第41話 私の想い ~Side 姫~
「姫ちゃーん、おっはよー。寂しかったよー」
教室に入るなり親友の由美ちゃんが抱きついてくる。
「あー。よしよし。由美ちゃんは甘えんぼなんだから」
なんて言いながら、頭を撫でてあげる。こんな朝の風景が日常になっているけど、別に女子同士で真剣に愛しあっているわけではなくて、単にじゃれているだけ。中には、本気で恋愛関係になってる子もいるけど。
「姫は、甘やかし過ぎ」
「これだと、由美は姫ちゃん離れできないよ?」
他の女友達にはそんな事を言われることもある。さすがに、由美ちゃんも冗談半分で、そんなことは無い、と思うんだけど。
◇◆◇◆
私は、三条姫。成風女学園、略して成女に通う女子高生だ。とはいっても、女子校なので、これと言って男子と接点はなかったのだけど、女子校は女子校で、男子がいるとできない話もあり、これはこれで楽しい日々を送っている。
昔から紅茶にハマっていて、色々な銘柄の紅茶やティーカップを楽しむのが、趣味だ。幼馴染の男の子には、昔、「これだから、上流階級は」なんて言われたこともあったのを思い出す。あとは、ぬいぐるみ集め。別にぬいぐるみに話しかけて遊ぶなんて趣味はないけど、可愛い系の動物のぬいぐるみを部屋に置くと気分が安らぐ。
そんな日々が変わったのが、今年の春。幼馴染の鈴木縁君から、男の子を紹介されたのだ。それも、私に一目惚れした、という衝撃的な情報を伴って。
縁君が紹介してくれた人なら、変な……彼自身がかなり変な人だけど、それはおいといて、妙な事はしないだろうと会う事になった。その男の子が結城一貴君。
会った当日の率直な印象は、純朴で内気な人だな、というものだった。縁君曰く、イケメンで同級生や下級生からキャーキャー言われてる、らしいけど、容姿を除いてはとてもそうは見えなかった。
ただ、これは誰にも言っていない事なのだけど、彼みたいに純朴なタイプは好みだったので、良かったのかもしれない。恥ずかしくて言えないのだけど、恋愛ものでも、そういうタイプの男の子がお相手の作品ばっかり買ってしまっている。
彼と私の間の奇妙な接点は、縁君という共通の友人と昔から仲が良い事だった。会った当日に緊張した時にも、彼の話をしている内に、気がつけば昔から知っている友達のような感覚に陥っていた。
それから、何度もデートを重ねて今に至る、のだけど、未だに彼から告白されていない。
以前、縁君と電話で話したときに、
「一貴君、私のことどう思ってるんだろ」
なんて事をふとこぼしてしまったことがあるのだけど、
「あいつが純情なのはわかってるだろ。もうちょっと待ってやれよ」
なんて宥められたこともある。
確かに、素の彼はそういうところがある。こないだのデートの帰りも、なんだか手を繋ぎたそうな感じだったし。そういう所がカワイイと感じちゃう辺り、私も彼の事がとっくに好きになっているんだろう。
(私の方から告白しちゃおうかな)
なんてそう思い始めていたある日の事。
「姫、今度、誕生日だろ。パーティーやろうぜ」
と、縁君が話を持ちかけてきたのだった。誕生日なんてものがあった事をその話を聞いて、ようやく思い出した私。だから、私はどこか天然入ってる、なんて言われちゃうのかな。
ただ、パーティーの参加者に、同じく幼馴染である紬ちゃん以外に、一貴君が居るのが気になった。真面目で大人しい紬ちゃんはともかく、縁君は昔っから、お節介が大好きなので、こないだみたいに、また何か企んでる気がする。
「よし、決めた!」
今度の誕生日パーティーで私の方から告白しちゃおう。いつまでも、ただ、待ってるなんて、女がすたる。それに、縁君の企みにそのまま乗っちゃうのも癪だし。
(当日はどうしようかな)
うまくタイミングを見計らって二人きりになりたいのだけど、祝ってくれる縁君や紬ちゃんに悪い気がするし。
よし、決めた。
【誕生日の夜に伝えたいことがあるんだけど、時間あるかな?】
思いついたが吉日ということで、早速、メッセージを送信してしまった。決断をするときは、先に、こうやって取り消せない行動をして、自分を追い込むのが昔からの癖だ。送ってしまったメッセージは取り消せないし、言った言葉も取り消せない。こうすれば、今更、告白しないという行動はできない。
友達に時々驚かれる、妙な思い切りの良さには、実はそんな裏があったりする。私は素だとどうしても決断しきれない事があるので、昔、縁君に相談してみたところ、そういう工夫を教えてもらったのだ。
(なんとかなるよね)
そう楽観的にとらえる。時々、それが大暴投につながるのも、きっと天然だとか言われる原因じゃないかと思うけど、それでいいや。失敗したら、その時はその時。
誕生日まであと数日。その日が来るのが待ち遠しかった。