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この子の幸せを今願う



一瞬で場所を移動する事は疲れるけれど、あの場所に一時たりとも居たくないと言う意味でも正解だったと思う。


びっくりした様にきょろきょろ周りを見渡して、サラサラの白い髪が揺れた。

私の手を握る力が少し強まったので、不安なのかなと私も小さな手を握り返した。



「……ここ、どーこだ」


「お外……?」


「そ、国の外だよ」



くすくす笑って歩き出す。

小川にかかる小さなレンガ造りの橋を抜け、背の低い木々を抜けた先。

私の隠れ家をゆび指して「あれ、私の家だよ」と笑うと、リズテイシアもホッとした表情を見せた。



あの国には私の血を分けた家族が居る。

根強い血は国の内部に深くくい込んで、醜く哀れな部分を隠しながら生きていた。

私があの国を出ようと決意したのはまだ小さな時だったけれど、意外と何とかなるもんだ。



「お姉ちゃん」


「ん?」


「……ありがとう」



ふにゃりと笑ったその表情がものすごく可愛くて、私は可愛い可愛い女の子を抱き締める。

あんな場所に居て欲しくない、そう思ったのは間違いじゃ無かったと、後悔しない様に生きようと決めた。



小さな家だが、女の子1人くらいならなんとかなるだろうと玄関を潜る。

ほとんど物らしい物が置いていない殺風景な景色に、リズテイシアはただ黙っていた。



「取り敢えず……2階の部屋と3階の部屋があるんだけど、リズテイシアはどっちが良いかなあ」


「えっ、お部屋?」


「うん、自分の部屋だよ。

寝る場所だったり、趣味に使っても良いし」


「お部屋……」



緋色の瞳が好奇心にキラリと光った。

私も、自分の家を持った時……初めて落ち着ける場所を見付けたなあと思い出した。

この子にとってお爺様の家は落ち着ける場所だったのだろうか……そう言えば、母がお爺様の家に行った時にはリズテイシアは居なかったと言っていた。

その辺り落ち着いたら聞いてみようかな。



階段を登りながら後ろを振り返ると、首を傾げたリズテイシアと目が合う。



「どんなお部屋が良い?」


「私が選んで良いの?」


「もちろん!君のお部屋だもん、好きにしていいんだよ」



瞬間、ぱああっと周囲までもを明るく照らす程の明るい笑顔が見れた。

やっぱり可愛い。

こんな可愛い子を……叔父さん達に残して来なくて本当に良かった。

この子の笑顔を見る度に、そう思いそうだ。



まずは2階の部屋だ。

ここは私の寝室の隣にある部屋で、使い方が定まらずに本棚を置いているだけの部屋。

やっぱり小さな女の子を住まわせるには少し殺風景だなと様子を伺うと「わああ」と口元に手をやって感動している。



「どう?この本棚は退けて自分の好きなの置いていいんだよ」


「こんなに大きい場所……ご飯を食べる場所みたいに大きいよ?」


「それが不思議なもんで、自分の大切なものをお部屋に入れるとどんどん狭くなっちゃうんだ」


「お姉ちゃんも?」


「後で私の部屋に来てみる?色んなものがあるよ」



そう聞くと、こくこくと頷くので私は笑って「じゃあ次の部屋だ」と手を引いた。

3階はバルコニーと反対の場所に部屋を作ってある。

設計は友人だが、私の事をよく知ってくれているので安心して任せられた。

バルコニーにはたくさんの薬草と花が植わっていて、季節折々の色を楽しむ事が出来るようになっている。



「ふああ……」


「ふふっ、素敵でしょ」



こちらは自慢のバルコニーなのだ。


リズテイシアは、きょろきょろとバルコニーと部屋とを見て、私を見て「素敵!」と叫んだ。



「ここはバルコニーを見る為のソファーくらいしか置いてないけどね、さっきの部屋より少し狭いし」


「ここも素敵」


「そっか、決めらんないね」


「困る……」



眉を寄せたリズテイシアに「どっちにもお泊まりして、最後に好きになった方を自分のお部屋にすれば?」と提案した。



「今すぐじゃなくていいの?」


「良いよ?それにまだ君の物何も買えてないしね」


「……じゃあ、そうする」



ホッとしているその様子に、まだやっぱり遠慮するよなあと私は少し考える。

そもそもリズテイシアからすれば、いきなり知らない人がたくさん自宅に現れて除け者扱いされて、知らない人とここに居るって感じだろうし。

まあ。少しは心を許して貰っている自覚はあるけれど、あの人達よりは!


しかしそうしたって、まずは服とか家具とか欲しいよなあと唸る。



「……お姉ちゃん?」


「ああ、私はエルナだよ。

お姉ちゃんじゃなくても、エルナって呼び捨てても良いよ」


「……エルナ、ちゃん?」


「それでも良いよ」



笑って頭を撫でて、ふと時計を見ると中途半端な時間だと気付く。



「じゃあ、私もリズが良い」


「リズ?」


「おじいちゃんがそう呼んでたの」


「リズ……リズかあ」



改めてお爺様ナイス!と伝えたいが、墓参りは難しいだろうか。

いや、姉さんに言って今度こっそり行こう、リズテイシアの為にも。



「じゃあリズ、改めてよろしく。

私はエルナだよ、旅人で色んな国を巡っているの。

珍しい場所や物を見る為に」


「エルナちゃん、冒険者さんなの?」


「うん!」


「すごい!冒険者さん、いろんなモンスターと戦うの!?」



これは恐らく絵本やお話しなんかで得た知識だなと、お爺様の書斎にあった本を思い浮かべた。

この世界で言う冒険者とは、ギルドと呼ばれる冒険者の支援機関に属し、国の内外のあらゆるクエストを受けて回る人達の事だ。

私の場合そのルートからは少し外れているものの、仕事の内容としてはそう違いは無いので頷いた。



「これからリズもいろんなものを一緒に見て回ろう、私のお友達も素敵な人達ばかりだから」


「……エルナちゃん以外の人?」



瞬時に影が刺した緋色の瞳。

それにニコリと頷いた。



「怖い人は絶対紹介しない、リズの事を仲間だって思ってくれる人しか居ないよ」


「……本当に?」


「変わり者ばっかりなの!

例えば猫耳付いた怠惰の極みの店員さんだったり、凄い顔怖いのに手先の器用な男の子だったり、すごく綺麗なお姉さんなのにお兄さんだったり!」


「??」


「すぐに私の事を信じて欲しいって言うつもりは無いけど、リズが怖いと思う時は私を呼んで?

何があっても私が守ってあげるから」


「エルナちゃん」


「ん?」



リズは差し出した手を取ると、ニコリと微笑んで呟いた。



「ありがとう」



その言葉は今リズが持てる全てが詰まっている気がした。

私に対しての感謝の言葉、この子が持ってる心の全て。

今受け取ったその気持ちを蔑ろにしてたまるかと、私は握ったその小さな手のひらに誓うのだった。

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