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115話 別れというのはいつも唐突に訪れるもの。それを受け入れ始めたころに再会するとめちゃくちゃ感動するよね。

 いや冷静に考えると別に俺は悪くないよね?

 俺から一方的に停戦するっていっただけで、べつに合戦が終わってたわけでもないし、それを抜きにしても俺の方が何倍も水を浴びているわけだし。


 奇跡的にというか、逆になんでそうなったのか疑問だけど、妹の服はほとんど濡れていない。


 全部が顔面に集中してせいぜい垂れているしずくが服を濡らしているくらいだ。

 だから被害としては全然少ないわけですよ。俺に比べれば。


「ふふっ」


 え、何怖い。


 妹はうつむいたまま肩を震わせ始めた。

 かろうじて見える口角は上がっているようにも見える。


 あまりに突然すぎておかしくなっちゃったのかな?

 俺責任持てないんだけど。めちゃくちゃ怖いんですけど。


「どーーん」


 かと思ったら今度は背後で気の抜けるような声。

 そちらを見るとなぜかレイが自分で作り上げたアイス棒タワーに体当たりして、さらさらとタワーが崩れていくさまが目に入る。


 レイは後のことを考えていなかったのか、自分に降りかかった砂を払うようにして頭をぶんぶんと振り回している。


 いや実際には一粒も砂はついてないんですけど。

 多分気分的な問題だよね。


 そして気が済んだのか頭を振り終えるとそのまま俺の方へと顔を向けた。

 何か言ってほしそうだけど……。


「えっと、なにやってんの?」


「? 満足した」


 んー……そっかあ。

 俺からすればあんな見事なタワーがいとも簡単に壊されてしまったことに多少なりとも残念な気はしなくもないけど、作成者の本人が満足しているんだったらベつにいいのかな。


 俺と妹に見せれて満足したってことかな。

 俺としては新たなランドマークタワーとして、なんなら風とか雨で崩れないくらいにしっかりと固めて新たな観光地としてもよかったと思うけど。


「あっはははははは」


 今度は何!?

 レイに気を取られていたらまた背後から声。

 今度は甲高い笑い声。


 もう俺この板挟み嫌なんだけど!?

 首動かしすぎていつか首ひねるよ絶対!


 そんなことを考えている間にも笑い声は絶え間なく耳に入ってくる。

 妹の方に顔を向けると、彼女は髪をかき上げて空を仰ぎながら大口を開けて大笑いしていた。


 とうとう本格的に狂ってしまったらしい。


 そんなに水かぶるのが嫌なんだったら、勝負なんか吹っ掛けなきゃよかったのに。

 そんなに俺からは確実に食らわないという自信があったんだろうか。


 まあ実際今までかすりもしなかったし、今のだって俺の意思に反した俺を含めた不意打ちだったけどさ。

 怒るんじゃなくてそこまで笑われると、俺としてはどうしていいかわからないんですけど。


 むしろ若干距離取りたいんですけど。

 レイの方に近づいていいですか。


「はー、お腹ちぎれる。あー……」


 今の状況を変えるにはまだお腹がちぎれるくらいのインパクトがあることが起こった方がいいかもしれないね。

 まあそんなことが起きたらいよいよ俺は妹をおいて先に帰らせていただきますけど。


「すっきりした!」


 顔も髪もびしょびしょでむしろ湿っぽくなりそうなのに、妹は満面の笑みをこちらに向けてきてそう言い切った。


 まあわかってはいたけど、別に怒ってたとかショックを受けていたとかそういうわけではないみたいだ。


「レイちゃんは可愛いし、お兄ちゃんはわけわかんないし。挙句の果てに口開けてるときに海水ぶっかけられるし」


 口開けてるのはお前があほ面晒してるのが悪いんじゃん。 

 あと背後に立って急に話しかけるからじゃん。俺だってまさかバケツからあんな勢いよく飛び出すとは思わなかったわ。


「私今回は結構メンタル来てたから、お兄ちゃんのところ行っても変わんないかなって思ったりもしたんだけど。いやあ、さすがお兄ちゃんだね」


 これは、褒められてるんだろうか?

 なんか心なしかけなされてる気もしなくもないし、なんだかその言葉を素直に受け取る気にもなれない。


 素直に受け取ったら、それはそれでなんか照れくさいし。

 いまさら何を言ってるんだか。


「んーーーー」


 俺の考えなど知ったこっちゃない妹は勝手に晴れ晴れしい表情を浮かべながら、大きく伸びをしている。


 こいつは俺のところに来たら精神が落ち込んでいてもなんとかなるって思ってるみたいだけど、まあ昔からそんな感じでからんでくることはあるけど、俺としては全然関係ないと思っている。


 全部妹が自分自身で持ち直しているだけだし、俺が何かしているということは一切ない。


「……よし。帰るね!」


 え、一人で帰るの?

 帰るねって言ってもお前うちの鍵とか持ってないじゃん。

 どうやって家に入るつもりなの。


「私は一足お先に都会に帰らせていただきますわ」


 どこの貴族だよ。都会かぶれしてるんじゃないわよ。

 というか帰るってそういうこと?

 あまりにも唐突すぎて普通に俺の家に一人で帰るのかと思った。


「その……なに? 都合よく頼ってばっかで申し訳ないけど、いつもありがとうね。お兄ちゃん」


「……自費で帰れよ」


「別にお金欲しさで言ったんじゃないよ! なんで素直に感謝を受け止めないのさ!」


 いやだってお前が素直にお礼なんて言うわけないじゃん。

 何か裏があると思って当然じゃん。今この状況で考えられることなんて帰宅費用を出せってくらいなもんじゃん。


「まあ私も大人になってお礼くらいは素直に言えるようになったってことだよ」 


 大人に、ねえ。

 レイの方に向かって歩いている妹の背中を見つめる。


 たしかに成人もしているわけだし、立派な大人なのかもしれない。

 でも俺からすれば小さい頃の妹と何ら変わりはないように見えるわけで、大人になったようには見えない。

 まあそれは向こうも同じことを俺に思ってるんだろうけど。


「レイちゃん。お兄ちゃんのことよろしくね」


「? わかった!」


 レイに俺のことお願いするってどういうこと? 俺レイにお世話されるの?

 それもいいとは思うけど、現状逆の光景しか思い浮かばないけど。

 だからレイも意味も分からずに肯定しないでね。


「さと兄もたまには実家に顔見せてあげなよ。ああ見えてお父さん寂しがってるんだから。じゃーねー」


 妹はそんな捨て台詞をはきながらひらひらと手を振りながら砂浜から去っていった。


 まるで海外ドラマのような去り方が妙に似合っているのが腹立たしい。

 ……俺も今度退勤するときに真似してみようかな。


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