8-2
「あい」
春の訪れをセシリアが持って来た。
花だ。
しかも根っこごと持ってきやがった。
「セシリア、ここは日差しも届かないし、持って来ても枯れるだけだぞ」
「ううん。おぉ、おぉお」
天井と地面を交互に指差す。
あぁなるほど。
空気穴の真下なら、多少は日差しが届く。ここに植えろってことか。
「はぁ、これでいいですか?」
「あいっ。にひぃー」
たまに水やりに来てやらないとな。
「水石の出番もありそうだ。そういやお前、ダンジョンに入っているらしいが、どうやってモンスターを倒してんだ?」
これまでセシリアが見せた武器になりそうなものは、小さなナイフぐらいだ。
でもあれじゃあなぁ。俺の採掘用ハンマーの方がマシだろう。
防具──はおろか、まともな服すら着ていない。
薄汚れた丈の長い上着に、七分丈のズボン。わりと最近まではその上から毛皮を羽織っていただけ。
「ま、まおぉー」
「魔王!?」
「いぃぃーっ。【まほう】う!」
「魔法かよ──って、魔法が使えるのか!?」
「にひぃー」
セシリアはふんぞり返ってドヤ顔を見せた。
まさか魔術師だったとは……驚いたぜ。
「どんな魔法が使えるんだ?」
「んー、【風】」
「ほぉほぉ。で?」
「んぎぎ。いいぃぃぃーっ!」
どうやら風の魔法だけらしい。
しかし風の魔法って……風属性のことなのか、それとも風という名前の魔法だけなのか。
詳しく聞いてみると、前者のようだった。
「ほぉー、お前は精霊魔法使いなのか」
「にひぃー」
「じゃあ風属性の魔法を、いくつか使えるってことで?」
「あい」
「ところでそろそろ発音を覚えような」
「いいぃぃぃーっ」
いつになったら筆談以外でコミュニケーションが取れるようになるのか……。
「よぉし、今夜は発音の練習をみっちりやるぞ! 俺はスパルタ教師だ!!」
「あぐぅ……うえぇ、うえぇ」
「まずはリ! リ、いってみよぉー」
「うぐああぁぁーっ」
俺の名前はいつから「うぎああ」になったんだような。
「人の名前を勝手に改変すんじゃねえ! やりなおし!!」
「いいいいぃぃ-っ!」




