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116話 とある妹の独白

 電車に揺られながら窓の外へと目を向ける。

 さっきまではしゃいでいた海が目に入り、思わず頬が緩んでしまう。 


 思いっきり海水をかぶったのが顔だけとはいえ、化粧も崩れ服も濡れてしまった私は近くにあった服屋で、適当な服を買ってそのまま新幹線に乗った。


 まさか自分でもこんなに急に帰ろうと思う時が来るとは思わなかったけど、色々あって一週間もお兄ちゃんの家に居座っていたのだから、判断は遅かったのかもしれない。


 昔から私は自分の許容範囲や何かしら限界が来た時、お兄ちゃんに頼ってしまう癖がある。

 成人を迎えた大人が兄に頼るなんてって自分でも思わなくないけど、文句ひとつ言わずに受け入れてくれるお兄ちゃんにも問題があると思う。


 まあ表向きぐちぐち言ってくるけど、結局本音ではそんなこと思ってないっていうのがバレバレなんだよね。

 お兄ちゃんってホント嘘つくの下手だなあって思うけど、それは私が妹だからこそ感じることなのかしら。


 今回はさすがにお兄ちゃんのところに行っても立ち直れないんじゃないかって思ったけど、ほとんど反射的に理性が爆発すると同時にお兄ちゃんの居場所を、お母さんに聞き出していた。


 やっぱりこれは悪癖なんだと思う。

 お兄ちゃんは私を助けてくれてるなんて自覚は全くないんだと思う。


 私がいつも勝手にお兄ちゃんの懐に逃げ込んで、お兄ちゃんが私の悩みとは全然関係ない馬鹿なことをして、それを見て悩みがどこかに行ってるっていうどちらかというと、独りよがりな頼り癖なのかもしれない。

 それに悔しいことにお兄ちゃんはそんなばかばかしいことを毎回大真面目にやらかすのだ。


 しかも本人はやらかしたことに気づいていない。

 だから私はそんなお兄ちゃんを見て、自分が悩んでることなんてお兄ちゃんがしでかしていることに比べたらどうでもよくなってしまう。


 だから何もしていない人にお礼は言わないし、だからこそ今回素直になったらすごく驚かれてしまった。

 あれはちょっと心外だったな。

 私だって感謝くらいするんだから。


 むしろお兄ちゃんより饒舌なんだから、私の方が周りの人に感謝を伝えてるくらいだと思う。 

 正直今回はお兄ちゃんのところに行ってもなんの解消にもならないんじゃないかと思っていた。


 お兄ちゃんは知らないんだろうし興味もないんだろうけど、高校を卒業してから声優について学ぶために、専門学校に行っている。


 正直私がこの道を選んだのだってお兄ちゃんが高校生の時にリビングでアニメを見ていて、それに影響されたんだからお兄ちゃんはわが妹の進路くらい知っておいてほしいものだけど、どっちみちそんなことを言っても素直に聞いてはくれないだろう。


 よくよく考えてみると私は昔からお兄ちゃんに影響されやすいのかもしれない。

 アニメとか漫画にはまったのだってお兄ちゃんが持っていたのを勝手に読んだりしてからだし、高校卒業の時に都会の方で一人暮らししようって思ったのも、お兄ちゃんが先に家を出ていたから。

 別にブラコンというわけじゃないし、もちろん異性として見ているわけでもない。


 自慢じゃないけど高校生の頃私はモテた。

 いわゆるモテ期ってやつだったんだと思う。


 告白してくる人の中には高圧的な態度をとってくる人もいて、だんだんそれに嫌気がさして、そういう人に対してはお兄ちゃんの盛れに盛れている寝顔の写真をつきつけて「これよりかっこいい自信があるならいいよ」と言い返して追っ払っていた。


 お兄ちゃんは自覚してないけど、黙っていればお兄ちゃんだってそこそこのイケメンなのだ。

 本当にずっと人前では黙っていればいいのに。


 そんなお兄ちゃんの盛れている写真、まあ寝顔を撮るほどの関係って思われていたのかもあったのかもしれないけど、大抵はそれでなんとかなった。

 そういうことをしたりもしているけど、私は断じてブラコンではない。


 ブラコンが影響して今まで誰とも付き合ったことがないなんてこともない。

 単純に私のお眼鏡にかなう相手がいなかっただけ。


 なんか考えがそれてる気するけど……そうそう専門学校のことだった。

 思い出すだけで腹立つけど、私は専門学校内でそこそこ優秀だった。


 卒業前にはプロダクションとの契約も決まっていたし、学校内でされているラジオ的なパーソナリティをやっていたりもした。


 要するに夢がかなう一歩手前まで来ていたわけだけど、もちろん何もせずにここまで来たわけじゃない。

 人並み以上に努力も勉強もしてきたつもりだし、その結果得られたもの、多少運は絡むのかもしれないけど、あくまでも自分の実力で手にしたものだと自負していた。


 でも周りはそうは思わない。

 やれコネを使っただの、美貌を売って契約しただのやっかみやひがみの言葉はどうしても出てくる。

 そんなものは昔から多少なりとも言われていたことだし慣れていたから、まだ耐えることができた。


 でも学内ライブが行われることになり、私の出演が寄ってたかって無しになったときに堪忍袋の緒が切れた。

 どうして私の顔がいいというだけで、ここまでひがみを受けなければいけないのか。 


 そういうことをしている暇があるのであれば、自分磨きにでも時間を当てればいいのではないか。


 そんなことを言いたかったけど、すべてがどうでもよくなって学校に行く意味が分からなくなった私はそのまま学校を飛び出した。

 それはもうひどい精神状態で気づけばお母さんにチャットを送り、そして新幹線に乗ってお兄ちゃんの所へと向かっていた。


 今思えばこれも自分勝手な行動だと思うし、戻ったところで契約が続いているのかラジオとかはどうなっているのか正直分からない。


 ともかくそんな状態で飛び出してきちゃったものだから、お兄ちゃんのところに行っても気休めにもならないと思っていた。

 新幹線の中でちょっと冷静になったときに思ったのは、私も結構限界だったんだなって。


 まあ飛び出してきた手前、このままいかないのも後味が悪いし、新幹線代がもったいないし、結局お兄ちゃんの所に行くことにしたんだけど。


 それで家に入ってみたら、お兄ちゃんが自殺まがいな行為をしていた。

 結果的には私の勘違いだったわけだけど、あんな場面見てしまったら誰がどう見ても自害しているようにしか見えないと思う。


 焦った私はその瞬間なんでお兄ちゃんのところに来たのか、自分に何があったのか一切合切頭から吹き飛んで、お兄ちゃんを止めることに必死だった。


 この時点で私がお兄ちゃんの所に来た目的は達成しているんだから、お兄ちゃんって本当にずるいと思う。

 その最初の出来事が最高到達点だと思ったら、そうじゃなかった。


 今度はいつの間にか連れ込んでいた女の子といちゃいちゃしていた。

 しかも話を聞いたら幽霊とか言い出した。


 私が専門学校で孤独と戦っているときに本当にこの人は何をしているんだろうって、本気で思ったよね。


 やっぱりお兄ちゃんはお兄ちゃんなんだなって。そう実感したよ。


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