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138話 いまさら見つめあっても……どこ見てるの?

 あまりにも豪勢な、それこそ宿泊費1000円でこんなに出してもらっていいんですか? と思わざるを得ないほどには高級老舗旅館で出てくる量の夕飯を食べ終わった後、俺はレイと部屋の中でのんびりしていた。


 まあ高級老舗旅館なんて生まれてこの方行ったことないんだけどね。


 後輩はというと、腹いっぱい食べた後すぐに風呂へと向かっていった。


 なんとこの旅館、露天風呂があるらしい。

 露天風呂があるなんて、ご飯もそうだったがやっぱりここは普通の旅館なんだろうか。


 それにしては見た目は古民家だったし、女将さんは忘れてたなんて言ってたし違和感がありすぎる。


 そもそも本当に忘れていたんだとしたらあんなに豪華な夕飯をすぐに用意できるんだろうか。

 でも俺ら以外に宿泊客がいるような様子はないしなあ。


 謎は深まるばかりで、そんなことを俺がいくら考えても答えが出るわけもないんだけど。


 謎というか問題といえばもう一つあった。

 女将さんにはレイが見えている。あの人には霊感があるのだろうか。


 でも霊感がある人に見えるのであれば、この前デパートとかに行ったときに誰かに見られててもおかしくないと思うんだよな。


 まあ仮に見えていたとしても幽霊と絡んでいる人間なんて意味が分からなくて声かけられないのかもしれないけど。


 いや俺がもしそんな状況に出くわしたら逆に声かけるけどね。意味わかんなさ過ぎて。


 そして件のレイさんはというと、寝転びながら顔を左右に動かしている。


 それだけ見ればお腹いっぱい食べて、だらけてるように見えなくもないんだけど……。


 え? 後輩がいる中でレイも夕飯を食べられたのかって?


 そりゃもう食べてましたね。

 方法は簡単。俺の膝の上に彼女が座って俺は食べている風を装ってその前にレイの口の中に消えていく。


 ええ、実に簡単なことですよ。目の前で美味しそうな食材たちが消えていくのを食べてるふりしながら見てるのは、ちょっとむなしかったけど。


 まあそれでレイが笑顔で満足げに頬張ってたからプラマイゼロなんですけどね! むしろプラス!


 まあそんな感じでお腹いっぱいになったレイはさっきから寝転んでるわけだけど。


 左右に首を振ってるのはいいんだけどその視線の先は明らかに誰かを追ってるんだよな。


 この部屋には今俺とレイしかいないはずなのに。

 そんなレイをじーっと眺めていると視線の先に俺がいたのかばっちり目が合う。 


 見つめ合う二人。流れる沈黙。 


 いやさっきから沈黙ではあるんだけど。

 いまさら目が合ったくらいでドキドキなんてしませんよ。俺も大人ですからね。


 ……何、そんなにじっと見つめて。そんなに見つめないで。

 ドキドキしないっていうのはうそだから。ちょっとはドキッとするから。

 そんなつぶらな瞳で見つめてこないで!


 心臓が高鳴っているのを自覚しながら何となく髪の毛をいじる。

 いや別に変な格好なんてしてないつもりだし今さらではあるけど、さすがにこんなに見つめられると気にはなるじゃない?


 そんなことをしていると突然レイが俺の頭上を指さして口を開く。


「重たくない?」


 重たい……何が?

 俺は頭を振ってみたり目線を上に向けてみるが、特に違和感はない。

 もちろん重たいなんてこともない。


「見えてない?」


 だから何が? あえて口に出しては聞かないけど。

 素直なレイなら俺の問いに対して真正面から返してくるだろうから。

 俺は真実を知りたくない。真実から逃げていたい!!


「あ」 


 レイは短く声を出すとそのまま指を下ろし、視線を俺から外してまた何かを目で追い始める。


 レイに何が見えているのか、さっきまで俺の頭の上に何が乗っていたのか考えたくもないけど、何となく予想はつく。


 でも俺霊感がないからなあ。

 気配を感じるなんてこともなければ、寒気がするなんてこともない。


 何かが見えるなんてもってのほかだ。

 そういうのはレイだけで十分間に合ってる。


 ……よし、深く考えることを放棄しよう。

 さっき言ったばかりじゃないか。俺は真実から逃げると。


「風呂行ってくる」


 おもむろに立ち上がりレイの方に目を向けると、俺の言葉には反応してくれているのか気だるげに片腕をあげながらも手を振ってくれた。


「……一緒に行く?」


 俺の誘いにレイは一瞬振っていた手を止める。


「んー……いい。遊んでる」

「そか」


 一瞬迷うそぶりを見せる彼女だったが、結局また手を振り俺を見送る態勢へと戻った。

 まあ無理して連れて行ってもしょうがないしな。


 俺はレイの言い方が一人で遊ぶというニュアンスではなかったことに気づかなかったふりをしながら部屋をでた。

 レイは俺が部屋の扉を閉めるまで手を振ってくれていたが、やはりその目は俺ではなく何もない宙を見つめていた。 


 そのことをちょっと寂しく感じたとかは……ない、はず。

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