118話 とある妹とお兄ちゃん
自覚した……してしまってからのレイちゃんはあからさまにお兄ちゃんにそっけない態度をとるようになってしまった。
お兄ちゃんは理由がわからないからあたふたするしかない。
あれだけ焦っているお兄ちゃんを見るのは初めてで、本人に聞かずとも両想いなんだとみてて感じた。
まあそんな二人の様子を見て申し訳ない、余計なことをしてしまったなってちょっとは反省したけど、それでも恋愛初心者みたいな振る舞いをしていう二人を見て、楽しんでたのは正直事実かな。
お兄ちゃんが会社に行っている間にもレイちゃんはずっと悩んでいるのか、はたまた考えすぎて思考放棄していたのか、ボーっとしていることが多くなっていた。
話を聞こうかなとも思ったけど、これ以上首を突っ込んで引っ掻き回すのもどうかと思ったし、レイちゃんの頭をこれ以上混乱させると私が寒気で死んでしまいそうだったから、特にそのことに関して話すことはしなかった。
海に行こうって思ったのもこの時くらいだったかな。
もうこの時には自分が抱えている問題とかストレスとかほとんどどうでもよくなっていて、二人の距離を元に戻したい、もしくはそれよりもっと近くなってもらいたいっていう思いの方が強かった。
だから海に行けば解放感とかレア感で何とかならないかなあって思いながら、海に行くことを提案してみた。
まあそれで実際海に行ってみたら、私のテンションがバグっちゃったわけなんだけど。
なんか悠々と構えている海見たら無性に腹立ってきちゃって、それと一緒になんで私が今お兄ちゃんのところにいるのか思い出しちゃって、周りのことも気にせずに叫びまわってしまった。
そんな私が奇行にはしっていたというのに、お兄ちゃんは知らんぷり。
それはそれで腹が立って、別に全然全くかまってほしかったとかそういうわけじゃないし、二人がいちゃいちゃしているのを邪魔したかったってわけでもないけど、無性に腹が立って、たまたま近くにあったバケツを持ってお兄ちゃんに水をぶっかけてしまった。
もうあそこでタイミングよくバケツがあったのは本当に運命を感じた。
もしかして私の運命の人はバケツなんじゃないかって勘違いするレベルだよね。
まあバケツは人じゃないんだけど。
そんな不法投棄と大自然の海の力を借りて、お兄ちゃんにほぼ八つ当たりに近いことをしたっていうのに、怒って当然なのに、それでもお兄ちゃんは私に対して怒るようなことはしなかった。
むしろ私の攻撃を挑発か何かだと思ったのか、同じ方法で仕返ししようとしてくる始末だ。
正直あの時は本当はお兄ちゃんって頭のねじが外れてるんじゃなくて、ただの優しすぎる聖人か何かなのかと思った。
まあ仮にそうだとしても私がお兄ちゃんの攻撃を食らってあげる理由にもならないんだけど。
昔からどれだけお兄ちゃんが不利になるようなことをしても、八つ当たりをしてもお兄ちゃんは全く怒ることがなかった。
私が子ども扱いされているのか、それとも何もわかっていないのか。
なんかどっちもなきがするけど。
そんな関係がちょうどよく心地いいから私はついお兄ちゃんの所に逃げてきてしまうんだろう。
顔面に海水をぶっかけられたとき、頭が真っ白になるのと同時にバグっていたテンションが落ち着いて自分が冷静になっていくのを、なぜか客観的に捉えられていた。
そしてその直後のレイちゃんの奇行。
今までもお兄ちゃんに似た行動の片りんを見せてきたレイちゃんだったけど、その時の行動は本当に意味が分からなかった。
でもそんな行動を目の前で見たおかげで、どこか吹っ切れた私はすごくすっきりした。
レイちゃんもお兄ちゃんも意外と似た者同士なのかもしれない。
だから二人とも惹かれあって、たとえレイちゃんが家に住み着いた幽霊じゃなくても、出会い方が違っても二人は惹かれあっていたのかもしれないと、素直にそう感じた。
というかあの二人見てたら私が周りの人のせいで悩んでることがばかばかしく思えてくるんだよね。
あの二人はどこまでいっても、自分のペースを崩さないし、周りの目なんて多分気にしてない。
お兄ちゃんはよく自分のことを普通だっていうけど、こんな一般人がいてたまるかって思う。
普通は周りの目が気になって家ではともかく外で的外れな変な会話なんてできるはずがないもん。
そんな普通じゃないお兄ちゃんとレイちゃんを見てたら、私の悩みはちっぽけなものに思えてきて、悩まなくてもいいんじゃないかと思えた。
私は私のペースで、周りが何と言おうと夢を叶えるためなら妥協しないし、好きかっていえばいいと、そう思えた。
そういう結論に至れたのは悔しいけどやっぱりお兄ちゃんのおかげで、しかも今回はレイちゃんもいて、そんな二人がありのままの姿を見せてくれたから私も決心がついたんだと思う。
私はまたお兄ちゃんに救われてしまったわけだ。
まあ今回はお礼を言ってしまったけど、あんな反応をされるくらいだったらもう一生お礼なんて言ってあげない。
私の都合でお兄ちゃんを振り回して、頼れるだけ頼るだけだ。
すっきりした頭のまま再び窓の外に目を向ける。
高速で変化する景色の中にもう海は見えなかったけど、それでも私の目にはまだ海で遊んでいるレイちゃんとお兄ちゃんの姿が見えたような気がした。
……あー、私も早く恋がしたいなあ。
空から男の子が落ちてきたり、突然部屋に誰かが住み着いてたり……いやそれはホラーだし、普通に怖いからいいや。
青春真っ盛りなお兄ちゃんがうらやましいよ。
私は恋に全力になれるのはもう少し先かな。
今は夢を追うので精いっぱい。
でも恋をするときは、あの顔を真っ赤にしていたレイちゃんのように心の底から純粋な想いを抱かせてくれる人に出会いたい。
そんなことを考えながらどんどんと流れていく景色をボーっと眺めていた。