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23話 予想外の変化球は俺のガラスのハートにドストライクした

 レイはぼんやりとした表情のまま、俺の方に顔を向ける。


 そして目が合う。


 俺を見上げながら一瞬驚いたような表情を見せたレイだったが、すぐに落ち着きを取り戻したのか素直に立ち上がり、パーカーのポケットからメモ帳を取り出して、何かを念じ始める。


『えっち』


 差し出された紙切れにかかれていたのはシンプルな三文字。

 これほどまでにインパクトのある三文字がこれ以外にあるだろうか。


 ……いやいやいや!! ちちちち違うからね!

 別にやましい気持ちがあってのぞき見してたわけじゃないからね!?

 レイのことが心配で様子を見に来ただけであって、それがたまたま尾行するっていう行動につながっただけで、そんなこと言われるようなことは一切かんがえてないからね!?

 この状況でそんなシチュエーションを考えてたら、俺はとっくに犯罪者で捕まってるから!


 ていうかさっきまでの俺の感傷的な感情を返してくれる!? 

 レイの発言が衝撃すぎてさっきまでの気持ちが全部どっか吹っ飛んでいっちゃったよ!


「ていうかそんな言葉どこで覚えたの? レイって実はむっつ」


 そこまでいって、夏とは思えないほどの寒さが降りかかってきたので俺は口を閉じる。


 大丈夫? 夏の気温仕事してる? 夜だからってさぼっちゃだめだよ。

 早く俺を温めてくれないと、地縛霊じゃなくてレイに殺られる。


 レイは俺をひとしきりにらみつけた後に、またメモ帳になにか念じはじめる。

 ん? 血文字で何か書いてるっぽいけど、結構な長文を書いてるな。何かいてるんだろう。


 少し時間が経ち、俺の体に正常な体温が戻ってきたころ、ようやく書き終わったのかレイはうつむきながら、メモ帳をびしっと俺の顔に突き付けてくる。


 もしかして結構真面目なことを書いているんだろうか。

 レイの後をつけてきたことを怒っていてその抗議文とか? 

 でもその文章だとしたら冷気が襲ってきていないので多少違和感があるな。


 どれどれ?


『本棚の奥に薄い本が挟まってて、そこに女の子が』


 俺はそこまで読んだ瞬間に、レイから無言でメモ用紙を受け取るとぐしゃぐしゃにして丸めていた。

 それはもう一切の感情を捨てて、ただただ無心でくしゃくしゃにして自分のポケットに突っ込んだ。


 ……え、なに。レイにあれ読まれたってこと? 俺自身も隠してたこと忘れてたくらいなんだけど。


 ていうかなんで俺そんなところに同人……漫画入れてるの?

 友達も遊びに来ないのに妙に用心深いところが裏目に出ちゃったってこと?


『本は大事にしないとだよ?』


 レイは無邪気に首を傾げながらそんなことを書いた紙切れを見せながら、髪の隙間から純粋なつぶらな瞳で俺を見てくる。


 ……本当に、誠に申し訳ございませんでした!!


 ほんと、外じゃなかったら間違いなく土下座してたね。

 実際にレイに向かって頭を下げていた。無言の謝罪である。


 レイに見られたってことが意外と恥ずかしくて、なんか顔が熱くなってきて頭をあげられない。


 いやだって普段はほとんど見えないけど、ちゃんと顔が見えたら結構な美少女、美人さんだからね? 幽霊とはいえそんな女の子にエロ……あんな漫画を読まれていたと思うと恥ずかしくもなる。



 ……よし、だいぶ落ち着いてきた。


 顔の熱さがなくなったのを感じた俺はやっと顔をあげて、レイと向き合った。


 その時少し風が吹いてレイの前髪が揺れてその顔をのぞかせる。

 レイはどこか楽しそうに俺を見て笑っていた。

 それを見てたらなんか俺もおかしくなってきて、笑えてきた。


「帰るか」


 俺がそういうや否やレイは縁石の上に乗り、バランスよく家の方に向かって歩き始める。


 結局レイが何をしているのか、何のために外に出ているのかはわからなかった。

 もしかしたらレイ自身も分かっていないのかもしれない。


 でも今はそれでいい。


 いつかレイがやっていた行動を理解できるのかもしれない。

 レイが俺に教えてくれる日が来るかもしれない。

 今はわからなくてもいつかきっとわかる。


 楽しそうに歩いているレイの後姿を見ていたら、なぜかそんな気がしていた。

 


 もちろん帰った後、速攻隠していた例の漫画、小説、DVDはすべてレイの部屋から、俺の自室へと移動した。


 さすがにあのままあの部屋に置いておくのは、俺の精神衛生上よろしくないし、純粋なレイのあの瞳をこれ以上曇らせるわけにはいかない。


 いや別にそんな特殊なものは置いてないけどね。俺はごくごく一般的な、ある意味健全な……何言わせてんだよ!


 俺がこそこそとそれを移動している間、物凄い寒気と視線を背後から感じたけど、俺は何も気づかなかった。誰にも見られていなかった。


 そういうことにした。


 なんだろう、なんかいろいろと台無しな気がするけど、俺とレイはきっとこれくらいの残念な感じがちょうどいいんだ。

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