35話 熱気じゃなくて冷気でやる気を伝えてくるうちの子はたちが悪い。
俺はゲームが好きだ。
なんだかんだこの間友達が誘ってくれたヤンキーが幽霊から逃げる鬼ごっこゲームも続けている。
そして俺は負けず嫌い。
やるからには負けたくないし、全勝したい。
でも俺はゲームがめちゃくちゃうまいわけではない。むしろ下手なのかもしれない。
いや自分で下手だと思うとへこむから、俺はそこそこうまい。
うん、そういうことにしておこう。
で、家にはもう一人超負けず嫌いがいる。
「あ、負けた?」
そう、今ゲームをしている俺の真後ろでじっと立っているレイさんだ。
……て、いつの間にそこにいたの!?
全然気づかなかったし、俺そんなにゲームに集中してたっけ?
いや確かに久しぶりにゲームしたいなあと思って、テレビゲームやってるけどそんな周りが見えなくなるほど、熱中少年になってたわけじゃないよね?
……まあレイが神出鬼没なのはいつものことか。
それに冷静な解説ありがとうございます。こんちくしょうが。
「楽しそう」
レイはそういうと俺のコントロールを奪おうと、俺の背中に覆いかぶさるようにして手を俺の前に持ってくる。
出たよ。最近のレイの原動力「楽しそう」
こうなったら俺が教えるまで絶対にレイはひかない。お風呂の時だってそうだった。
ていうか俺が引かずにいると半端じゃない冷気が襲ってくるから、単純に俺が凍死する。
だから引くことなんてできない。
むしろ快く教える。レイの上機嫌な顔はこっちも見ていて楽しくなるからな。
でもわたくし一つ思うのはこうやってレイが俺に覆いかぶさってきているわけじゃないですか?
俺が寝転んでレイがその上に乗っているときも思ってたことだけど、もうちょっとなんか感触があってもいいんじゃないですかね?
こう、ふにっとか、ぷにっとか……別に変態じゃないからね!? 男として当然の感想だと思うよ!うん!
あ、でも重さはなくてよかったかもしれない。今重さがあれば俺の肩は完全に死んでいる。
それでも落ちないか心配になってしょうがないので、俺の肩の上で直立するのはやめてもらっていいですか?
バランスとろうとしないで!こんな時に変な新しい遊びを見つけないで!
遊ぶかコントローラー奪うかどっちかにしなさい!
「まあまあ落ち着けって」
俺の肩の上でびしっと直立姿勢を取り、どこかどや顔じみた満足げな表情を浮かべているレイに俺が持っていたコントローラーを差し出す。
俺から降りてすとんと隣に座ったレイはコントローラーを素直に受け取る。
そしてその片手で受け取ったままの状態でコントローラーをじっと見つめていた。
……いや、別に手放してもそれは逃げないからね?
ああ、これはあれか。握り方がわからないのか。
「これはだな……ん?」
俺が再びレイからコントローラーを借りて握り方を教えようと、手を伸ばした瞬間、レイのコントローラーを握る手がぐっと強くなったような気がした。
……うん、寒い。これは取ったらだめなやつだな。
しかしこの俺!こんなこともあろうかともう一個コントローラーを持っているのだ!
なんて用意周到な俺!さすが俺!
……本当はいつか彼女ができてお家にお呼びしたときに一緒にやるために、念のため買っておいた予備のコントローラーなんだけどね。
なんか埃かぶっているような気がするんだけど気のせいかな。
まあそうだよな、一年ぶりくらいに使うもんな。一年越しの新品未使用初開封だもんな。
……悲しくない悲しくない。
俺は複雑な思いを抱えつつ、一年間ずっとスタンバっていたもう一つのコントローラーを取り出す。
なんか哀愁が漂って見えるのは俺の気のせいだろうか。
やめよう、これ以上考えるのはやめよう。
「とにかくコントローラーはこう持って」
俺は自分の手で持ったコントローラーをレイに見えるように傾ける。
レイは俺の手の方を見つつ、コントローラーを逃がさないように見よう見真似で手を持ち替えていく。
だから逃げないから。急にバサバサって飛んだり、急に消えたりしないから。
レイじゃないんだから。
いや、レイが突然鳥みたいに飛んでもびっくりするけど。
「こう?」
「そうそう、そんな感じ」
今度はしっかり両手でコントローラーを掴んだレイは、やはりその掴んだコントローラーをじーっと見つめている。
さてコントローラーに夢中のレイはもうほっといて、何のゲームをするかな……。
やっぱりやるなら対人戦のゲームの方がいいよな。
なんか無料でないかな。
俺は今やっていたゲームを終了し、ゲームストアをあさる。
お、格闘ゲームがあるじゃん。
俺ほとんど格闘ゲームはやったことないけど、いや一緒にやる相手がいなかったとかそういうわけじゃなくて、RPGとかアクションゲームの方が俺の性にあっているだけであって、別に友達がいないからとかそういうわけじゃないんだけど……誰に言い訳してるんだ俺は。
ともかく初心者同士ちょうどいいかもしれない。
「これやってみるか」
「わかった」
レイのやる気も十分である。
もう冷気がびんびんに横から伝わってくる。
ちょっと弱めてくれないと俺指動きそうにないんですけど。
レイとゲームするのはあのアイス棒ジェンガ以来か。
まあ相手がデジタルゲーム初心者だろうが一切手は抜かないけどな!
「負けない」
「上等」
俺とレイのゲーム大戦がはじまった。




