ウジュルマカラ・エベレケセ・ハットトリック
石を積み上げて作られた宮殿。
その中に大きな堀があり、少年たちが一つの球を奪い合っている。
腰巻を身に着けただけの、褐色肌の少年たち。
サッカーボールほどの大きさの球の中には砂が詰まっており、どっしりとした重量感がある。
球を相手の陣地にある大きな輪の中へ放り込むのだが、妨害を退けながらゴールするのは非常に困難である。
チームの長であるヴァルハは黒髪の小柄な少年。
持ち前のすばしっこさで相手を翻弄し、一気にグラウンドを駆け抜けてゴールを決める。
「やったな、今日も!」
親友のマチナが肩を抱いていう。
背が高く、金色の髪をした美しい少年。
ヴァルハとは幼馴染だ。
「王に一番近いのは、お前なんじゃないか?」
「そんな……俺なんて……」
照れくさそうに俯くヴァルハ。
「あのさ……話があるんだけど」
「なんだよ?」
「ここじゃちょっと……」
「…………」
深刻そうなマチナの表情にただならぬものを感じたヴァルハは、彼と共にひと気のない場所へ行く。
「実は俺……生贄になるんだ」
マチナの言葉にヴァルハは頭が真っ白になる。
「今までありがとうな。
儀式までまだ時間があるけど……」
その後の彼の話はほとんど頭に入らなかった。
このままではマチナが殺されてしまう。
やるべきことは一つ。
「おおおおおお! 決まったぁ!」
試合で次々とゴールを決めるヴァルハ。
そして……。
「すごいぞ! 一試合で三度も決めた!」
「奇跡だ!」
「王様ばんざーい!」
三度得点したヴァルハは奇跡を起こした少年として、王になる権利を獲得。
まず彼が最初に下した命令は……。
「俺は王マチナを愛妾として側室に迎え入れる!
この決定に文句がある奴は前に出ろ!」
民衆の前で宣言するヴァルハ。
マチナを救うにはこの方法しかなかった。
何故なら王の愛妾は生贄にされずに済むからだ。
「ヴァルハ……」
「お前は俺が守る。何があっても……絶対に!」
そう言ってマチナの唇を奪うヴァルハ。
二人は民衆が見守る中、熱い口づけを交わした。
かつて存在した古代文明ウジュルマカラ。
その国の王は代々、国技である『闘球』にて選ばれた。
人の皮を張り合わせて作られた球をゴールポストに入れるという単純なルール。球技と言うより格闘技に近い競技で、一回ゴールが決まるだけでも珍しい。
そのため三回ゴールを決めた者は英雄となり、王となる資格を得る。
後世の考古学者たちは近代のスポーツになぞらえて、その栄誉をハットトリックと翻訳した。