表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

13/111

7-1

「ぁ……ぁあ……うぅぅ」

「だから……ここは危険な場所なんだから来るなって言っただろ」


 呆れてそう言うと、彼女は膝を抱えてその場に座り込んだ。

 拗ねたのか──と思ったがそうじゃない。


「お前、文字が書けるのか」

「ぁい……ん、んん」


 読めと言っているのだろう。どれどれ──。


 教会で神父の世話になった子供は、文字の読み書きも教えて貰える。

 まぁ覚える気のない子供もいるけど、神父は無理強いはしない。

 

 前世の記憶が蘇る前の俺は、なかなか優秀だった。

 ちゃーんと神父から文字の読み書きを教わってマスターしていたのだから。


 今目の前で彼女が書く文字は、俺が神父から習った物と同じだ。


【大丈夫。見つからないように気を付ける】

「いや気を付けるったって……」

【外は真っ暗。月ない】


 月が無いってのは新月のことだろうか。

 空気穴から上を見上げると星が出ているのは見える。だが月が無いってだけあって、普段よりも暗く感じた。


「上で見つからなくっても、こっちで見つかったら意味ねえだろ。あのな、地下街ってのは罪人も多いんだ。奴ら、ここなら追手が来ないからって好き勝手していやがるし」

「うぅ……う!」

【見つかったらすぐ逃げる。そしたらもう来ない】


 はぁ……そりゃまぁ飛べるのなら、直ぐ飛んで地上に出てしまえば捕まることもないだろうけど。


「なんでそこまでしてここに来るんだよ」

「ぁ……ぅ……」


 文字を書く手が止まる。

 やがてゆっくりと【誰もいないから】という文字を書いた。


 誰もいない──家族がいないってことなのか。


 今まで書いた文字を消すと、今度は少し長い文章を彼女は書き始める。


 空気穴から落ちてきたあの日、彼女は奴隷狩りから逃げていた。

 奴隷狩りから逃げるのは、なにもその日が初めてではなかったらしい。

 何年も前に住んでいた集落が襲われ、その時に両親とも逸れてしまったそうだ。


「じゃあお前……ずっとひとりで逃げてたのか?」

「ぁ……い」

【あちこちずっと、飛び回った。お父さん、お母さん探した。でも見つからなかった】


 あぁ、だからか。

 あの日、家族という言葉を言った後、この子は大泣きした。

 ずっとひとりで逃げ続け、ずっとひとりで悲しみを抱え込んでいたのだろう。

 それがあの時、一気にあふれ出したのかもしれない。


「いや、だからってここは……あぁクソ。分かったよ。けどな、俺だって毎晩ここに来ている訳じゃねえ」


 彼女がコクコクと頷く。


「そうだな。新月──今日みたいに月が出ない日の夜だけだ。それと他の奴らに見つかったら、そん時は──」

【直ぐに逃げる】

「逃げた後はもう絶対に、二度と、決して、ここには来るな」

「ぁぅ……」

「あうじゃねえ。さっきお前が言ったことだろうが。約束できねえのなら、俺の方が二度とここには来ねえからな」

「うぅぅ」


 眉尻を下げ、今にも泣き出しそうな目で俺を見る。

 ここで甘やかしてはいけない。

 こいつのためなんだから。


 観念したのか、唇を尖らせて彼女は【約束する】と文字を書いた。


「それでよし。じゃあ自己紹介だ。俺の名前はリヴァ。お前、名前はあるよな?」


 少女は頷き、地面に【セシリア】と書いた。


「セシリアって名前でいいんだな」

「あいっ」

「ところでお前……その、言葉を話せるのか、話せないのか、どっちなんだ?」


 声は出ている。返事も、まぁ一応出来ている。

 まったく話せない感じではない。


 するとセシリアはまた地面に長文を書き始めた。


【私有翼人。有翼人同士は頭の中で会話出来る】

【喋ることも出来る。他の種族とは口で喋らないといけないから】

【大きくなると喋り方教えてもらう。でも教えてもらう前に】

【お父さんとお母さんと離ればなれになっちゃった】


 頭の中で会話……テレパシーみたいなものか。それで言葉を話す必要がない……と。

 でも他の種族とコミュニケーションをとるために、喋り方は教わるようだ。

 教わる前に奴隷狩りにあったのだろう。だからセシリアは言葉を話せないようだ。


「文字を書けてよかったな。文字すら書けなかったらお前、いろいろ詰んでるからな」

「うえぇぇ」


 いかにも嫌そうな顔をして、セシリアは唇を尖らせた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ