしても、ここは上の階層のダンジョンよりも明るいな。
人工的──というよりは普通の曲がりくねった洞窟という感じだ。
「お、なんか巨大魔石みたいなもんがあるじゃん」
「あぁー、それモンスターだから触んな」
「げっ」
地面からニョキっと生えた魔石のような、巨大な水晶柱みたいなのがモンスター!?
「ステータス強奪、出来るかな」
「やってみればいいんじゃねーの? 奴ら一歩も動けねぇから」
「……存在意義があるのか?」
「お前ぇみたいに知らずに触ろうとする奴を喰う」
……うわぁ。
けど触らなければそれまでってことだろ?
動かない奴に一時停止使うとか、なんか変な気分だ。
──止まれ。
お、ちゃんと黄色いマークが出た。
動かないんだし、敏捷はなさそうだ。筋力……も期待できないよな。じゃあ体力!
[対象の体力が術者の体力を下回っているため、強奪に失敗しました]
「あぁーっ! 失敗したあぁぁ」
「何を盗もうとしたんだ?」
「体力ぅ……敏捷は絶対ないだろ? 筋力だって……なさそうだし。石っぽいから体力はあるのかなぁと思って」
「魔力だ、魔力。あいつら、触れた奴の生命力を奪う『ライフドレイン』っつー魔法を使うんだよ」
魔力かよ!
クソッ。貴重な魔力資源だったのか。
「あったあった。ほれ、あれが解熱剤になる薬草だ」
神父が指さしたのは、洞窟の隅に生えた苔みたいなヤツ。
「薬草は表の草原じゃなく、こっちの洞窟ん中にあるんだよ」
「下痢止めも?」
「おう。生えてる場所は固定してねぇ。見つけたら採取しながら進むしかねえんだよ。お前は俺様の護衛な」
そう言うと、神父はスキップしながら洞窟を進んで行った。




