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6-2

「人口が少ないとか?」

「んあ、まぁそうだな。元々子宝に恵まれない種族らしくて、数は少ないんだ。そのくせほら……金持ち連中は珍しい物好きだろ?」

「捕まえて奴隷にってことか」

「そんなところだ。その上三十年ぐらい前だったか、俺様が今のお前ぐらいのピチピチ美少年だった頃だ。とある国の王女様が、有翼人高額で買い取っててな」


 僅か十年ほどで、有翼人の数は激減したらしい。

 なんせ『生死を問わず』という条件だったから。


「俺様は時々思うのよ。この世界でもっとも恐ろしい生き物はドラゴンでも魔王でも邪神でもなく、人間なんだろうなって」


 そう呟く神父に、俺は心の中で同意した。


 もしかするとあの子は、奴隷狩りに遭遇したのかもしれない。

 そして逃げる間に家族とはぐれ、怪我もしたのだろう。

 怪我が原因で飛ぶのもままならず、空気穴から落ちた──ってとこだろうな。


 無事に家族と再会できればいいのだけれど。


 ま、何にしても二度と地下街には来ないだろう。念を押したからな。


「──そう思ったのに、なんでお前はここにいるんだ」

「ぁう……」


 十日ほど経ったある夜に、いつものお気に入りの場所に──


 有翼人の少女がいた。


「俺は言ったよな? ここは悪い大人が多いから来るなって」

「うぐ……ぁ、うぅ」


 もじもじしながら、少女は肩からブラ下げた鞄を俺に差し出した。


「鞄なんか、どうしろってんだ」

「あっ、あっ」


 鞄を指差して、開けろと言っているようだった。

 何が入ってんだ……まぁ開けろと言うなら開けてやるけど。


 巾着絞りになった鞄を開けると、そこには見たことのない──いや、前世では見たことのある物が!


「リ、リンゴ!? これ、リンゴか?」

「あぃっ」


 それだけじゃない。他にもブドウや茸と言った、秋の味覚っぽいものが鞄一杯に入っていた。


 見覚えがあっても、転生してこっち、見慣れたとは決して言えない物ばかりだ。むしろこの世界に来て一度も見たことないモノばかりとも言える。


 ごくり──。


 自然と唾が出て喉が鳴った。

 少女がリンゴを手に取って、俺に差し出す。


「く、食っていいのか?」

「ん」


 今度は鞄を押し当ててきた。

 つまりこれ全部──


「俺にくれるってこと?」

「ん」


 満面の笑みを浮かべて頷く。


「怪我の手当てをしてやったお礼ってことか」

「ぁい」


 もう一度微笑んだ。


「リンゴなんて十何年ぶり……いや、生まれて初めてだ」

「んん?」

「気にすんなって。ありがとうな。でも──」


 鞄の中の物を受け取って、俺の背負い袋へと押し込む。


「前にも言ったけど、ここは危険な場所だから二度と来るなって言っただろ? お前の事、少し聞いた。有翼人って言うんだろ?」

「……ぁい」

「なおさら悪い人間に見つかったらマズいじゃねえか。お礼はこれだけでいい。だから本当の本当にここへは来るな。な?」


 暫く俯いていた彼女だったが、最後には小さく頷いて──それから翼を広げて舞い上がった。


「気を付けて帰れよ」


 その言葉には返事をせず、彼女は一気に上昇して前回同様空気穴の直前で翼を消し、上に出てからまた翼を広げた。


「器用な飛び方をするもんだ」


 そんな風に思って……それから一カ月後。


「だから……なんでお前はまたここに来てんだ!?」

「ひうっ」


 俺のお気に入りの場所には、またあの有翼人の少女が来ていた。


 


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