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102/111

63:

 日時は少し巻き戻る。

 場所はモーリアの森のダンジョン地下一階。


「くっそ。あの剣士、やたらと強いですよスティアン様」


 怪我を負った紅の旅団メンバーが、リーダーであるスティアンの下へと戻ってきた。

 彼らは十人がかりでキャロンとディアンの二人を追っていた。

 気を失ったキャロンを抱えてなお、ディアンは彼らクランメンバーを退けたのだ。


「貴様らがクズなだけだろう。だがもういい。逃げられたとて、痛くも痒くもない」

「だ、だけどスティアン様。ぼ、冒険者殺しは、ギルドの規律に違反しますし……」

「冒険者殺し? どこにそんな証拠がある。あの二人か? たかが冒険者風情と、侯爵家の者である私と、どっちの言葉を信用する? いや、どっちの言葉を信用せねばならないと思っている」


 身分の低い者の言葉は戯言。

 スティアンはそう言い切り、今はダンジョン探索に意識を切り替えた。

 だが内心は穏やかではない。


 古代獣を倒し、お名声と財を手に入れようと弟を向かわせたが失敗。

 数人が死んだが、そんなことは気にしていない。

 ただ転移魔法を使って第二陣を送り出した。その中にはスティアン本人も含まれている。


 が、到着した時には古代獣の姿はなく、スティアンは弟と共に迷宮都市へ帰還。

 残りのクランメンバーを古代獣捜索に残したが、彼らは誰ひとりとして戻って来ていない。

 十日後、転移魔法でスティアンらが訪れた時には、黒焦げになった死体が見つかっただけ。


 その後、新たに発見されたダンジョンへと向かうと、そこで山の上に古代獣と同じ気配をする精霊を見た──という精霊使いからの報告を聞いた。

 精霊使いは古代獣討伐隊の第一陣に参加していたが、バーロンが第一陣は無能だからと第二陣では総入れ替えしている。


 古代獣の中に大精霊が封印されていた。

 大精霊こそが古代獣が守る宝だったのではないかと精霊使いは進言し、スティアンは「私もそう思っていたところだ」などと心にもないことを口にしたとかなんとか。


 お宝こと大精霊は、既に精霊使いと契約している様子。

 その大精霊を従えていたのが、以前、自分がクランに誘った美しい少女だった。見た目が美しかったから、自分のものにしたい。

 そう思ったがうまくいかず、同行していた男がたてつき逃げられている。

 

 またもや自分にたてつくのか、あの男は。

 少女だけでなく、古代獣の宝まで奪い去ったことが許せなかった。

 だから殺した。


 自分勝手な逆恨みなのだが、スティアンはそう思っていない。 


「卑しい身分の分際で、貴族に逆らう者はすべて悪だ!」


 と、彼は心からそう信じている。

 身分の高い自分こそが正義なのだと。


「あの女を私のモノにして、大精霊も手に入れるつもりだったが……落ちてしまったものは仕方がない。女が死ねば、大精霊はまたあの山へ戻るだろう」

「そうですねスティアン兄さん。また山に登って古代獣狩りをすればいいですよ」

「あぁ。ひとまずクラン本部に指示を出すか。古代獣を他の者に奪われないよう、見張っていろと」


 そんな兄弟の言葉を耳にして、同行する紅の旅団メンバーは蒼白した。


 またあの山に行くのか?

 今度は何人死なせるつもりなのか?


 大手クランに入ってイキっていた彼らだが、平気でメンバーを肉壁にして死なせ、そのことに何の罪悪感も抱かないスティアンに恐怖し始める者もいる。

 最近ではクラン本部に戻ってこない者も出ているが、兄弟はそのことを把握していない。


(俺、次に地上に出たらクラン抜けるんだ)


 そんなことを考える者が、今ここに何人かいた。


「おい、貴様らはさっさとダンジョン攻略に行け! 他のパーティーに後れをとることは許さんっ。なんとしてでも吉報をラインフェルト様に届けるのだ!」

「兄さん、使えないクズメンバーたちを、階段に常駐させて他のパーティーの妨害工作に当たらせたらどうだろう?」

「おぉ、バーロン。さすが我が弟。賢いじゃないか。おい、お前たち。分かったら第三メンバー以下の奴らに連絡をして、今すぐこちらに来させろ!」


 スティアン、バーロン兄弟のロクでもない指示を受け、彼らは重たい足を引きずって踵を返す。

 スティアンの口から第二皇子の名が出たことで、クランを抜けるという勇気は失せてしまった。

 抜ければ第二皇子直属の騎士団に追われるかもしれない。

 そう思うととてもじゃないが、抜ける勇気など出るはずもなかった。


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