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64:

 ひとまず山を下り、北の国境の町へとやって来た。


 ダンジョンで暮らすと言ってしまったが、問題はいろいろある。


 まず、俺に建築知識も技能もないこと。ほったて小屋程度なら建てられるけど、あれならテントの方がまだマシだ。

 せっかくならちゃんとした家を建てたいところだが……大工を連れてくるのはなぁ。


 ……いや、それ以前に問題があるじゃないか。


「アレス。あのダンジョンって……やっぱり王国の管理下に置かれるのか?」


 そう。ダンジョンの所有権は、生成された土地の領主に与えられる。

 あの森は王国の所有する土地だったから、ダンジョンは王国の管理下ということになっていた。

 森のダンジョンから繋がったあそこは、王国所有ってことになるのか?


「結論から言えば、どの国も管理できないだろう。北の山脈アブソルトマウンテンは、大昔からどの国も所有権を主張していない未開の地だからね」


 少しお高い宿の部屋には、俺とアレス、あとデンがいる。セシリアは別の部屋を取らせているが、今は長風呂の時間だ。


「あの山、アブソルトマウンテンっていうのか」

「あぁ。あの山は人が行き来するには険しく、そして大きすぎる。山を挟んだ向こう側の国に行くにしても、迂回したほうが圧倒的に安全だし、時間も掛からないだろう」


 そのうえモンスターも多すぎる。開拓するのにどれだけの犠牲を出さなきゃならないか考えると、どの国も手を出したがらないって訳だ。

 

「それもあって、多くの亜人種があの山には暮らしているようだ」

「亜人種が……」

「彼らにとってあの山は、安全な土地なんだろう。モンスターよりも人間のほうが、彼ら亜人にとっては危険な存在だろう」


 モンスターより人間のほうが恐ろしい、か。

 モンスターには縄張りがある。それを侵しさえしなければ襲って来ないし、入ったとしてもしつこく追いかけてくることは少ない。

 だが人間は違う。国境はあるが、それすら侵して戦争をすることだってある。自分の欲望のためにだ。


 山が険しくてよかった、というべきなんだろうな。


「あのダンジョンの事だけど、私自身はどこにあるのか分からない。それにここまでは転移の指輪で来ただろう?」

「まぁ俺も詳しい位置は分からないけど」

「そうだ。どこにあるのか分からないダンジョンなど、どこの国が管理できるという?」

「だけどあの森のダンジョンと繋がってるだろ?」

『それなら心配はないだろう。ダンジョン同士が繋がるのは、双方のダンジョンが未攻略であることが条件だからな』


 森のダンジョンと山のダンジョン。確かに俺たちが落ちた時点では、どっちも未攻略だった。

 そして山のダンジョンは今、攻略済みに。


「じゃあもう繋がらなくなったと?」

『今誰かがあの穴に落ちれば、森のダンジョンのどこかの階層に落下して死ぬだけだな』

「そういえば、迷宮神も言ってたな。楽して最下層に侵入出来る裏技はもう使えないとかなんとか」


 位置を把握しているのは、ある意味セシリアひとりだけ。

 王国領にあるダンジョンではないし、他の国のものでもない。険しい山奥にあるダンジョンなんて、人を送り込む方がデメリットが大きすぎる。そうアレスは言う。

 

「それにリヴァ。今大事なことは他にもあるんだ」

「大事なこと?」

「そう。私が生きているということだ」

「アレスが生きている……あ……俺たちを奈落に突き落とした、あの野郎ども」


 あんのクソ兄弟。

 のっぴきならない事情がない限り、冒険者は冒険者の命を奪ってはならない。

 そのルールを無視して、身勝手な理由で俺たちを抹殺しようとしやがった。

 しかも王国の第三皇子まで巻き込んでしまったんだ。ただじゃ済まないだろう。


 自分たちが突き落とした男が皇子だと知ったら、どんな顔するだろうな。

 いや、既に胴と首が繋がってないかもしれない。






「正直に言えば分からない」

「分からない?」

「んー、なんの話か全然分かんないんだけど」

「あー……」


 長風呂お嬢様が戻って来て、久しぶりの野菜を満喫した後これからのことを話し合う。

 アレスと話した内容をかいつまんでセシリアに伝えた。


「んー、悪いことしたんだから怒られるのは当たり前よね?」

「普通はそうだ。だけど……兄上が庇護すれば……」


 皇子の兄上ってことは、皇子だよなぁ。

 アレスが第三なら、第二か第一皇子か。


「で、どっちの兄上なんだ?」

「二番目だ。ラインフェルト兄さん、王妃の子だ」

「王妃の子が二番目なのか」

「といってもほんの半年の差だけどね」


 王妃が懐妊する前に、側室の方が先に身籠った。ただそれだけだ。

 基本、王位ってのは先に生まれた順に位が決まるもんだろう。でもそうなると……。


「王妃も第二皇子も面白くないよな」

「その通り。第一皇子のクリフィトンの生母は伯爵家の生まれなんだ。それ故に許せないのだろう、我が子より王位継承権が上だということが」

「あの兄弟の父親は、第二皇子派?」


 その問いにアレスは頷く。

 第一皇子は誠実で、権力を振りかざすタイプではない。爵位が上だからと、たったそれだけの理由でふんぞり返る貴族には冷たいようだ。

 

 第二皇子は真逆の人間で、自分の出生を誇示することに執着している。同じように爵位こそが全てだと言う上流貴族には、人気があるようだ。


「上流貴族がみなクリフィトン兄さんを毛嫌いしている訳じゃないんだ。ちゃんと領地を治め、国に貢献する者も多いからね」

「私欲を肥やす奴らには厳しいってことか」

「クリフィトン兄さんが即位すれば、立場が危うくなる貴族は確実にいる。そういった者たちはラインフェルト兄さんを推しているのさ」


 そのひとりが、あの馬鹿兄弟の親ってことだ。

 自分の支持者には恩を売っておきたい。


 もしあの馬鹿兄弟が第三皇子を穴に突き落として殺害しようとしたのがバレれば、当然打ち首確定だ。

 皇子だとは知らなかった──では済まされない。そもそも冒険者だからって、殺人を許容されている訳じゃないからな。


「キャロンとディアンの無事を確認しなければ。あの兄弟が私が誰であるか気づいていなければ、ラインフェルト兄さんに庇護されることもないだろうが……」

「冒険者殺しの口封じをする可能性もあるしな」

「あぁ。ひとまず大聖堂に向かおう。なるべく急ぎたいところだが、王都までは遠いな」

「それなら、私が途中まで飛んで行って、転移の指輪で飛べるようにしようか?」

「その方が早いだろうな」


 だけど王都までは流石に遠いし、ひとりで行かせるのは心配だ。

 人目に付きにくい森や山を選んで、半日ごとに転移用の位置情報の上書きする。

 その都度合流するのがいいだろう。


「今夜はここでゆっくり休んで疲れを取ろう。移動は明日だ。アレスもそれでいいよな?」

「もちろんだ。さすがに今日はベッドで休みたいよ」

「じゃあ明日、頑張って飛ぶね」


 王家のごたごたに巻き込まれたくはないが、あの兄弟はぎゃふんと言わせておきたい。

 それにキャロンやディアンは仲間だ。

 仲間の無事は確認しておきたい。


 まずは迷宮都市を目指そう。

 神父が心配しているかもしれないしな。


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