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140話 幽霊にとりつく俺、それが今の自分にとっての日常です

「ここシャワーは別なんですよねえ」


 そう発言しているのは隣に座る容疑者1の後輩。

 いや容疑者も何も犯人確定なんですけども。 


 たしかに周りを見渡しても温泉しかない。シャワーやそういったものはない。

 そこに気づけなかった俺の落ち度も……いや、服があれば誰かもとい俺が入っているということは気づきそうなものだが。


 こいつのことだから何も確認せずに入ってきたのだろう。どうせ。


「何冷たい目でこっち見てるんですか。確かに確認しなかったのは悪いと思いますけど、それでも美人の裸体を拝めたんだからいいじゃないですか」


 そんなことを悪気もなくのたまい、伸びをして温泉を楽しんでいる様子の後輩。


 こいつさっきまでパニックになっていたくせに、すぐに落ち着いてしれっと俺の隣に座ってきたからな。


 精一杯今にも暴れだしそうなレイを抑えている俺の身にもなって欲しいものだ。


 それに自分から美人の裸体とか口にするやつの裸体を見ても何もいいことなんてないんだよ。


 そういうのは恥じらいがあるからいいのであって、自ら見せつけてくるような奴に興奮するなんてことはない! ただしレイは別とする。


「上がるか……」

「私はもう少しのんびりしていきますねえ」


 勝手にどうぞ。

 俺はレイの手を引きながら温泉を出ることにした。


 後輩からしたら手を後ろにしながら歩き出す俺を変人だと思ったのか、首をかしげながらも特に気にする様子もなく温泉を満喫していた。

 俺もシャワーを浴びて部屋に戻るか。


「もどってる」


 温泉に満足したのか、レイはいつの間にか服を着ており俺の手から離れ小走りで部屋へと戻っていく。


 一通りやりたいこともできたし温泉にも入れたから満足したんだろうな。

 また見えない何かと遊びに戻ったんだろうか。



 そのあとは言ったシャワーはいたって普通の一般家庭にあるお風呂で、特に何事もなく過ごすことができた。


 というか疲れすぎからか足がプルプルして立っているのが大変だったよ。

 そんなプチピンチも乗り切って、今は安眠を求めて部屋に戻っている最中である。


 亀のような牛歩ではあるが着実に部屋には近づいている。


「あら、こんばんは」

「あ、どうも」


 部屋に戻る途中おかみさんとエンカウントした。

 何やら疲れている様子に見えたが俺と目が合うとすぐに営業スマイルへと変わった。


「ご飯と温泉、楽しんでもらえたかしら?」


 ええ、それはもう十分に。びっくりすることの連続でしたよ。


「追加料金払いましょうか?」

「ふふふ、大丈夫よ」


 いやほんとにそのレベルよ。このおもてなしで1000円は欲がなさすぎるよ。


「今少しお時間あるかしら?」


 そういうとおかみさんは距離を詰めるように俺の隣まで歩いてくる。

 なんだろう。やっぱり脅されて俺だけ多めにお金取られるのかな。


 別にそれでもいいんだけど。あ、確かにレイの分の料金は払ってなかったな。それかな。

 いやおかみさんがカツアゲなんてするようには到底見えないんだけど。


「憑かれている者同士ちょっとお話しない?」


 憑かれているもの同士……。それはおかみさんにも何かが憑いているってことになるんですが……。


「あなたにももう見えてるんでしょ?」

「いや俺霊感ないんで」

「え?」


 俺の即答が意外だったのかおかみさんは予想外だったのか目を丸くしてこちらを見つめてくる。


 いやそんな感じで見られてもないものはないし、見えないものは見えないんだからしょうがない。


「それは……無理があるんじゃないかしら? だってあの子は見えてるんでしょ?」


 確かにレイは見えてるけど、他の霊的気配とか幽霊は今まで通り見えないんだから、俺には霊感がないとしか言いようがない。


 なんでレイが見えて会話出来て触ってる風なことまでできるのか説明しろって言われたら説明はできないけど。


 それに……

「俺は別に憑かれてるわけじゃないと思いますよ」


 あくまでおかみさんに言われて俺が出した結論は、だけど。


「それも無理があるんじゃないかしら? あれだけ密着していていつも一緒にいるんでしょ?」


 おかみさんは俺が支離滅裂なことを言っていると思っているのか、さすがの営業スマイルも崩れて苦笑がにじみ出ている。


 まあおかみさんの気持ちも分からなくもないけど。


「むしろ俺の方が憑いてるんじゃないですかね。彼女に」

「え?」


「俺はずっと一人でした。家に帰って一人で飯を食べて風呂に入って寝る。それが当たり前だった。でも今はそんな生活にレイがいることが当たり前になっているんです。レイがいない生活はもう想像すらできません。何かあれば彼女のことを考えてる」


「だからそれが憑かれてるって」


「違いますよ。決してレイに求められてしているわけじゃないですから。確かにデザートとかは求められますけど、それだって俺があげたいからしてるだけ。彼女の反応が見たいからやってるだけです。それは絶対に憑かれてるからじゃないです」


「どうしてそう言い切れるの?」


「惚れた弱みです……かね。彼女が笑ってくれるなら、傍にいてくれるならある程度のことはしますよ。もちろん彼女がダメなことをしたり、俺にしてきたりしたらちゃんと怒りますよ。彼女とは対等にいたいですから。それが今の俺にとっての日常であり当たり前なんです。こう思うことに相手が人間なのか幽霊なのか、そんなことはあんまり関係ないんじゃないですかね」


 おかみさんと出会い「憑かれている」と言われてから俺がずっと考え続けてきたこと、そして行き着いた結論だ。


 おかみさんは俺が言ったことを理解しようとしてくれているのか目をつむり考えるそぶりを見せている。


「別に理解しようとしなくてもいいですよ」

「違うの。そうじゃなくてね。そういう考え方は私にはなかったから……憑いている。そうね……」


 まあ確かに霊感持っている人って少なそうだし、考え方とか自分中心になって他の誰にも意見をもらえないから考えが固まってしまうことはあるのかもしれないな。


「少し昔話をしてもいいかしら?」


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