精霊に愛された国と貧乏貴族令嬢ー半年前ー
説明回です。地の文がほとんどなので読みにくいかも…
中立魔法国家『オルレア』。南を海、北を山脈、東と西を平原に囲まれた自然豊かな国である。といってもそこまで広大な国ではない。この世界の基準で一般的な公爵が持つ土地が5つ分あるかないか程度だ。周りの三国―キリハード、メルキュリス、アーデテナ―と比べても非常に小さい(最も小さいメルキュリスでさえ約5倍の国土を持つ)。故に常に周囲からの侵略に脅かされている…という訳ではない。周囲三国がオルレアを列強と呼び中立として扱っていく内に、中立国家として成り立ってしまったのである。
オルレアが列強と呼ばれる由縁はいくつかあるが、その一つが保有し戦略的に使用可能な聖剣の多さである。この世界において聖剣とは精霊と呼ばれる伝説上の存在が姿形を変えて武器になったものとされている。聖剣に選ばれた者は一騎当千の力を得るとされ、聖剣を持つ軍人1人に魔法使い含む軍の旅団が敗走した実例もある。そのためイセラートにおいて聖剣は保有している国々で厳重に管理され互いに報告し合い、現在56個の聖剣が確認されている。但し選ばれたとあるように聖剣それぞれに適正があり、適正がなければ只の武器と変わらない。むしろ魔力を吸収する―聖剣毎にその量は違う―ので普通の武器を使うほうがいいまである。そのため聖剣に選ばれた者を適合者と呼ばれ、こちらもまた国が把握、軍やそれに連なる隊に入っている。そして聖剣はその力によってランクがつけられており、S、A、Bの±で分けられている。
現在オルレアが保有している聖剣は15個。その内適合者がいるのは12個。適合者の人数はオルレア成立以降二桁を保っている。保有数が多くて10個、適合者がいるのは多くて半分という国が大多数であることを鑑みるに、異常な数値である。そのため例え戦争を仕掛けても聖剣に物を言わせて蹂躙されるため、オルレアは列強とされ中立国家として成り立っているのである。
その聖剣と適合者の多さから『精霊に愛された国』と呼ばれるオルレアで貧乏貴族令嬢の私が聖剣の声を聞いたのは半年前。王都の学園の中等部を卒業した15歳のとき侍女として城で働き始めて数カ月の頃だった。
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「…絶対次の休みはぐうたらしてやる…!」
その日も私は洗濯物ーシーツが大半、枕カバーやベットスローも含むーが入った籠を抱えて城内を走っていた。ブツブツと文句を言いながら。
私ーセティエ・ニーベルンゲンはニーベルンゲン子爵の五人兄弟姉妹の五女で、銀髪碧眼でそこそこの容姿、スタイルもこの国の平均くらい。ニーベルンゲン子爵領は他の子爵と比べ大きくない領地、多いとはいえない領民、これと言った特産品もない、そのためお金も少ないといった無い無い尽くしの不良領地であるが、子爵家が存続しているのには理由がある。適合者の輩出数が他家に比べると多いのである。一世代に一人は適合者を出していると言われており、決して世襲制と呼べない適合者において有名な血筋である。適合者は戦争において重要な役割を持つため軍において要職に就くのが常であり、適合者一人輩出するだけで相当な報酬を得ることができるーのだが、初代ニーベルンゲン子爵当主曰く「常在戦場、贅沢する事なかれ。褒美は常に領民へと還元せよ」とのこと。そのため子爵領民は福利厚生が充実していて豊かに暮らしている代わりに子爵家は質素な生活をしている(それでも裕福な商家くらいの生活水準である)。そう聞くと他の領から人が移住するので領民は多くなる、と言うことはなく子爵領が王都から遠い(早馬でも片道最低十日)ため自然を好みひっそりと暮らしたい人しか来ず、その風習にあわない人は出ていくので領民の人数はほぼ横這いである。
私も通常ならば城で侍女をする必要もなく、学園も高等部を卒業した後はどこか家格が合った家へと嫁入りするのが定石だ。しかし如何せん他の4人の兄姉が規格外過ぎた。4人のうち3人(長男、次女、三女)が適合者となり、適合した聖剣のランクはA+以上。これを聞いた国はすぐさま軍の要職に彼らを置き、長男を王族の子女、次女三女を公爵子息と政略結婚をさせた。四男も王太子の専属騎士に抜擢され、彼もまた公爵令嬢との婚約を結ぶこととなった。
ここまで聞いての通り子爵家の人間が、家格が遥かに上の家に嫁ぐあるいは嫁取りすることになったのである。子爵当主と夫人(御父様と御母様)は目が回る忙しさであったが恙無く結婚、婚約を終えたーかに見えた。ここで1つの問題が浮上した。
結婚において男性側は式や衣装、女性側は嫁入り道具や化粧品等々金がかかる。まして相手が王族や公爵家なら半端な物は使えない。なけなしの子爵家の資金が湯水のように使われた。そして長男と王族子女の生活が控えている。
するとどうなるか。結婚資金のない子爵五女の出来上がりである。
長男が適合者として選ばれ王族と結婚した時まではのほほんとしていたが、三女が続いたときにはこう悟らずにはいられなかった。
『これ、自分でお金稼ぐしかなくない?』
一応兄姉は自分たちが稼ぐとは言ってくれたが、1つの家、しかも子爵という低い家柄に権力が集中するのは如何なものかという判断で陛下と御父様が彼らの報酬を大分削ってしまった。そんな状態で私の結婚の面倒を見ながらの生活は成り立たないだろうということで中等部を卒業後、長男の嫁のツテ(推薦状を書いてもらっただけで試験はちゃんと合格した)を使い城の侍女として働き始めたのである。
それなりに給料はよく働き甲斐があるのだが、どう考えても働き過ぎな気がする。まあ魔法で身体強化ができると侍女長にバレた時点でこうなるのは必然だったのかもしれない。ただ同じ時間働いた仲間と同じ給料なのは我慢がならない。魔力を使えばそれなりに疲れるのだ。給料アップを侍女長に要求しようと心に決める。
本日何回か分からない程往復している王城の庭でそんな決意をしている私の頭に突然―
『あんのクソガキッ!!こんなトコにオレを置いて行きやがって…!!ゼッテータダじゃ済まさんからなッ!』
そんな声が響いてきたら、転けそうになるのは当然だと思う。
イセラートにおいて爵位の格付は
公爵>侯爵>辺境伯>伯爵>子爵>男爵
となっております