エピローグ
「セシリア、いったぞ!」
「うん、はーい!」
バサりと羽音がして、上空から鋭い風が放たれた。
直後に、俺の前方で仁王立ちしていたグリズリー・レッドベアの首が飛ぶ。
「ぃよっし! これで半月分の肉は確保出来ただろう」
「そうだねぇ。一回帰る?」
「あぁ。デーン、帰るぞぉー!」
デン猫はふらふらとその辺を飛び回っていた。
パチパチと放電しながら戻ってくるのを見ると、今夜の天気は荒れそうだ。
といってもそれは地上での天気のことで、ダンジョン内では雨も降らなければ雷も鳴らない。
ダンジョンでの生活が始まって一年。
セシリアが遠くまで飛んでいき、転移位置を記憶して俺が転移する。
そうして暫く周囲を冒険し、デンの好奇心を満たす。
時々ダンジョンの方へ戻って来ては、食料調達の手伝いをした。
遠くへ行くのは、なにもデンの好奇心を満たすだけじゃない。
探しているんだ。
有翼人を。
しかしなかなか見つからないし、情報もない。
奴隷になっているなら貴族の屋敷をしらみつぶしに探せば見つかるんだろうけど。
「おーい。肉を狩って来たぞぉ」
ログハウスの近くには、猿人たちの集落もある。
ドワーフの集落は山の近くだ。歩くと一時間ぐらいかかる。
「おぉ、こりゃあ大猟だな」
「また解体を頼むよ」
「うむ、任せておけ。おぉ、神父が吉報を持ってきたそうだぞ。早く帰るがいい」
「吉報?」
セシリアと視線を合わせ、俺たちは神父たちが暮らすログハウスの方へと向かった。
「おい、神父。吉報ってなんだよ」
バンっと扉を開けて中へと入る。
「おいー、扉が壊れるだろうがっ。てめーのステータスを考えろ!」
「俺のステータス? ちゃんと手加減してやってるさ。大丈夫だいじょーぶ。で、吉報って?」
「あぁ。まぁセシリアちゃんへの吉報かな?」
「とにかく二人とも座れ。疲れただろう」
ライガルさんがお茶を入れてやって来た。
神父はたまに町に出かける。このダンジョンだけでは、生活に必要なものは揃わないからだ。
「この間帝都に行ってきたんだ。アレスタン皇子に会いにな」
「皇族と謁見なんて、ずいぶん偉くなったなぁ神父」
「いやぁー、なんせ俺様、S級冒険者だったからぁ」
なんの関係があるんだ。
「見つかったぞ。有翼人」
神父の言葉を理解するのに、俺たち二人は時間がかかった。
『む? それは今、こちらに向かって来ておる有翼人のことか?』
は?
「んん? いや、今は帝都から南の、皇族の別荘で保護されているはずなんだが。ん? デン殿?」
『むむ? では別人か。いや、我の眷属たちに有翼人を探させて、見つかれば此処のことを伝えるように言っておったのだが』
「デンちゃん……デンちゃん、今こっちに来てるの!?」
『うむ。雷が近づいておるから、急いで向かっているであろう。出迎えよ』
出迎えって、そんなすぐ!?
え、待って。
神父が持って来た有翼人情報とデンが言ってる有翼人……別人なのか!?
この一年間、ずっと探していて見つからなかったってのに。
見つかる時はこんなアッサリなのか。
「セシリア、行くぞ」
「え、あ……」
「デン、来てるのはひとりか?」
『十数人はおるだろう。本当は驚かせるつもりだったのだが、神父めぇ』
「え、俺が悪いの? え?」
セシリアの手を掴み、家を出る。
「あれー? リヴァ兄ぃ、帰って来てたのか?」
「お、いい所にいた。イスト、シアナ。お客が来るから、急いで飯の支度をしてくれ。あと寝床だっ」
「え? え? 兄さん、何人来るの!?」
「十何人かだ! あ、テント出すからこれもどっかに広げてくれっ」
「ごめんね、お願いします」
笑顔のセシリアと一緒に、俺たちはダンジョンの入り口へと走る。
外に出ると空には雨雲が広がり、いつ降り出してもおかしくない天気だ。
遠くの山には雷雲も見えた。
「もう近くなのか?」
そう尋ねた時、目の前に白い羽根が……落ちてきた。
セシリアの羽根か?
いや、セシリアは俺の隣に立って空を見上げている。
俺も顔を上げて、雨雲で覆われた空を見上げた。
そこには、純白の翼を広げた人たちの姿があった。
「ようこそ。自由なるダンジョンへ」
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俺だけ使える『ステータスボード』と平均化のユニークスキルで、不器用大富豪は最強になる。




