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106話 もうちょっと早い時期に発言してたら全くおかしくないのに、それを言うにはちょっと遅い。

「そういえば今日どうだった?」


 珍しく自分から話題を投げる。

 一日二人で過ごしていたわけだけど、一向に妹もレイもその話をしようとしないから気になっていた。


 それとレイからなぜかずっと視線を感じていて、正直ちょっとだけ居心地が悪い。

 いやレイに見られるのは全然苦じゃないし、むしろご褒美というかずっとそこから見ていてくださいというか、たまにはこういう違った感じもいいなあとは思っているんだけど。


 なんかずっと見つめてくるって感じじゃなくて、ちらちら見られてるって感じなんだよなあ。

 それでもう一回目を合わせようとレイの方を見たら、目をそらされるし。


 そんな謎のやり取りが続いていて、しかもそんなに会話をしなかったから居心地悪く感じたのだろう。


「どうだったって言われても。普通に楽しかったよ」


 妹は鍋の中の肉をかき混ぜながら、そっけなく答える。

 レイは今はその鍋の中でぐつぐつと音を立てている肉に夢中なようで、ぽんぽんと口の中に放り込んで、こちらの話など聞いている様子はない。


 野菜もそうだけど、肉とかそういう本格的な料理って食べさせたことなかったから新鮮なんだろうな。


 これをきっかけに毎日鍋をねだられるようになるとそれはそれで困るけど、レイは一度はまったものを食べ続ける習性があるから十分あり得る話だ。


 そういえば二人は今日何しに行ったんだっけ。

 まさか土鍋を買いに行っただけではないよな。


 ショッピングって言ってたくらいだし。

 ……ああ、そうだ。服を買いに行くって言ってたっけ。


「そういえばさと兄。黙ってたでしょ」


 鍋をつつきながら妹が白い目をこちらに向けてくる。

 俺なんか忘れてたっけ。金は渡したし、レイは一緒について行ってるだろうし、他に俺から渡せるものなんかあったっけ。


「レイちゃんが人が着たものじゃないと服を着れないってこと!」


 ……あーそういえばそんな制限があったっけ。

 いや覚えてたよ? あんなことがあったんだから忘れるはずがないじゃん。


 ただ伝えるのが抜けてたというか、うっかりさんだったというか。

 というか別に妹はいいじゃん。レイと同じ女なんだから。

 別に恥ずかしい服買わなきゃ恥をかくこともないんだしいいじゃん。


「あれ、ちょっと待って。レイちゃんにそういう制限がありつつも、今女物の服が着れてるってことはもしかしてさと兄むぐ!! あっふい!!」


 妹が余計なことに気づく前に手元にあった野菜の束をつかみ、妹の口の中に突っ込む。

 涙目になりながらも口を必死に動かしながら、俺が突っ込んだ野菜たちをなんとか飲み込もうとしていた。


 そうか、まだ熱かったか。手が勝手に動いてしまったもんでな。

 せめてふーふーしてから突っ込めばよかったな。


 ただ妹よ、君がいけないんだよ。気づかなくていい真実に気づきあまつさえそれを口にしようとしたのだから。


 俺は当たり前の行動をとっただけ。

 むしろ感謝してほしいくらいだ。真実を口にせず済んだのだから。


「なにすんのよこの変態!」


 へん……たい?


「そそそそそんなことよりどんな服を買ったんだ?」


 俺は華麗に妹の言葉をスルーして会話を続ける。


「こういう時だけまともな会話をしようとするんだから。レイちゃん着替える?」 


 妹は俺をにらみつけながらもレイに話しかけるときだけは優しい口調になっている。


 しかしそれに対してレイの答えは沈黙&硬直だった。

 鍋の中を覗き込もうとでもしていたのか顔を前に突き出した状態のまま固まっている。


 どうしたんだ? 幽霊に肉って与えたらだめなんだっけ?

 そういえばレイに何でもかんでも与えてるけど本当に大丈夫なのか?


 知恵袋とかで『幽霊に食べさせてはいけないものはありますか』とか聞いたら誰か返してくれるかな。


 硬直が解けたのかレイはぎこちない動きで顔を引っ込め、縮こまるように座っている。

 どうやら肉は問題なかったようだ。よかった。


「さと兄に見せないの?」


 妹もレイの様子に違和感を持ったのか、今度はレイの方にちゃんと目を向けながら話しかけている。


 俺も鍋をつつく手を止めてレイの方に目を向けるが、彼女は俺の方をちらちらと見ながらもじもじとしている。


 こんなレイ見たことないからなんか新鮮だなあ。

 そんなことを考えていると、レイは小さく首を横に振った。


 どうやらファッションショーはしてくれないらしい。残念だ。

 しかしさすがになんかちょっと変だな。


 今度は妹の方へじっと視線を向ける。

 妹も俺の視線に気づいたのかゆっくりとこちらへと顔を向ける。


「な、なに?」


「なんかした?」


「い、いや、何かはして……ないんじゃない?」


 いや疑問形で言われても質問したのはこっちだから。

 ただ妹の言葉を信じるのであれば何もしていないらしい。実に怪しさ満点ではあるが。


 一応わが妹の言っていることだしいったん信じることにしよう。

 それならばレイは何かされたのではなく、何かあったのだろうか。


 うーん、俺もついていくべきだったのかなあ。

 それはさすがに過保護すぎるよなあ。


「多分、今は気分じゃないってことだよ。鍋食べよ鍋」


 妹はいきなり会話の流れをぶった切ると、鍋をつつきはじめる。

 うーん実に怪しい。


 妹の行動に不信感を持ちつつも、これ以上詮索しても妹は話さないだろうと察して食事を再開した。



「あのさ、さと兄」


 しばらく鍋の沸騰する音だけが続く時間が続いたあと、唐突に妹が口を開く。


「今週の休みは暇? 暇だよね」


 俺の意見を聞くつもりはないらしい。

 予定が入ってるとかって言ったらどういうつもりなんだろうな。


 というか今週末まで居座るつもりなの? そろそろ帰ったら?

 そんな俺の思考などお構いなしに妹は箸を皿の上に置き、俺の芽をまっすぐ見つめてくる。

 そして再び口を開いた。


「海行こ! 海!」

 


 ……ん? ごめん。ちょっとなんて言ってるのかわかんない。


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